第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その八百八十七
―――『リヒトホーフェン伯爵の人生は、複雑にして怪奇』。
『彼の愛娘について、君が知れば同情や共感を得るだろう』。
『医学界にとっての功績は、門外漢の君さえも知っているかもしれない』。
『この伯爵家の一族のおかげで、多くの治療薬が今日も完成に至るのだ』……。
―――ソルジェは戦士だから、自分が倒した敵が褒められると嬉しくなる。
リヒトホーフェンは絶対悪ではなく、いい側面も多々あった。
医学界の発展だけ見れば、『ゴルゴホの蟲使い』よりもあるかも。
リヒトホーフェン父娘は技術の秘匿を、究極的には拒まなかったから……。
―――『彼らは医学界に大きな力を与えている、私や君もその恩恵を得るかも』。
『いずれにしても、名誉ある人物と評すべき立場の方々であるが』。
『彼らもまた、祭祀呪術を求めているのだ』。
『ライザ・ソナーズ中佐の紹介が、私と私の弟子の知識を東に伝えている』……。
―――『君にとって、正しいと思える状況かは全くもって分からないが』。
『リヒトホーフェン伯爵は、大いなる力を復活させるだろう』。
『君のいる大学半島も、そして大陸の各地に対しても』。
『祭祀呪術を求める者たちのつながりが、構築されている最中だ』……。
―――『皇帝さえも畏れる、往古の時代の協力無比なる呪術』。
『世界の文脈と呼ばれる歴史的な価値観に根差した、不可避の絶対の呪いたち』。
『それのひとつを、リヒトホーフェン伯爵は復活させるのだ』。
『その名を、ギルガレア。『罪科の獣神』である』……。
―――『ここから見える『西』の土地の信仰、『トゥ・リオーネの神々』と』。
『歴史的には恐らく遠くない時代に『創られた』、ヒトの祈りに報いるための神』。
『女神イースが架空の文脈により生まれた概念で、皇帝が好むのは』。
『基本的に女神イースが実在しない神であり、哲学的衝撃しか持たないからだが』……。
「『訂正したくなるね。女神イースは、実在させられたぞ。『カール・メアー』の巫女戦士たちは、その信仰心を形にしやがったんだ』」
―――『可能性はすべてを語ってしまうから、科学においては忌避される』。
『神々の半分は、『ゼルアガ/侵略神』であるし』。
『残りの半分は、ヒトが創造した空想あるいは祭祀呪術の産物だ』。
『神々は人々の祈りにより、受肉を果たすものとも言える』……。
―――『私は、自らの知的好奇心を満たしたいだけでもあるが』。
『それと同時に、良質な研究空間の存続を心から望みもする』。
『つまりは、君の協力さえあれば、多くの願いが叶ってしまうのだ』。
『もちろん、それはライザ・ソナーズの力となり、君らの庇護の力ともなる』……。
―――『信じられないかもしれないが、これは私なりの友情だ』。
『その言葉で表現するのに、不適切が発生するのならば』。
『人類への憂い、ゆえに』。
『歴史は粘りを帯びて、いつの世の誰の世代にも強直を起こしがちだ』……。
―――『人々は新しい世の中の形を、求めているのではないだろうか』。
『私は隠者であり、歴史や社会においてはどう評価しても傍観者である』。
『だが、立場と地位のある君にはその自由さは許されないだろう』。
『だからこそ、友情や人類への憂いのために君へ選択肢を与えたい』……。
―――『帝国軍にではなく、ライザ・ソナーズに力を課すのだ』。
『ギルガレアの復活が観測されれば、神の創生プロセスはおよそ解明する』。
『世界の文脈たちがつながり合い、大いなる結実を起こすのだ』。
『つまり、『古王朝』の神々の力をもライザ・ソナーズは得るに至る』……。
―――『遠からず、そうなるのだ』。
『多くの力と意志が動き始めており、それらはすでに歴史的必然性を帯びている』。
『誰が途中で突発的なトラブルで、欠けてしまったとしても』。
『ときに誰かが代役として、下手すれば私の代役を君が果たすかもしれないが』……。
―――『皇帝ユアンダートと、彼の政治的な信条と野心によって』。
『世界は正しかろうとも悪かろうとも、確実に揺さぶられて変質している』。
『君に、選択肢を与えたいのだ』。
『歴史的必然性の果てに、私の代役となるかもしれない君に』……。
―――『積極的に参加して、この大陸の命運を握る祭祀に対して』。
『主導権というものを、その手にしておいて欲しいのだ』。
『大学半島の知恵ある賢者たちの代表が、運命に参加することを私は望む』。
『そのために、君の知識提供をお願いしたいのだ』……。
―――『率直に伝えておきたい、私はリスクも感じている』。
『我が弟子は純粋であるが、それゆえの狂気も宿してはいる』。
『その危なっかしい弟子を通して、大いなる力がライザ・ソナーズに渡る』。
『彼女だけが力を持つのは、どうにもリスクだ』……。




