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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百八十四


「自分の過去を知られるのは、心地いいものじゃないね。とくに、帝国軍人には」

「気にしないでいい。契約に、違反しないつもりだろ。互恵関係にあるのだから」

「まあ、そうだ。だから、脅しの上乗りをされるつもりはない。要件を」

「クロウ・ガート殿から送られた報告書、それが手元にあるのでは?学長宛てのものだ」




「……あるが。まさか、それを……」

「むろん、確かめにきたのだよ」

「検閲など、受けるつもりはない」

「なくてもいい。私たちの行動について、誰にも告げてくれなくていい」




「そちらの方が、君にとって都合がいいと」

「同じ言葉を、君に。我々は、互恵関係にある」

「……クロウ・ガートは呪術の達人だ。封筒を他者が開封すれば、焼き払われるかも」

「それはないよ。その種の呪術については、無効化の術を教わっているから」




―――ソルジェの右目と左眼が、嬉しそうにかがやきを深める。

求めていた情報に、ようやく手が届きそうだからさ。

シドニア・ジャンパーの、『呪術師の部分』にこそ。

ソルジェの好奇心は、集中していたからね……。




「……ほんとうに、そこの呪術師、なのか。君も……帝国軍は」

「建前がある。帝国軍において、呪術が禁止されていたとしても。それは、あくまで表向きのことだ。世の中っていうものは、それぐらいの複雑さを許容してくれるものだろう」

「やれやれ。規律違反が増えれば、どんな組織も腐敗を極めるぞ」

「それは、そちらにとって望ましい状況ではないか。学生たちは、諸兄の指導のおかげか、武装蜂起の準備をしているぞ」




「脅しの上塗りは、不要」

「知っている。そっちもだろう。帝国軍の会計将校が、どれほどの権力を占領地で発揮するものか」

「…………預かっているものを、提出しよう」

「その後、ひとつの嘘を。学長殿には、何も渡さなくていい。状況に応じて、私から、渡すことになるから」




「……それは、どういう意味だね?」

「最悪を想像しなくても、大丈夫だよ。私は乱暴が好きなわけじゃない。本当さ。軍人の割りには、血に飢えてはいない。血や名誉よりも、もっと確実な利益が好む。女というものは、そういう生き物だろう」

「私の周りの女性に、君のような脅迫者はいない」

「嘘つきだなあ。それは、ないよ。女に生まれたら、どうしたって男よりは嘘つきで、狡猾で。戦場で飛び交う鋼や血しぶきよりも、お金が好きなものだ」




―――無表情の言葉の数々は、脅しのようでもあるし。

シドニア・ジャンパーに対しての、『説明書』でもあるかのようだった。

彼女は言葉と態度のあらゆる側面を駆使しながら、伝えているのだよ。

自分がどうすれば満足してくれるのかを、哀れな脅迫の獲物に対して……。




「こうやって、主導権を得るのが帝国のやり方か。学生たちを、彼らは、まだ子供なんだぞ。それに……現・学長は偉大なお方だ。先代も偉大だが、学問的な功績では……飢えかも知れないほどなのに」

「人質には取らないさ。まだね。君らが、学生の指導を完璧に間違わなければ。その日が来るまでは、私たち帝国軍というものは、この大陸のあらゆる軍隊のなかで、間違いない、最も君らに対して敬意を払う、素晴らしい組織であり続けるよ。それが、有限のものに終わるか否かは、私たちが決めるわけじゃない。がんばりたまえ」

「……これだ。読むがいい。クロウ・ガートも、許してくれるだろう」

「許しは得ている。次の世界の、支配者からね。だから、安心したまえよ。冬は終ったと言うのに、そんなに青い顔をしているなんて。場違いだよ、チーフ」




―――シドニア・ジャンパーの目の前に、それが投げ出される。

クロウ・ガートが学長マクスウェル・クレートンに宛てた、書類。

大きな封筒のなかにあるそれは、書籍一冊分の厚みはありそうだった。

ふくらんだ封筒を守る呪術は、強烈なもののはず……。




―――二つ以上の国をまたいだ土地にさえ、呪術をつなげられる男だ。

呪術には高度な遠隔性が備わってはいるものの、高度な術者ほど性能は強い。

クロウ・ガートはソルジェとミアにより、殺害されてはいるものの。

レヴェータに祭祀呪術を教えた、ヤツの師匠だから……。




―――学べるとすれば、実りは多くなるだろう。

『生きた呪術』との対戦を見かける機会は、あまりにも少ないからね。

クロウ・ガートほどの者が、その封筒にかけた呪術。

それはさっそく、この発掘品が並ぶ乾燥した室内に現れる……。




「ひ、ひい!?」

「壁や天井を這いまわる『小さな赤い足跡』だぜ。どうするんだい、少尉?精神衛生上、どう考えても良くない光景があるよ」

「見ておきたまえ。呪術師の仕事というものを。君も、きっと、いつか呪術と対決する運命だろうから」

「オレは他人の手紙を読み漁るつもりはないよ、まあ、ないけど……したことがないとは、言わない」




「ほんとうに素直だね。それは美徳だよ。我が部下、ノヴァーク。チーフも、そう思うだろう」

「ど、どうにかできるのなら、早く。どうにかしてくれ。この部屋は、学生たちも利用するんだ。の、呪いを野放しにしてしまえば、学生たちに被害が出るかもしれない」

「ふーん。いいヤツぶるのか、いいヤツなのか」

「どっちもさ。ヒトは複雑な生き物だからね。チーフ、安心しろ。もう、読めた。この呪術は、ちゃんと無効化可能だ」




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