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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百八十二


―――レフォード大学に彼らが向かった理由は、呪術師クロウ・ガートのせいだ。

二年前に大学を去ってはいたけれど、彼の人脈はいくつもある。

ソルジェたちが調べられなかった人脈だね、発掘仕事を行う研究チーム。

クロウ・ガートはレヴェータからの援助で、研究資金は豊かだったから……。




―――本来は付き合いのなかった労働力とも、金で買収することが可能だった。

学者仲間からは嫌われる行為だったらしいが、クロウ・ガートは気にしない。

研究は金がかかるものであり、金がものを言う分野でもある。

詐欺師コンビは、発掘者たちの集まる詰め所へと向かった……。




「学生たちは、オレたちを嫌っているね。あんたひとりでやって来ていたら、絡まれていたかも」

「ボディーガードをしているつもりかな。たくましくなったものだ」

「あんた、オレが兵士たちにボコられているところ、見ただろ?」

「殺される寸前だったな。それでも、野良犬みたいに噛みついていた。弱々しく、心の底では怯えていたように見えたが」




「弱さについて分析し過ぎるのは、意味ないことだ。オレは、つまり。意外と、勇敢だってことさ。あんたの部下として、相応しいだろう。度胸があるって要素は」

「おしゃべりな点もな。さて、彼らは……まだか」

「授業でも長引いてるのかも。研究者たちって、学生の相手なんてしなくちゃならないらしいから」

「……研究に没頭できれば、もっと学問は進むのだろうが。戦争の、悪いところではある」




―――詐欺師ではあるが、知識に対してはどん欲さがあるようだ。

まあ、学者たちが考えているような美徳ではないだろうけれどね。

シドニア・ジャンパーが求めているのは、詐欺師らしく自分に有益かどうかだけ。

道具としての学問さ、それも悪いことではないけれど……。




―――不良少年のノヴァークと同じように、彼女も世の中を攻撃したがっている。

詐欺師の特徴かもしれないし、くしくも政治家にも似ていた。

政治力のためではなく、ただただお金のために。

科学への好奇心は平和や社会の発展ではなくて、我欲を満たすための方法模索だ……。




―――利己的な詐欺師は、それでも乾燥した木箱のなかに並ぶ発掘品を見つめる。

それらは古王朝時代の発掘品たちで、歴史的な価値が隠れているかもしれないものだ。

無価値な歴史の遺産だって数多くあるから、専門性がなければ価値は見えない。

だが情熱さならば、考古学について素人である詐欺師にだって見抜ける……。




―――慎重さと丁寧さと、洗練された現場でのプロセスに従っていた。

古い赤土のなかで朽ち果てながらも、どうにか千年かそれに近しい世紀の風化に耐え。

大昔の魔銀や、陶器の欠片たちが並んでいる。

タグ付けされたそれらは、発掘場所と日付が正確に記されていた……。




「そんなものに、興味があるんだね」

「大人になればなるほど、歴史に対しての率直な興味というものが増えていくものさ」

「そんなものかな。まだガキのオレには、歴史なんてものに興味はない……」

「歴史を知れば、人をより騙せるぞ」




「マジか。それは、そう言われると。どうにも、ちょっとは興味が湧いてくる」

「人は歴史に対して、何かしらのつながりを持ちたがるものだ。それは何も歴史好きの偏屈な老人たちだけではない。この大学の主力産業が、歴史であるように、普遍的で大金を投資すると多くの者が納得できてしまう、価値あるものだ」

「つながり、ね。『プレイレス』の連中は、偉大な古王朝時代の継承者としての地位を、いつも探しているってことなのかな?」

「そうだ。誰もが誰かの子の子の子。その種の世代間のつながりに、興味を抱いてしまう。帰属意識というものが、本能的にあるのだ」




「じゃあ。本能なら、騙せるよね。再現率の高い行動なんだから。単純なパターンで、しかも、あらがいがたい。詐欺の罠を仕掛けるには、ちょうどいいわけか」

「財宝探しを建前に組織された、調査機関は数多くある。騎士団や、役人たちの組織。夢見がちな金持ちの施設組織もだ」

「歴史へのコンプレックスを使えば、詐欺が可能……しかし財宝探し、か」

「若者にも、歴史への好奇心ぐらいあるらしくて、お姉さんは安心したよ」




「金目の財宝についてさ。財宝、実際のところ。ハナシは聞く」

「『西』にも、その種の物語は多くあるらしいからね」

「さっすがだね。あんた、とっくの昔に調査済みってことか。たくさんの伝説はある。実際に見つけたってハナシも……真偽は、ちょっと自信が持てないけど」

「『西』には大陸北西部から、多くの亜人種種族や、人間族の一団も移入してきた。『プレイレス』から、逃げ落ちた政治家や、追放された軍人も数多い。外からの集団が、かなり入植してきた歴史がある。軍資金や、犯罪で得た金を隠している場合だってあるさ。数が多いとまでは、言えないが」




「うちの父親たちも、探そうとしていた」

「知っている。調べているから。エルフ族の埋蔵金。帝国軍との戦いに使おうとしていたようだが、賢明な判断をしたようだ」

「そうだね。怪しい発掘者たちがやってきて、根拠に乏しい『発掘品』を見せた。エルフたちが使っていた魔銀……赤く錆びていたから、質が悪かったけど」

「大陸の北西部集団の魔銀は、錆びることを否定しなかった。純度の低い魔銀金属は、大量生産が可能になる。移民しなくてはならない状況では、質よりも数を取ったのだろう」




「そう。説得力は、あったらしい」

「だが、そこが怪しくもあった。いかにもらしい情報を提示し、欲望をくすぐるのが」

「詐欺の、基本だよね」

「ああ。騙されなかったのは、君の父上殿の知性のすばらしさだ。皮肉ではなく、本心から称えるべき選択だ。歴史には、嘘がつきものだから」




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