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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百七十九


―――港に着くと、春の日差しが心地よかった。

ノヴァークは父親からしつけられた通り、商人の行動をしていく。

行商人や漁師や船乗りたちの様子を見て、どんな商いが順調なのかを探っていた。

自分でも王道の商人に、戻れるような気はしていなくても……。




―――幼い頃からのしつけの通り、港の状況をしっかりと把握していく。

その癖を、ちょっと前のノヴァークなら拒絶していただろうね。

だが、今となっては詐欺のための手段として受け入れられている。

これもノヴァークにとっての成長だし、客観的に見れば堕落でもあった……。




―――自分でも理解しているからこそ、ノヴァークは自己満足を得られる。

ボス猫にでもなったかのような足取りは軽く、港の光景を見渡す顔は嬉しそうだ。

ただの反抗期にありがちな、クソガキっぽさは大いにあるものの。

すでに多くの詐欺を、シドニア・ジャンパーとしてしまっている手練れの悪人だ……。




―――主に帝国兵相手の詐欺だから、ノヴァークの心は痛んでいない。

帝国兵の給料を奪い取るなんて、むしろ英雄的な行為と言えるのだから。

『西』でも帝国でもない、どっちつかずの中途半端な立場。

それこそが、この反抗期の少年にとっては居心地が良くてたまらない場所だ……。




―――港には第九師団の支配下にある商船が、到着している。

小型の軍船も、その警備につく予定のようだ。

岩礁地帯にある『コラード』に、反乱勢力がいるからだね。

カール・エッド少佐と、アントニウスたちのことさ……。




「反乱軍があきらめ悪く、孤島でサバイバルをしているわけだ。海賊に、堕ちながら」

「ゲリラに身をやつしてまで、自分たちの意志を貫く者たちもいるのだよ」

「……詐欺に手を染めながら、姫様にお仕えする我々と同じように?」

「どこか似ているところはあるだろう。反逆者としての道を選ぶのは、かつていた場所から追い払われた者の自己主張だよ」




―――帝国軍第九師団、とくにグラム・シェアを敵だと認識しているところでは。

『コラード』の海賊たちと、彼女たち詐欺師に共通点はある。

だからといって、交わることはないけれどね。

ああ、『海賊たちの襲撃で物資を失った』という詐欺は何度も実行しているけれど……。




―――中海輸送を守る義務があったのは、レイ・ロッドマン大尉だ。

つまりはライザ・ソナーズの、政敵の一人だったからね。

その評判を落とすことに、シドニア・ジャンパーは積極的だったわけさ。

組織内政治の権力争いというのは、実に醜いものがある……。




―――まあ、長い目で見れば我々にとっては大きなメリットだけどね。

彼ら彼女らが内部対立してくれていたおかげで、勝機を得られたわけだ。

海に乗り出す船のなか、シドニア・ジャンパーとノヴァークは新聞を読んでいた。

自分たちが作った競馬新聞ではなく、帝国系銀行が主催する新聞社のものさ……。




―――そこに書かれてあったのは、帝国軍第七師団の崩壊について。

ルード王国が勝利した、ルード会戦についてだよ。

ボクたち猟兵たちと、クラリス指揮下のルード王国軍の戦いについてだ。

ああ、もちろんあまり良くは書かれてはいなかったね……。




―――こちらが卑劣な戦術を駆使し、魔物と協力しただとか。

策略が飛び交うのは戦場の常であるし、竜は魔物と言えば魔物だからね。

ソルジェの変装だとか、ボクの女装だとか。

敵将に化けて好き放題に暴れた結果までは、書かれてはいなかったよ……。




―――分析不足だとも言えるし、戦場の詳細がそのまま伝わるはずもない。

情報はどんどん劣化しながら、ふたりの詐欺師の目に届いた。

どんな評価をするべきなのか、シドニア・ジャンパーは迷う。

帝国軍の疲弊については、彼女は誰よりも知っていたが……。




「十大師団が、初めて負けた……か」

「どう考えるべきかな?オレは、誤報だと思っていたけれど……実際は、本当だったみたいだね。帝国系の新聞まで、書いてしまっているから」

「十大師団同士にも、対立関係はある」

「じゃあ。これは、誤報?」




「……いいや。信じがたいことではあるが、名もなき小王国の軍が、帝国軍の主力の一角を倒してしまった。戦争とは、そもそも……不確定なところもある」

「何かが、変わってしまったのかな?」

「今のところは、それほど大きな変化ではない。無数の勝利のなかの、ただひとつの敗北に過ぎないから。だが……これは、構造的な問題だろう」

「つまり、帝国軍全体が弱くなってきている」




「戦争をし過ぎているし、侵略して奪った土地の経営にも、失敗が見え始めているのも確かだ。兵站が弱体化していなければ、軍勢の主力が負けたところで、追加の援軍で対応すれば良かったのだが……後方支援のための軍が、動けなかった」

「バルモアを警戒してのことだね。東の果ての彼らは、そもそも数が多い……反乱を起こせば、帝国にとって最も厄介な敵になる」

「そのあたりを、計算されて突かれた」

「……なるほど。帝国にも、限界がある。それが、よく分かったよ」




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