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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百六十七


―――『彼』は、目の前にいる男をにらみつけた。

見下ろすような形で、罵ろうとしたようだね。

商人の子にありがちだけど、『自分の父親みたいだ』と考えたのかも。

反抗的な息子を殴ることだって、そりゃ父親ならあり得るから……。




―――殴るべきときに殴れなくなるから、ヘタレは困ったものだ。

何もしないから、やすやすと反撃される。

殴っておけば、戦う必要はなくなったのに。

罵っておけば、優位性を示してやめられたかもしれない……。




「『戦場で、敵の待ち伏せに遭ったなら。右でもいい。左でもいい。どっちでもいいから突撃しろ、と言われるのは。お前のような目に遭うからだ。どんな戦術にも欠点があるし、利点もある。だが、いちばんサイアクなのは決まっている。何も選べないことだ。痛みで、教訓を学ぶといい。舌を噛まないように、あごを閉めてろ』」




「この!!若造が!!シドニア・ジャンパーの傭兵め!!女狐だ、あいつはオレたちが家族のために仕送りしたはずの金を、う、奪ったかもしれないんだぞ!?」

「……敵の、い、言い分だろ。そんな言葉を、信じるんじゃない」




「『感心してやれるよ。詐欺師の片棒を担いでおきながら、その態度とは。お前は、本当に。殴られるに値するガキじゃある。オレがそいつの立場だったら、お前はもう八つ裂きにされちまっているぞ』」

「ストラウス卿、情報源を死なせてはならない」

「メイウェイ殿、ストラウス卿ならば大丈夫でしょう。善き呪術師とは、視野の広さがある。ストラウス卿の目と眼は、ずいぶんと幅広く世界を見つめておられる」

「『ひるませられたな。そうだ。詐欺師は嫌いだが、それがお前たちの武器でもある。口車で敵を操ってみせろ』」




「な、何を!?」

「シドニア・ジャンパー少尉は、会計将校だぞ。ある程度の権限を与えられているし、そのせいで敵から狙われるんだ。敵の情報戦に、ハメられていると考えられないのか!?帝国軍将校と、敵の悪意ある言葉!!アンタは、どっちを信じようって言うんだ!?」

「そ、それは……ッ」

「大丈夫だ。安心しろ。シドニア・ジャンパー少尉は、過去の悪癖もあるだろう。それは、オレだって知っているよ。でも、少尉は職務に対して、誰よりも誠実だ。この土地に派遣された帝国兵を、とても大切に想っている」




「『本心とは真逆の言葉も、お前はそれだけの熱意で話せるんだな。ああ、演技でもある。演技でもあるが……願望か。お前はシドニア・ジャンパーを美化したがっているんだな。ガキらしく、あこがれた人物を崇拝したいってわけだ。想像がつく。オレも昔は、ガキだったからな』」




「……証明する、方法は、あるのかよ。シドニア・ジャンパー少尉は、かつてみたいに。仲間の金を、奪い取っているんじゃないのか!?」

「あるさ。もちろん。それは時間をかけて、問い合わせることだ」

「そんなこと、しているうちに逃げるんじゃないのか!?」

「逃げないさ。シドニア・ジャンパー少尉が、どこに逃げるって言うんだ?」




「『それについては、実に気になっているところだ。ぜひ、話して欲しい』」




「シドニア・ジャンパー少尉に、逃げ場はない。彼女は、この『西』の土地でキャリアの再起を願っている。後ろ盾も、獲得された。いや、されていた……」

「その後ろ盾っていうのは、ライザ・ソナーズ中佐か?」

「その通り。だが」

「中佐は戦死なされた。プレイレスでの戦いで、魔王ソルジェ・ストラウスに討たれたんだ」





「『そいつは誤解だな。ライザ・ソナーズを暗殺しようと試みたのは事実だが、オレが行ったときには殺されていた。皇太子レヴェータにな。あのクズは、愛するべきはずの女さえも、殺せてしまう極悪人だった』」




―――歴史はいつだって書き換えられるものだからね、彼女の殺人理由も歪んでいる。

ソルジェが殺したわけじゃなく、皇太子レヴェータが殺したんだ。

『本当の恋人』が別にいた婚約者に、ブチ切れたのかもしれない。

偽りの愛でもガマンすべきなのが、権力者ってものだろうにね……。




―――ときどき、いるものさ。

何もかも、自ら破滅してしまう方向に選んでしまう男というものが。

皇太子レヴェータは、その典型例にも見える。

『死んでいて良かった』と、ソルジェもボクも思っていたよ……。




「ライザ・ソナーズ中佐ではない。かつて、そうだったけれど。今の……今の、後ろ盾はね、皇太子レヴェータ殿下なんだ」




「……『はあ?バカ、言え。ぶっ殺してやっただろ。レヴェータは。何度も、何度も。しつこいぐらい、死ななかったあいつを』……クソ。まさか、いや。ありえん」

「ストラウス卿、どうした?」

「レヴェータが、生きている……そういう嘘を、吐きやがった」

「皇太子は、ストラウス卿自身の手で倒したと聞いているのだが……」




「鵜呑みにしては、いけませんぞ。あれは、詐欺師の言葉なのですから」

「それは、そうだね。ストラウス卿、口から出まかせを言われているんだ」

「……おう。そりゃ、そうだな。詐欺師め」

「詐欺師の言葉は、およそ信用に値しません。動揺を誘い、つけ込んでくる。若くても場数を踏めば、それなりの腕になるのでしょう」




「信じてくれ。皇太子レヴェータ殿下は、死んじゃいない。生き延びて、『蛮族連合』に対する復讐の機会をうかがっているんだ」



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