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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百六十三


―――『彼』はやはりハーフ・エルフであり、『逆流』を使うソルジェには分かった。

我らが猟兵にして友人、ギンドウ・アーヴィングに似ている魔力の形質。

それを嗅ぎ取っていたからね、深くつながるという感覚は好ましいものだよ。

山脈を見つめる『彼』は、そのまま視線を右に流して煙を見た……。




―――キュレネイ・チームが焼き払った森だよ、森の延焼をにらんでいる。

『彼』にとっても、好ましい状況ではなかったらしい。

それでも、さほどの感情は動かなかった。

つまり、『彼』には戦争も帝国軍もさほど興味がないのさ……。




―――やはり、どこか恨んでいる部分もあるのかもしれないね。

帝国兵どもから給料を盗むことに、抵抗がないのだから。

天性の詐欺師である可能性よりも、歪んだ欲望の持ち主の方が罪人には多い。

『彼』は立ち上がると、鏡の前で疲れ果てた自分に身なりを整えさせた……。




―――書き上げたばかりの原稿を抱え、帝国軍の拠点を歩く。

ああ、ちゃんと革の鞄のなかに隠してはいたよ。

あくまで彼らの組織ぐるみの詐欺は、秘密のままだから。

シドニア・ジャンパーの詐欺が最前線でばれたことを、まだ彼は知らない……。




「レビン大尉が流した情報を、まだ手にしていないのは不思議だな」

「伝書鳩の速さは、君らの『フクロウ』よりは遅いかもしれないが……近距離であれば、さほどの差はないはずだ」

「ハブられているのかもな。正規兵じゃない。傭兵だ。あるいは、コイツは若い」

「……見捨てられる存在だね。シドニア・ジャンパーとも、そう長い人間関係じゃないだろうから」




「女狐に恋をするもんじゃないな、若者よ」




―――若い『彼』には、自分がどれほどのリスクのなかにあるのか。

まったく分かっちゃいないみたいでね、帝国軍の拠点を歩き。

兵站を担う補給部隊の詰め所へと向かう、状況はかなり混乱していたよ。

物資を運ぶべき場所が、右往左往している状態だったからだ……。




「会計将校、シドニア・ジャンパー少尉からの命令だ。この書類を、運んで欲しい。最新の競馬結果が乗っている新聞の原版のための素材だ」

「今、運ぶべきはそんなものじゃない」

「そんなもの?あんたが、会計将校主催の競馬新聞の価値を、決められるほど偉いとは思わないんだが」

「戦争中なんだ!!しかも、どうやら……かなり、情勢は悪いらしい」




「メイウェイとかいう天才が攻めて来たところで。こんな距離の遠征なら、疲れ果てているだろう?」

「メイウェイだけじゃない。あいつだけでも十分に厄介なのに、竜騎士がやって来たらしい」

「竜騎士、ソルジェ・ストラウス……最強の傭兵」

「『蛮族連合』における、最強の傭兵だ。見ろ。あの森は、竜によって焼かれたらしい」




―――情報の錯綜が起きているのは、悪くない兆候だった。

ゼファーの行いを過大評価してくれた方が、我々は助かる。

猟兵は目立つべきじゃない、戦場の霊長であり圧倒的な強さはあるけれど。

こっちはあくまでも少数なのだからね、敵に暗殺を仕掛けられるべきじゃない……。




―――敵どもは、あきらかに竜へおびえを強めている。

未知なる存在であり、戦い方が今もって分からないからだ。

ゼファーと戦った多くの帝国兵が、これまで死んで来ている。

弓で挑むのが有効だと帝国兵は考えているらしいが、信じられるかは別だ……。




「竜が森を焼き払うような炎を吐くのなら、どう戦えばいいのか……」

「基礎の通りだよ。空を、飛んでいるんだ。弓を使うしかない」

「弓の名手から、殺されているとも言われている」

「だとすれば、シドニア・ジャンパー少尉が仰られた『対策』は、実に正しいものなのだろう。敵が弓の名手を狙うのは、自分たちにとって脅威だからに他ならない。この原稿を、届けてくれないか」




「……ちっ。正式な書類があるなら、逆らわねえよ。どこに運ぶかは、まだ決まってはいないが。決まれば、ちゃんと運んでやる」

「中身を盗み見しないようにしてくれよ。最新の競馬の結果だ。伝書鳩によって届けられたものでね。軍事機密みたいに、秘密にされているものだ」

「……分かってる。軍人は、命令には従うんだよ。お前ら傭兵が、金に従うのと一緒だ」

「分かっちゃいないね。誰も、オレの本心を分かってくれない」




―――若者らしく、社会に不満を多く抱えているらしかった。

何に対しても、文句を言ってしまう。

ありふれた態度を持つ少年であり、それゆえに周りから怒りと受容も勝ち得た。

見た目がいいからかもしれない、若く偉そうで美形ではある……。




―――世の中には二種類いてね、美しい人物とそれほどでもない人物だ。

『彼』は間違いなく前者に属し、どこか手慣れた遊び人の性質があった。

いい加減さと軽口が許される、そんな人種に属している。

ボクやギンドウみたいな要素が、『彼』の造りのいい顔には宿っているんだよ……。




「軽口は、聞かなかったことにしてやるから。さっさと仕事に、戻れ」

「ああ。そっちもね、兵隊さんたち」




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