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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その八百五十七


―――『逆流』の呪術という概念を、ソルジェは把握しつつある。

とっくに自身が経験していたことだし、的確な指導者がいるからね。

呪術の指導を受けるのは、なかなかに稀有な機会だった。

だが、目の前にはちょうど良い人材が立っていたのさ……。




「これはレビン大尉に呪術をかけるために使ったナイフです。レビン大尉の部下でもあった兵士、私を拷問したり監視したりする役目を、そこそこ楽し気に行っていた人物だ」

「それは、あまり友好的な関係性じゃなさそうだね」

「上品過ぎる言い方だな。自分を拷問するようなヤツを、戦士は許さねえもんだ」

「ストラウス卿も、経験があるようだ」




「あるさ。ガルフ・コルテス。前団長の義理の息子。拾った子だ。そいつに、捕まっちまったことがある。ガルフがヤツを見限っていた。オレを選んだ。オレの方が顔はともかく、性格的にいいヤツだったし、猟兵として勝っていたからだ」

「嫉妬されて、痛めつけられた」

「独特な感性の持ち主でね。オレに……自分の恋人を、娼婦として派遣してくる……どういう気持ちだったのか」

「それは、何とも気持ちが悪い相手だ」




「決着をつけられて、心から嬉しいよ。相容れない相手ってのもいる。とにかく!拷問されるってのは、なかなかの屈辱だ」

「ストラウス卿は、苦痛をガマンしたでしょうな。そういう性格をしておられそうだ」

「ああ。お前も似たようなものだろう。少なくとも、復讐のための怒りは取っていた」

「ええ。その通り。拷問してきた兵士を利用し、レビン大尉や脱出のための作戦を実行させた。操るのは、そこそこ得意なのです」




「プレイガスト、その記念すべきナイフを貸してくれるか?お前とレビン大尉の脱走が、メイウェイにここまで暴れさせたわけだ」

「そういう視点から評価していただけるのは、幸いですね」

「事実だからな。さあ、そいつを」




「もちろんです。ストラウス卿、どうぞ」

「おう。ありがとうよ」

「……何を、するんだい?」

「もちろん、『逆流』の練習だよ。レビン大尉に対して、プレイガストがかけている呪術を経由し……覗き見る」




「竜に対して、ストラウス卿がしている呪術を……」

「そうさ。魔眼は、かなり器用な呪術。プレイガストの呪術を、追いかけるようにすれば、おそらく……」

「呪術とは、そこまで便利なものなのか?」

「ストラウス卿は特別。竜の力の一部を、その身に宿している呪術師など、聞いたこともない」




―――ソルジェは『ナイフの真の持ち主』を、想像した。

プレイガストに殺された死者は、居心地悪そうにしている。

じっとプレイガストを見つめる黒い影も、竜の金色の魔眼ににらまれると。

何かをあきらめたかのように、その場から消え去っていく……。




―――消え去ったあとにも、残滓が残った。

それは夕暮れ時に木から伸びるような影で、そのくせ蛇みたいにうねっている。

ソルジェは自分の思惑通りの呪術を、構成できたのだと喜んだ。

動く影は速度を上げて、少し離れたテントでレビン大尉に追いついた……。




「……オレは、傭兵になったんだ。裏切り者でもある」

「分かっていますよ、レビン大尉。護衛は、しっかりとついていますから。安心してください。そもそも、ここは『自由同盟』側の勢力なので」

「ロック。お前は、よく今までろくに関わっていない勢力に、そこまで葛藤なく合流できるよな?」

「葛藤ぐらい、ありますよ。人生が変わってしまったんですから。でも、少し。ワクワクもしています」




「ワクワクだと?こんな、戦争の最中にかよ」

「プレイガスト先生の秘書として、亜人種が隠れ住まずに済むような世界の実現に、貢献できそうなので。そういうの、ワクワクしません?歴史が変わる瞬間に、立ち合えているような?」

「そんな気持ちには、なれねえ。情報戦なんて、不慣れな行為をしまくる。裏切り者だ」

「報酬は、約束されていますよね」




「ロック、お前は意外と大物だな。金が、命の代わりになるのは……一定の範囲までだぜ」

「そう言える大尉ならば、問題なさそうなのですが」

「……明るく見えるか?今の、オレが?」

「そこまでは。怯えているのも、怖がっているのも分かります」




「なめんなよ。生き死にの覚悟ぐらいは、やっている」

「では、この状況はそれよりも大きいと。仕事からつながる、歴史的な重要性に、貴方は委縮しているのですか?」

「……知らん。だが、心細い。娼館に三日ぐらい、閉じこもりたいほどだ」

「正直ですね。娼館はありませんが、護衛は十分かと」




「……シドニア・ジャンパーは、どうやら……死ぬほど怪しいらしい」

「そのようですね。架空競馬で、帝国兵の給与をかすめ盗った」

「嘘なら、いいのに。オレは……なんて、間抜けな……命懸けで、勝ち得た金を。ふ、不正までして貯めた金を……奪われていた」

「気づけただけでも、幸いなのでは?」




「自分の、間抜けさが、悲しくなる。もっと、上等な……少なくとも、勝ち組じゃあったはずなんだ。エリートではなくとも。オレだって、命懸けで戦い、勝利をして来たんだ。十大師団以外だって、ちゃんと帝国軍なんだぞ」

「築かれたキャリアを、全て失うわけじゃありません。大尉にしかやれない情報戦を、しておられる最中です」

「ロック、お前。いいヤツだな。エルフのくせに」

「その種の発言は、あまり口に出さない方がいいものですよ」




「分かっている。オレは、もう……この道しかねえんだから」




「プレイガスト、『この呪術』、解いてやった方がいい。レビン大尉は、骨の髄まで追い詰められている」

「そうですね。保険は多くあった方がいいと、思っていましたが」

「いつでも、彼を殺せたんだな」

「……正解です。我が身を無条件に預けられるほど、レビン大尉は信用しがたい男でしたから。傲慢で、視野狭窄を起こした……追い詰められた不正軍人」




「心臓を、いつでも壊せたか。心臓の表面を取り囲むみたいに、呪術が刻まれているぞ」

「なかなか、恐ろしい真似だね」

「緊急事態でしたから。ストラウス卿、解き方が分かりますかな?」

「このナイフをバキッと折れば、良さそうだ」




「正解です。さすがは、ストラウス卿。最高の呪術師にも、なれそうです」





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