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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『ザクロアの死霊王』

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第二章    エピローグ    『昏き未来に祈った獣。』


エピローグ    『昏き未来に祈った獣。』




 ―――戦の終わりを告げたのは、やはり今度も竜の歌。


 大地にあふれた死者たちが、空へと昇るのを導くよ。


 避難していた市民も戻り、死者を嘆き、命を喜ぶ。


 夜が来て、勝利を祝う宴となった。




 ―――魔王ソルジェ!!魔王ソルジェ!!


 夜空に君の名と称号が、歌となって流れていくね。


 そうさ、今度の戦も君が勝利を招いた。


 不思議なことに、死霊さえも呼んだからね!!




 ―――ザクロアの市民は、君に敬愛と畏怖を持っている。


 二度と、君の悪口を言わないだろうね、感謝と恐怖で彼らは君に忠誠する。


 その声には、魔性が宿るとか、竜の卵から生まれたとか?


 なんだかムチャクチャ言われているけれど、君はきっと喜ぶね。

 



 ―――女王陛下の目論見は、思いのほかに成功さ。


 何かを成し遂げてくれるとは、期待はしていた。


 そのために、ディアロスの長の娘、ロロカを副官に選んだのだが。


 まさか、『ゼルアガ/侵略神』にさえ絡まれたのは想定外……。




 ―――悪運なのか、それとも幸運と呼ぶべきなのか?


 『ゼルアガ』さえも、魔王が育つエサと化した。


 恐るべき力だろう、誇らしくてたまらない。


 南の地域で噂になっている、君の新たな『あだ名』を知っているかい?




 ―――死霊を操り、失われた第四属性、『氷』を使った邪悪な男……。


 『ザクロアの死霊王』、そう呼ばれているよ。


 なんだか、まるで悪党みたい。


 それでも、魔王としては相応しい。




 ―――帝国軍は、君に二つの軍勢を破壊されたんだ。


 たった半月のあいだに、二つの師団が君に呑まれた。


 魔王の貫禄は、十分だよね。


 そう、君は、本当の『魔王』に近づいていく。




 ―――人間たちの王ではなくて、『人間ならざる者たちの王』さ。


 知っているかい?ルード王国には、君を求めて亜人の戦士が集まってきている。


 いや……助けを求めているだけかもしれないが、皆、生きるためなら剣を取る。


 ファリス帝国を打倒する……荒唐無稽に聞こえた歌が、今では形を成し始めている。




 ―――だからこそ、これから世界は暗黒を帯びるかもしれない。


 僕とクラリスは、そう考えているんだよ。


 ルードは特別な土地なんだ、もとが小さな国だしね?


 亜人種たちの商人が集まって、クラリスの祖父を大金持ちにした国さ。




 ―――クラリスは、その商人たちとの関係と絆を忘れていない。


 だからこそ、『亜人種が生きていていい国』なんだよね。


 でも……世界の多くでは、そうじゃない。


 人間には、亜人種を嫌っているヤツが多いから……。




 ―――ソルジェ、君の心は魔王ベリウスさまの作られたガルーナに在る。


 その価値観は、異端なんだよ、残念なことに。


 ……僕らは、君の力が増してしまったことで、帝国が何を企むかに気づいている。


 ……悪しき法、『血狩り』の復活と、その施行は近いだろう……。




 ―――亜人種たちへの、虐殺が始まろうとしているのさ。


 君に大いなる力が集まろうとするほどに……帝国はそれを阻むだろう。


 その手法は、残酷にして容赦なく、悲しいまでに有効だろう。


 密偵から帝国議会に出された法案のサンプルが、届いたよ。




 ―――右派議員たちは『血狩り』の復活と、その法の残酷性を増すことに躍起さ。


 亜人種への排除政策は、おぞましいほどの残酷さを帯びていくだろう。


 反乱を防ぐため、『指のいくつかを切り落とそう』という案も出ている。


 老若男女を問わずね、武器を握れなくしようとしているのさ。




 ―――僕らの『内通者』が、努力はしてくれているよ?


 『そんなことをしたら、奴隷の価値が下がってしまう、労働力が下がるだろう』。


 ……もうヒトの『欲』に訴えることで、ヒトの残酷な本性を防ぐしかないのさ。


 ……君には帝国が、どんどん狂っているように見えるかい?




 ―――でもねえ、ソルジェ……。


 君の『敵』である、『世界の大多数である人間たち』は、拍手喝采なのさ。


 亜人種の滅びと、その苦痛を心から喜んでいる。


 僕たちの正義は、『ゼルアガ』の独善的な正義と同じぐらい歪んでいるんだよ。




 ―――ソルジェ・ストラウス、僕の親友よ。


 君の祈りを叶えるためにはね、もう正義では足りないのさ。


 残念だけど、君の祈りを、君の正しさを聞いてくれるヒトは少ない。


 だから、僕は君の代わりに歌をつくるのさ。




 ―――君のやさしい祈りを、言葉に変えて、酒場と寝物語の歌にした。


 ……でもね、それだけでは世界は変えられないんだよ。


 だから、君は世界を破壊しなければならない。


 世界の秩序を破壊して、有無を言わさず自由をもたらすしかないのさ。




 ―――君の血を引く、『狭間』の子供たちが指を切られずに生きていける世界。


 それが欲しいのならね、秩序そのものであるファリス帝国を破壊するしかない。


 悲しいけれど、それが君の『祈り』に対する、世界の『答え』だ。


 僕らは行くよ、君の祈りが『本当に正しいこと』だと信じているからね。




 ―――最後まで、一緒に行くよ、君が世界を破壊し尽くすか。


 世界に君が呑まれてしまう、その日まで……。


 人間の『心』を変えるには、祈りでも、正論でもムリなんだ。


 暴力しかないんだ……それは悲しい真実だけど。




 ―――それでも、悲しかろうが現実だ。


 だからね、僕とクラリスは覚悟している。


 ソルジェ・ストラウス、君に命の限り、寄り添うよ。


 僕らの命は、君の祈り……君の力、君の正義……。




 ……行こうよ、ソルジェ。君の『未来』を掴むために!!

 



『……このもりに、こどもたちが、たくさんいるの?』


 朝まで飲み明かした日には、早朝飛行に限るなあ!!一回り大きくなったゼファーの翼を誇らしい気持ちで観察しながら、朝のクソ冷たい風を浴びてると、酔いも凍りついて砕けちまうのさ。


 ああ、ゼファーの翼長がどれだけ伸びたのか、あとで測って記録しておかないとな!!8メートル84センチから、どれだけ伸びてるのかなあ……楽しみだぜ―――って、そうだそうだ、ゼファーの質問に答えなくちゃな?


「おお!!そうだぞ!!一万とんで、四十七人!!うじゃうじゃいるなあ!!あははははははは!!」


『うん!とーっても、たくさん!!』


「おお……そーだなあ……」


『さみしくないね』


「うん。そうだ……きっと、さみしくはなかっただろうさ」


『……『どーじぇ』は、さみしい?』


「ん?いいや、そんなことはないぜ。みーんながいるからね!!」


『そうだね、みんな、なかよしだね!!』


「そう。ヒトってのは、色々なこと考え過ぎるんだよ。竜みたいに賢いわけじゃないのにさあ?んで、考え過ぎていると仲が悪くなる。自分たちの下らない小さな違いなんかを気にしちまってね?……アホをこじらせて、ケンカしちまうのさ」


『そうなんだ?』


「そうなのさ。ディアロス族、浮いてたろ?酒宴なのに、孤立してたな」


『うん。ぎりあむ、きんちょーしてた。ひとがおおすぎて、びびってたよ』


「そう。ビビるのも良くないねえ。でもさあ、ヒトって、結局バカだからさ?……ちょっとしたコトで、仲良くなれちまうんだよね?」


『そーなの?どーするの?』


「ガルフ・コルテスいわく!!」


『がるふ・こるてすいわく!!』


「みんなで酒でも呑んでたら、そのうち仲良くなっちまう―――だってよ?」


『あはは!!ほんとだ!!ぎりあむも、じゅりあんも、よっぱらったら、かたくんでうたっていたね!!』


「そう。結局、そんなもんさ。人種間の対立?ケケケ、くだらねえ!!いっしょに酒でも呑んで、細かいコトを気にしなくなるってのが、一番の解決策さ!!」


『……『どーじぇ』は、すごいねー!ものしりさんだ!!』


「んー、まあねえ。色々なヒトに、色々なことを教えてもらいながら、生きているからねえ……なあ、ゼファー?みんなが仲良い世界を、その目で見たいか?」


『うん!!』


「そっかー。さすがは、オレのゼファーだ。いい子だぜえ!!」


 オレはゼファーの首に抱きついて、両手でその太い首のつけ根をなで回す。ゼファーが楽しそうにギャフギャフ笑う。


『くすぐったい!!くすぐったいよ、『どーじぇ』っ!!』


「おー。悪いなあ、なーんか、嬉しくてなあ」


『そーなの?ぼくが、みんながなかよいせかいを、みたいと、うれしいの?』


「おお。長生きのお前なら、オレが作った未来を見守れるからね」


『うん!!みらい、みまもっていてあげるね!!』


「ああ。いい未来を、お前に残すぞ、ゼファー……なあ。だから、ゼファーよ。この森の上で、オレと一緒に祈ってくれ。歌わなくてもいい。ただ静かに、心のなかで……みんなが一緒にいてもいい世界を、夢見てくれるだけでいい」


『……うん。ぼく、いのるね、『どーじぇ』!!『どーじぇ』がつくる『みらい』が、とても、いいせかいでありますように!!』


「うん。ありがとうな、ゼファー。竜がそう言ってくれたらさ?……イケメン竜騎士サンには、不可能なんてなくなっちまうんだよ」


『そうなの!!ならね、ずーっと、いのるね!!ひゃくねんごも!!にひゃくねんごも!!『どーじぇ』たちのつくった『みらい』が、ずっとつづくように!!』




 ―――無垢なる翼は、祈るのだ。


 愚かな人類のために、愛を込めて。


 魔王のあつめた全ての色彩が、いつまでも続きますように。


 どんなにたくさんの血と涙が流れても、魔王が戦い抜けますように。




 ―――その翼は力を増して、その色は世界を守る漆黒の翼に近づいていく。


 魔王が死んだずっとずっと先までも、その偉大な竜は世界に君臨する。


 世界を金色の瞳で見守りながら、あらゆる敵をその牙で噛み殺す。


 未来の世界の偉大なる守護獣―――ゼファーは、その『自由な森』の空で祈るのだ。




 ―――そして。百年後も、二百年後も、ゼファーはこの空を自由に飛んだ。







          第二章『ザクロアの死霊王』、終わり。


          第三章『グラーセスの地下迷宮』へつづく。

第二章『ザクロアの死霊王』をお読み下さいまして、まことにありがとうございます。


第二章『ザクロアの死霊王』は、これにて完結でございます。ちょこちょこ手直しをするかもしれませんけれど……誤字脱字とか多いですし。書こうとしていたこと抜けてたりはよくありますので。


第二章は、想定よりも、かーなり長くなってしまいましたが、その分、仲間や敵についても描き込めたので、そこは満足しております。もっと短くまとめられたら良かったかなとも考えますが、そこは作者よしふみの技量の問題。今後も精進しなくてはな課題ではあります……。


とはいえ、第一章に比べて敵も書き込むことが出来たのは、嬉しかったですね。ちょっと、敵について振り返ってみますね。


・『ミストラル』……ソルジェと互角に戦えそうなライバル剣士が欲しかったので作りました。ストーリーにも絡んで来ますし、『カッコいいスケルトンの騎士』にしようとがんばりました。作中、最も純粋な『ヒト』だったかもしれません。ソルジェと剣で打ち合える敵は、今のところ彼だけですね。


・『アグレイアス』……芸術家肌の悪い神さまです。『生者を意のままに操る』。作中初の『ゼルアガ/侵略神』ですので、どういう方向性にしようか、とても迷いましたが、最終的には『猟奇殺人鬼&芸術家』みたいなキャラを目指しました。『ゼルアガ』は異常な心理を持っている、という方向性になったのは、アグレイアスのおかげです。


ソルジェへの精神攻撃や、ロロカ洗脳。そこからの対ロロカは個人的に気に入っております。


・『アリアンロッド』……『死者が意のままに動けるようにする』という権能を持っていますね。アグレイアスの反対、ということでこんな力になりました。ザクロアのアンデッドは、おおよそアリアンロッドの眷属です。作中では『醜い姿』ばかりですが、当初はやさしげな美女を『本当の姿』にしようかと考えていました。


ジャンに殺されるときに『本当の姿』に戻り、やさしげな美女の姿でジャンのことを抱きしめたら綺麗かなと思いましたが……『たくさんの腕で、たくさんの子供たちを抱きしめる』というコンセプトを全うさせた方がいいかと考え直し、終始不気味な姿でした。


でも、その不気味な姿こそが、歪んではいるものの『たくさんの子供を抱きしめる』という『死霊たちのやさしいお母さん』に相応しいかなとも思うのです。


対ジャンとの戦いは、シンプルですがドラマ性が出せたかなと。


・ザック・クレインシー……名将軍ですね。冒険モノの方向に力を入れすぎて、戦記モノとしてのネタを全く仕込めていなかったので、無理やり七話ぐらいからぶっ込みました。突貫工事でしたが、個人的に満足しています。ソルジェとは異なる正義の体現者も欲しかったのと、帝国軍に深みを与えたかったです。


・シャーリー・カイエン……もっと描き込めたら良かったと反省するところもありますが、色々と今後のために使いやすいネタの起点にはなってくれそうで良かったです。バルモア連邦へのネタですね。第一章と合わせて、帝国の内部対立ネタの伏線として出しておきたかったのです。必殺技も作ったので、いつか再登場させたいと考えております。



さて、第三章は『グラーセスの地下迷宮』となります。そのまんまですが、大きな地下のダンジョンも出そうと思います。ファンタジーものとして、ダンジョン要素が欲しいですからね。それでは、また。第三章でお会い出来ましたら、幸いでございます。


※読んでくださった『あなた』に……最新話に評価ボタンがあるようです。現時点での評価でも構いませんので、評価くださいましたら、とても嬉しく思います。

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