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09

「……ギルバートさん? 中に入らないのですか?」


 数日後のお昼過ぎ。目の前には、ドアを少し開けて中の様子を伺うギルバートさん。……どうなさったのかしら。


「あ…、カーネラさん、こんにちは。」


「こんにちは。」


 きちんと挨拶をなさるギルバートさんを習って、私も挨拶を返した。


「あのですね、えっと、中でお二人がなにをなさっているか確認しようと思いまして……」


「はぁ、そうですか。」


 ギルバートさんがなにをしているのかは、分かったけれど。


「でも、用があって来ているのですから、気にせず入ったら良いのではないですか? 遠慮する必要はないように思いますけれど……」


「それは、そうなんですけど……」


 ギルバートさんは少し顔を赤らめた。


「殿下があんなに愛情表現が表に出る方だと思っていなくてですね……」


「ああ、見ているこっちが胸焼けしそうですものね。」


 ふふ、と笑って私は言った。たしかに殿下ったら、一日中アイリス様を側から離さないって言っても過言じゃないもの。


「お二人の仲が睦まじいのは、もちろん喜ばしいことなんですが……っ、あ。」


 そこでギルバートさんは言葉を切って、目を伏せた。


「……すみません、解決したとは言え、カーネラさんにとっては、喜ばしいことじゃなかったですね。余計なことを言いました。」


「……え?」


 ああ、なるほど。


 一瞬、ギルバートさんがなにを言っているのか分からなかったけれど、理解したら、胸がじんわり暖かくなった気がする。きっとギルバートさんは、あの夜、私が素直に殿下とアイリス様を応援できないでいたことを気にして下さっているのよね?


「いいえ、ギルバートさん。私も、お二人の想いが通じ合って、とても嬉しく思っています。」


 ギルバートさんと視線が合ったから、私は微笑んだ。


「こうして、心からお二人を応援できるようになったのは、ギルバートさんのお陰です。」


「カーネラさん……」


「ありがとうございました。」


 これだけ周りに気を配れるんだから、本当にできた人だなぁと思って、感心する。


「嘘じゃないですよ? まぁ、殿下がアイリス様を泣かせるようなことがあれば許しませんけど。」


 明るい空気にしたくてちょっとふざけた感じで言うと、ギルバートさんは笑って下さった。気付いたらその笑顔に見惚れていて、私は恥ずかしくなって目をそらした。


「そういえば、カーネラさんもなにか用事ですか?」


 恥ずかしさのあまりどうしていいかわからなくなっていたら、ギルバートさんが声を掛けて下さってほっとした。


「はい。食事をお二人でとりたいとおっしゃっていたのですが、そろそろ終えられた頃だと思いますので食器を取りに来ました。」


「そうだったんですね。では、一緒に行きましょう。カーネラさんが一緒なら心強いです。」


 一緒に、と言いつつも、私に先に行けと言わんばかりの笑顔。……いや、先に行って欲しいのよね。


「ふふ。じゃあ貸し一つですね。」


「えっ?!」


 驚いているギルバートさんは気にせず、私は扉をドーンと開けた。勢いよく。


「かっ、カーネラさ…っ!!」


 中は、それはもう、あまーい空気に満ち満ちていた。


 ベッドの上に座る殿下がアイリス様を膝に乗せて、食事をさせている。どうして一時間以上前にお持ちしたものがそんなにも残っているのか疑問に思ったけれど、それを見て納得した。


「……殿下。子どもじゃあるまいし、アイリス様は自分で食べられますのに。どんな甘やかし方ですか。」


「……なんだ、居たのか。」


「お気付きいただけるよう盛大に扉を開けさせていただきましたが。」


 あいているお皿を片付けながら言うと、殿下は笑っていた。見られていたことに顔を真っ赤にされているアイリス様とは対照的。


「むしろ、殿下は病み上がりなのですから、殿下がアイリス様に食べさせてもらえばよかったでしょうに。」


「……それもそうか。……アイリス。食べさせてくれるか?」


 殿下の言葉を聞いて、失敗したと思った。何気なく言ったつもりだったけれど、殿下のツボを押してしまったような予感。


「ええっ?!」


「嫌、か…?」


「あ、いや、そうではなくて…っ」


 ああ、やっぱり。このままじゃまたお二人の世界に入ってしまわれるわ。申し訳ないけれど阻止しないと。


「さーて殿下、アイリス様が可愛いのは分かりますけれどそろそろ自重なさって下さいねー。」


 そう言いながら、私は殿下の手からお皿を奪い取る。


「…っ、お前…!」


「アイリス様、まだお召し上がりになりますか? お腹がいっぱいでしたら下げさせていただきますが。」


「えっと……」


「食べるのでしたら、部屋を移動しましょう。殿下はお仕事があるようですから。」


「は? 仕事…?」


 私がにっこり笑っているのと対照的に、申し訳なさそうな顔をしてやってきたギルバートさん。


「すみません殿下。これはどうしても殿下のサインが必要でして……」


「まさか本当に書類を持ってくるとは。……アルディーンはなにをしている。」


「色々とお忙しいようです。また後ほどおいでになるとおっしゃっていました。」


「……そうか、分かった。」


 殿下は溜め息をつくと、腕の中のアイリス様の髪に顔をうずめた。


「グレン様……無理はなさらないで下さいね…?」


「ああ、大丈夫だ。サインぐらいならそれ程疲れるものでもないしな。」


 アイリス様が殿下の髪を数回撫でると、殿下は嬉しそうに笑ってアイリス様にキスをした。


 結局お二人の世界に入ってしまわれたわ。そして私の隣には、顔を真っ赤にしたギルバートさん。


 …………うん、今日も王兄殿下ご夫婦はお幸せそうです。

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