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今回ちょっと短いですが、キリが良いのでこのまま投稿します…;
「アイリス様、おはようござーー…、アイリス様?」
次の日の朝。昨日の夜、ティナとルチルと仲良くなれたのが思いの外嬉しくて、少し浮ついた気持ちだったのが、一瞬で引き戻された。隣にあるアイリス様が使っているお部屋に入ると、ベッドはもぬけの殻だったのだ。
「アイリス様?! アイリス様!!」
どうして?! 昨日は、確かに殿下のお部屋までお送りした。帰りは殿下が送ってくださるだろうからって、安心していたのがいけなかったの…? でもまさか、こんなところで危ない目に遭うだなんて、考えもしなかった。考えもしなかったことが問題だったのだろうか。
そんな、どうしようもないことを考えつつも私が必死になってアイリス様のお名前を呼び続けていると、ドアが開いた音がした。
「あの、カーネラさん、どうかしましたか?」
「!」
そこに居たのは、まだ寝癖がついたままのギルバートさん。顔を洗って来たところだろうか。……って、そんなことを考えている場合じゃなくて…!
「ギルバートさん、アイリス様が…っ、アイリス様がいらっしゃらないんです…!」
「えっ?」
「どこかでお見かけしていませんか? 昨日の夜、何時頃殿下のお部屋を出られたのでしょう、まさか宿の中で誘拐されたりしませんよね?! どうしよう、どうしよう私…っ、私のせいで…!」
「カーネラさん、落ち着いて下さい。」
ギルバートさんの声で、思わず彼にしがみついていたことに気付いた。私は慌てて手を離す。
「…っ、すみません……」
「いえ、僕は大丈夫ですから、謝らなくて良いですよ。……一人で、不安でしたね。」
私は申し訳なくて俯いていたけれど、ギルバートさんの言葉にびっくりして、顔を上げた。
「殿下のところへ行って、昨晩奥方が何時頃お部屋に戻られたのか聞いてきます。探すのはそれからにしましょう。」
ギルバートさんは柔らかい声でそうおっしゃると、少しかがんで私と視線を合わせて下さった。
「他の二人の侍女さんにも、伝えておいて下さいね。詳しいことが分かっていないうちから、騒ぎを大きくするのは得策ではありませんから。」
「あ…っ、はい。」
こんな風に取り乱すなんて、侍女失格だ。こういう時こそ私が落ち着いて対処しなくちゃいけないのに。
「大丈夫ですよ、カーネラさん。心配しすぎないで待っていて下さいね。」
ギルバートさんは優しい表情で言ってくださったあと、私の頭を数回撫でた。私がびっくりして固まっている間に、ギルバートさんはもう部屋を出ていて。
「ーーっ、」
私はギルバートさんに撫でられた頭を抑えて、その場にへなへなと座り込んでしまってた。
大人の余裕みたいなの、初めて見せられた気がする。……なんていうか、反則だ。思っていたより大きい手だったなとか、暖かかったなとか、考えれば考えるほど恥ずかしくなるのに、どこか、安心していて。きっとアイリス様は大丈夫だって思えてきて。
ギルバートさんはいつの間にか、『頼りになる人』になっていた。
ちなみにその後、アイリス様が殿下のお部屋で殿下と一緒に寝ていたと分かって、ルチルが暴走しそうになったのをティナと必死で止めることになったっていうのは、内緒の話。




