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 ギルバートさんとお付き合いするようになったことは、まずアイリス様に報告した。自分のことのように喜んでくださって、嬉しかった。それから、ティナやルチルにも報告して、たくさんの人からおめでとうという言葉を貰った。それと同時に、みんな応援してくれていたって知って、びっくりしてしまった。私が自分の気持ちに気付く前に、みんなは分かっていたって言うんだもの。……そんなに分かりやすかったのかしら、私。

 お父さんとお母さんに手紙で報告したら、おめでとうという言葉と、お父さんは泣いていますという返事がお母さんから返ってきた。もしお休みがいただけたら、ギルバートさんと一緒に会いに行けたらいいなと思う。


 一ヶ月してから、ギルバートさんのご両親に会いに行くことになった。緊張して、固まってしまいそうだったけれど、ギルバートさんが手を繋いでいてくださるから、なんとか心を落ち着けることができた。


「まあ! まあまあまあまあ!」


 エルタリアのお家に行くと、目をキラキラ輝かせた方が迎えてくださった。きっと、もしかしなくても、ギルバートさんのお母様。


「ギルバートったら、久々に顔を出したと思ったら可愛いお嬢さんを連れてきて! あなた! あなたー! ギルバートが女の子を連れてきたわよー!」


「え、ちょっ、義母上、やめてください! 声が大きいですよ!」


「だって、ギルバートが女の子を連れてきたのよ? 一大事よ、一大事。」


 繰り広げられる親子の会話を前に、私はどうして良いか分からなくてただギルバートさんとお母様を見ることしか出来なかった。そうしているうちに、奥から足音が聞こえてきた。


「ギル! 女の子ってどういうことだ!?」


「やっと身を固めるのか!?」


「結婚式はいつだ! 式場はおさえたのか!?」


 出てきたのは、ダンディーなおじ様と、金髪のキラキラした二人の青年。皆さん、目が輝いていた。


「義父上も義兄上たちも、落ち着いてください……」


 お三方とは対照的に、ギルバートさんは頭を抱えていた。


* * *


 応接室に案内されて、エルタリア家の皆さんと一緒にテーブルを囲むことになった。わたしの目の前にはギルバートさんのお母様がおかけになっていて、ギルバートさんが私の紹介をしている間、終始素敵な笑顔を向けてくださっている。


「彼女はカーネラさんと言って、殿下の奥方付きの侍女としてフィジーライルから来てくださった方です。たった一人ラカントまで付いてきて、慣れないことも多い中でも一生懸命働いておられて……奥方思いで、かっこよくて、真っ直ぐで、可愛くて、素敵な女性です。それから……僕が、結婚を前提に、お付き合いさせていただいています。」


 ギルバートさんったら最後の言葉は私の方を見てはにかみながらおっしゃるから、思わずにやけてしまいそうになった。ギルバートさんの結婚相手として認めて貰えるかどうかがかかった大事な時なのに、にやけている場合じゃない。私は気合を入れ直して、前を向いた。


「はじめまして。カーネラと申します。貴族の出ではないですし、そもそもラカント出身でもなくて……不釣合いだと頭では分かっていますが、ギルバートさんと一緒に、生きていきたいと思いました。ギルバートさんとの交際を、認めていただけると嬉しいです。」


「えっ、カーネラさん!?」


 私が頭を下げると、隣でギルバートさんはびっくりしておられた。……私なにか、まずいことを言ったかしら?


「あ、頭を上げてください! やけに緊張していると思ったら…!」


「え……え?」


 私はなにを言われたのかよく分からなくて、首を傾げた。


「私、なにかしてしまったでしょうか…?」


 そう言うと、エルタリア家の皆さんはおかしそうに笑っておられた。


「ギルバート、貴方何て言ってカーネラさんを連れてきたの? 緊張してしまって可哀想よ。」


「すみません……僕の説明不足でした。」


「どういうことですか…?」


 私一人だけ話が見えていないようで、不安になりながらギルバートさんに尋ねた。


「その、今日は、カーネラさんが思っていたように交際を認めてもらう為に来たのではなくて、結婚相手の報告に来たんです。」


「えっ、そうなんですか!?」


 私てっきり許可をいただく為だと思って挨拶してしまった…! 恥ずかしい、どうしよう。


「ギルバートにね、結婚したい人ができたら連れて来て紹介してねって言っていたのよ。もし紹介されずにギルバートが勝手に結婚式の準備を進めて事後報告なんてされたら、結婚式のお手伝いをさせてもらえないでしょう? そんなの寂しいもの。」


 羞恥のあまり固まっていた私に、ギルバートさんのお母様は笑顔でそう言ってくださった。


「我が家は、嫁いできてくれる方の出身や身分は問わないよ。ギルバートが選んだ女性ひとなら、二人が幸せになれるよう全力で応援するだけさ。」


「ウェディングドレス、一緒に選びましょうね。」


 ギルバートさんのお父様もお母様も、何て優しいの。私は泣いてしまいそうだった。


「ギルバート、カーネラさん、おめでとう。」


「結婚祝いに欲しいものがあったら遠慮無く言ってくれ。」


 二人のお兄様も、にこにこ、まるで自分のことのように喜んでおられた。ギルバートさんの生い立ちを聞いて、どんなご家族なのか少しだけ気になっていたけれど、こんなに素敵なご家族で、安心した。泣きそうなのを我慢してありがとうございますと伝えると、皆さん笑顔で頷いてくださった。


* * *


 それから一年と少し後。ギルバートさんと私は、結婚式の日を迎えた。


 この扉を開けた向こうには、ギルバートさんが待っている。そう思うと、ドキドキしてきた。ギルバートさんのいるところまでのエスコートはエルタリアのお父様に頼んだら、式場へは一人で入るよう言われたから、このドキドキを共有できる人が側にいなくて、余計にドキドキしている気もする。

 予定の時間になったから、私は深呼吸をして足を踏み出した。扉を開けてもらって、式場に入ったらお父さんがいたからびっくりして足を止めてしまった。まさかと思って見渡すと、お母さんも、ランサスもアスタもネリアもいて、私は思わず泣いてしまった。

 エルタリアのお母様からは、ギルバートさんの本当のお母様と妹、弟さんも呼ぶとだけ聞いていたのに、フィジーライルから私の家族も招待してくださっていたみたい。私は、時間もお金もかかるから、無理して欲しくなくて呼ばなかったのに、エルタリア家が費用を出してくださったそう。もう本当に、感謝の気持ちしかありません。


「カーネラ、とても綺麗だ。きっとギルバートさんのお陰だね。……幸せになるんだよ。」


 お父さんがそう言ってくれたのに涙が止まらないから言葉が出てこなくて、私は何度も何度も頷いた。

 ギルバートさんの元へ行くと、涙を拭ってくださった後、ギルバートさんはお父さんに深くお辞儀をしていた。お父さんが慌てて顔を上げるよう言うから、なんだか可笑しくて笑ってしまった。


「ありがとう、お父さん。」


 お父さんは、笑顔で頷いてくれた。嬉しくてギルバートさんを見上げると、優しい笑顔が返ってきた。


「行きましょうか、カーネラさん。」


「はい。」


 私はギルバートさんと一緒に前を向いた。これから二人で歩いていく、第一歩。


 今日まで色んなことがあったけれど、ラカントで大好きな人たちに出会って、『生涯を共にする人』にも巡り会えて、私はとても、とても幸せです。

これでカーネラとギルバートのお話は完結となります。

お付き合いありがとうございました!

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