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お城に戻ると、アイリス様が笑顔で迎えてくださった。私がいない間、アルメリア様とお会いしたり、アマリリス様ご夫婦とお茶したりして過ごされていたみたい。もう少しフィジーライルに居られるのかと思ったけれど、そろそろラカントへ帰るということだったので、荷物まとめが始まった。
自分の荷物はそれほど多くないので後回しにして、まずはアイリス様のものから手をつける。来る時よりも増えた荷物に、少しホッとした。どうなるか分からない中フィジーライルまで来たけれど、国と国との戦争にまでならずに済んだし、陛下とアイリス様が和解されたし、良いことがいっぱいだった。だからこそ荷物も増えたんだと思うと、箱に詰めていくのも楽しくなっていた。しばらく作業を進めた後、ある程度まとまった荷物を持って部屋を出た。
「カーネラさん、持ちますよ。」
その一言と一緒に、持っていたはずの荷物のほとんどが目の前から消えた。
「えっ、ギルバートさん…!」
「どこに運べば良いですか?」
にこにこ、とても嬉しそうに聞かれて私は面食らってしまった。
「えっと、陛下からの贈り物を、先に馬車に積んでしまおうと思って……」
「奥方の荷物だったんですね。」
「そうなんです。来る時より荷物が増えてしまったので、早めに片付けないと間に合わなさそうで。」
「思っていたより、長い滞在になりましたからね。」
「はい。でも、アイリス様が幸せそうで良かったです。フィジーライルに来ていなければ、陛下とこうして親子の情を取り戻すことはできなかったはずですから。」
「本当に、良かったですね。」
ギルバートさんは、自分のことのように嬉しそうに笑っておられた。私も嬉しくて、笑顔ではいと答えた。
それからしばらく、特になにか話すわけではなかったけれど、嫌な気持ちにはならなかった。ドキドキはするけれど、ギルバートさんと一緒にいられて嬉しい。
「……フィジーライルは、とても良いところですね。」
少ししてからギルバートさんがおっしゃったので、私も口を開いた。
「そう言っていただけると嬉しいです。でも、なにかと不便なこともあったのではないですか? ラカントほど、発展しているわけではありませんから……」
「そんな風には感じませんでしたよ? ここでカーネラさんが過ごしていたのだと思うと、それだけで特別に感じるからですかね。」
「…………え?」
ちょっと待って、今、何だかとてもすごいことを言われた気がしたんだけれど気のせい…!? びっくりしてギルバートさんの方を見たけれど、にこにこ笑っておられるだけだった。さすが天然の人たらし……。
結局ギルバートさんにたくさん手伝っていただいて、出発までに荷物整理は無事に終わった。もう本当に感謝しかないです。
* * *
ラカントに到着し、陛下にご挨拶を済ませた殿下とアイリス様は、東の宮のお部屋に戻られた。お邪魔をするわけにもいかないし、自分の荷物も片付けないといけないし、ということで住み込みの侍女たちにあてがわれている宿舎の部屋に戻ると、皆が迎えてくれた。
「おかえり、カーネラ!」
「カーネラ、待ってたわ!」
「おかえりなさい!」
まさか部屋にいるとは思わなくて、しばらく言葉が出てこなかった。
「どうしたの? カーネラ、具合悪い?」
私が本当になにも言わなかったからか、ティナに心配されて我に返った。
「いいえ、そうじゃないの。どこも悪くなんてなくて……まさか皆で迎えてくれるなんて思っていなかったから、びっくりしてしまって。」
ラカントに、帰ってくる場所があるんだって実感できて、とても嬉しい。
「ありがとう。」
私が言うと、少しの沈黙の後、皆から抱きしめられた。
その後、流れでそのままお菓子を囲んでおしゃべりが始まった。話題はというと、もっぱら王妃様のご懐妊とユリウス様のお子様の誕生のことだった。
「おめでたいわよね、本当に。」
「仲がよろしいとは思っていたけれど、こんなに早くご懐妊されると思っていなかったからびっくりしちゃった。」
「そう? 私は予想通りだったわよ。」
「なんにせよ、元気なお子がお生まれになると良いわね。」
「ええ。」
「ユリウス様のお子が先に生まれるわけでしょう? じゃあ、乳兄弟になるのかしら?」
「生まれてみなければ分からないけれど、その可能性もあるわよね。」
そうか、乳兄弟か……乳兄弟となると、ユリウス様の奥様が乳母になるのかしら? なんて思いながら、私はクッキーを食べていた。
「殿下とアイリス様にも、可愛いお子が授かると良いわよね。」
「本当ね! 楽しみだわ。」
アイリス様と殿下のお子なら、きっととても愛らしいお子がお生まれになるはずだわ。と、そこまで考えた時、私は気づいてしまった。アイリス様にもしお子が生まれたら、それはつまり殿下のお子で、当然乳母が必要なはず。その子がお二人のお子の乳兄弟、ゆくゆくは従者になるとしたら……ギルバートさんなら、自分の子がと望まれるかもしれない。そうなれば、私がギルバートさんの子を産めば良いんだわ! 私と結婚するメリット、あったじゃない!
と、後から考えると自分でもびっくりなことを思いつき、私天才だわなんて思っていた。




