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「皆、ダージリンで良い?」


「ええ、ありがとうカーネラ。」


「私のにはミルクをお願いね。」


「私はお砂糖も!」


「はいはい、分かってるわ。」


 今日も一日の仕事が終わって、私たち東の宮に勤める侍女は、溜まり場になりつつある食堂にゾロゾロ集まってきた。紅茶と甘いものをつまみながらしばらく世間話をしてから、それぞれの部屋に帰っていくのが日課になっている。

 紅茶とお菓子の準備は、いつの間にか交代制が暗黙の了解になっていて、今日は私の番。お湯を沸かしている間に、お皿にクッキーを並べていく。


「はぁ、今日の殿下も素敵だったわ。」


「ああ、私にもあんな人が現れないかしら!」


「本当よね!」


 少し前まで、殿下とアイリス様が思いを通わせられるかでやきもきしていたけれど、いざ思いが通じ合うと、今度はこんな話でもちきりだった。殿下のお怪我も順調に回復しておられるようだし、お二人とも幸せそうだし、いいこと尽くしだ。


「そう言えばセレナ、この間の男の人とはどうなったの?」


「別に、どうもならなかったわ。」


「えーどうして!? 良い人そうだったのに。それに彼、事務官なんでしょう? 安定していて良いじゃない。」


「彼、私以外にも二人の女の人と食事に行っていたの。それを知って、なんだか冷めちゃって。やっぱり殿下とアイリス様を見ていたら、私一人を大事にしてくれる人がいいなって思うのよね。」


「確かにそうよね〜。その点ティナは良いわよね、あんな一途な人そうそういないわよ。」


「っ、ちょっと! 私の話はいいの!」


「え〜? そんなこと言って、今日もいらしてたでしょう?」


「何だったの? デートのお誘い?」


「な、何だっていいじゃない、気にしないでよー!」


「え〜気になる! 聞きたい!」


「私も、聞きたいな、その話。」


 紅茶の用意ができたから、皆の分を運んできた時に、思わずそう言っていた。皆の視線が集まって、なにかまずいことしたかなって、思っていたら。


「ほらー! カーネラだって聞きたがってるわ!」


 皆の目がギラギラ輝いていたから、まずいことを言ったんだわって思った。


「あの、嫌だったらいいの、ごめんね?」


「うぅ……ずるい。」


 ティナの一言に、皆の黄色い声があがった。


「やったー! ほらカーネラも座った座った。」


「う、うん。」


 私も席について、カーネラの話を待つことに。


「……ど、どこから話すの?」


「最初からよ! カーネラは初めて聞くんだから!」


「あ、あの、私、ティナと師団長様の関係が気になっていただけなの!」


 なんだかティナが顔を真っ赤にしてしまっていたから、私は思わず言っていた。


「ティナの恋人なの? それとも好きな人?」


 すると、ティナはさらに顔を赤くして、他の皆はニヤニヤしていた。……またまずいことを言ったのかしら。


「どっちでもないのよね〜?」


「え、そうなの?」


 ルチルの言い方からして、てっきり好きな人なのかと思っていたのに。


「その……エドワード様から、交際を申し込まれていると言うか、何て言うか……。」


「そうなんだ。返事はまだしていないということ?」


 私が聞くと、周りがニヤニヤし始めた。


「そうなのよね〜〜もうかれこれ一年になるのかしら〜〜?」


「えぇっ、一年!?」


「わかる! わかってる! 言いたいことはわかっているの!」


 ティナは顔を真っ赤にしていた。可愛い。


「エドワード様が嫌いとか、そういうわけじゃないし、待たせすぎだってわかってるけど、じ、自信がなくて……」


「どうして? ティナはとっても素敵よ、自信持っていいと思う。それに、師団長様は一年も一途に想ってくださっているんでしょう?」


「うぅ……そう、なんだけど。」


「私、ラカントに来て不安もいっぱいあったけど、ティナが居てくれてよかったって思うこと、何度もあったよ。ティナは優しくて気配りができて可愛くて文句のつけようがないわ! もっと自信持っていい!」


 思わず、大きい声が出てしまった。でも、言ったことは、全部本当に思っていることだ。今こうして、ラカントで皆と仲良くやっていけているのは、ティナの存在が大きいもの。もちろんルチルもだけど。


「そうよ、ティナ。それにもうすぐ二十七歳になられるエドワード様が、お遊びで侍女に声をかけるなんて考えにくいわ。きっと本気よ。」


「う、うん……ありがとう。」


 そう言って笑ったティナは、とっても綺麗だった。


「さて。ティナは次のデートあたりで何とかなりそうね。というわけで。」


 そこで言葉を切ったルチルと、目があった。私は思わず、ビスケットを取ろうとした手を止めていた。


「カーネラはどうなの?」


「…………なにが?」


 ルチルがなにを言っているか分からなかったのに、周りの皆の目が輝いていて、余計に訳が分からなくなった。み、皆どうしたの…?


「なにがじゃないわよーぅ!」


「ギルバートさんとのことよーぅ!」


「へ?」


 間抜けな声が出て、自分でもびっくりした。


「ギルバートさん? が、どうしたの?」


「最近、仲が良さそうじゃないの。」


「ええ? 仲が良いかどうかはよく分からないけど……」


 もちろん、仲が悪いとは思わないけど、だからと言って仲が良いのかと言われると、困ってしまう。ギルバートさんは同僚であって、でも私より身分が上の、爵位をお持ちの方で。仲が良いだなんて言ったら、失礼じゃない…? でも、たくさん助けてもらって感謝しているし、最近は冗談を言えるくらい心を許せているし……


「……良いお兄さん、みたいな感じ…?」


 頑張って頑張って捻り出したのに、皆に大爆笑されてしまった。


* * *


 こんな風に、穏やかな日々が続くんだと思っていた。けれど、私たち侍女の預かり知らぬところで、色々なことが起こっていたみたいで……


「ねえ、聞いた? アスカード大臣のこと。」


「聞いたわ。謀反を企んでいたなんて、本当かしら。」


「本宮で働いていた子たちが、私たちみたいな下働きに対して高圧的で嫌な感じの人だって言っていたし、そういうことを企んでいたって聞くとそうなのねって納得してしまうわ。」


「大事になる前に解決してよかったけど、怖いわね。」


 ラカントの筆頭大臣であるアスカード大臣が、謀反の疑いで捕まったらしい。アルメリア様が関わっておられたという噂も聞いて、私は少し不安になった。

 これ以上なにも起こらず、アイリス様と殿下が幸せに過ごすことができたら良いのだけれど……。

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