花咲か闘神
「そして、マリ様がこちらに来てくださったのです。今までは、男性のみが闘神を呼び、その闘神もまた男の方ばかりでした。おそらく、私が女なので、お兄様ではなく、女性のマリ様を天はおつかわしになったのでしょう」
クリスティーナの話は、いろいろと茉莉に衝撃を与えた。
自分の昨日までの人生と、怒涛のクリスティーナの人生。
暢気に湯治に出かける自分と、決死の覚悟で自分を呼ぶために荒野にやって来たクリスティーナ。
召喚後、クリスティーナを、単に最近身内を亡くした、可哀想な女の子位に思っていた自分と、そんな自分を信じていると言うクリスティーナ。
なんてこったい。
「もしも、私に何の力もなかったら…」
クリスティーナはどうなるのか。
最早、面目がつぶれるとか、つぶれないとかの問題ではなくなるのでないだろうか。
彼女の身内は殺害されたのだ。
彼女が女性で、闘神を呼べないと思われていたから今まで無事でいられたのだとしたら、きっと犯人は彼女を……。
「私はただの高校生だもん。クリスティーナを護れないよ?どうしよう」
あせる茉莉に、クリスティーナはゆったりと微笑んだ。
「マリ様の闘神としてのお力は、私には測りかねますが、特別なお力をお持ちなのは確かです。その花をご覧になってください」
先程渡された黄色い花を、言われて改めて注視する。
「あ、ごめん。茎おっちゃった」
焦るあまり、つい力が入り、クリスティーナからもらった花がくったりしている。
「この花、わが国の国花なのです。今の季節、どこででも見られるのですよ」
「へー可愛い花だよね。なんて花?」
「ミンミといいます。今朝、天幕の外に群れ咲いていました」
そういえば、地面が黄色かったような…。巻物の内容が衝撃で、よくは見ていなかったけれど。
「昨日の夕方までは、新芽のひとつもありませんでした」
「んん?」
「そもそも、あの荒野でミンミの花を見たのは、今朝が初めてです」
「へーそうなんだ。でも、どこででも咲くんでしょう?」
「そうですね。どこででも育ちますし、咲きます。水の極端に少ないあの荒野や、気温の低い高地以外でしたら」
つまり、咲かない場所で、花が咲いたと、イコール、闘神の力だというのだろうか。
「マリ様は、昨晩私を慰めてくださいました」
「……ん」
自分にとってはちょっと甘い記憶なので、茉莉はそういう場合ではないと思いつつも照れてしまう。
そういった気持ちはクリスティーナにもあるのか、彼女もちょっと視線がぎこちなくなっている。
「私に対する、そのようなお優しいお気持ちが、この花を咲かせたのだと思います」
「私の、気持ち…」
過酷な現実に、たったひとりで、立ち向かってきた彼女。こんなに可憐な姿形なのに、その生き様は雄々しい。
成すべき事を成す、その姿勢に、のんびりと生きてきた自分は、ただただ尊敬してしまう。
普段だったら、気後れしてしまうに違いない、立派な女王様だ。
でも、茉莉の前では、泣いちゃったり、今みたいに赤くなったりするクリスティーナ。
そんな彼女を思う、自分の気持ち…。
それは、言葉に言い表せないような気がする。
きゅ~んと、どきーんと、えへへと、ハラハラが混じったような。複雑なような、単純なようなその気持ち…。
知り合って間もないけれど、彼女きっと茉莉に嘘をついたりはしない。そんな確信がある。
だとすれば、この気持ちが、何か力を持っているとしたら。花を咲かせるに相応しい気もしてくる。
「クリスティーナ」
「はい」
「とりあえず、花を咲かせる力で、どうやったら暴漢から、女王様を護れると思う?」




