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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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…も?

 闘神同士が闘う、『闘神戦』には2種類ある。

 1つは国同士の合意の下、厳しくルールを決めての試合。

 もう1つは戦時戦闘。こちらはルールはないが、概ねどちらかが一時的に体の大部分を欠損し、戦闘不能になった所で勝敗が決まる。

 震えるリリーの足元、天空の花園で行われた闘神戦は、そのどちらでもない、世にも珍しい闘神同士の私闘だった。

 闘神戦にはやはり、いくばくか経験がものを言う。一度でも経験していれば、どんなものか勝手がわかるものだが、初戦でその壮絶な戦闘に勝利する事はほぼ不可能だろう。まず、同等の相手と戦闘になった事がなければ、異世界で一般人として生きてきた闘神には、自分の力の限界は計りかねるのだ。

 茉莉も、己の多くの能力の上限を今だ知らなかった。

 故に、その事をよく知る王達は、初戦の闘神に戦時戦闘をさせたくないと考える。必ず1度は負けてしまうからだ。そこで、おおよその目安で降臨から1年を過ぎた頃、友好関係にある国から申し込みを受けて試合をするのが常だ。何故1年かといえば、降臨後パワースポットめぐりだの教育だの、どの国でも闘神にさせる仕事が多いのは同じで、暗黙の了解により一応の不戦期間が設けられている。

 同じような理由で、降臨後間もない闘神のいる国に攻め入るのも不名誉とされ、この時期国境を割れば報復として、次回自国が同じ憂き目に会うのだ。そんな不の連鎖に陥るような真似をする王を、天も認めないと認識されている。実際そのせいかどうか真偽の程は定かではないが、そのような行為の後、闘神を呼べなかった王族もいたという。


「ごめんねリリーちゃんお待たせ」

 茉莉の声と共に、シャツが外され、高地の空気に触れたリリーは、青空を背に無傷で立つ茉莉を見て、安心のあまりへたり込んでしまった。

「よかった、すごい音がしていましたので、心配しました」

 その声はわずかに涙で湿っていた。

「うん。ちょっとすごかったよ。おかげで最後はほぼ裸になっちゃった、下着自分で洗っててよかったー!なくなったら相当不審だよね」

 そう言ってシャツを着ているその下は、確かに素肌だ。

「あの、ヴォルフラム様は?」

「今下で別れた。リリーちゃんによろしくねって言ってたよ」

 そう言われて、つい下を覗いたリリーは先程までのんびりお昼を食べていた花園が土が抉れて半分なくなっているのを見て愕然とした。

 荷物を背負った茉莉は、それ以上戦闘跡をリリーに見せないように、目的地に向けて飛び、その場を離れた。

 無人になった花園には、リリーのいた崖上からは見えないが、先程まではなかった真紅や赤い斑の入った花が咲いてた。大量に濡れひかるその赤の正体を知れば、リリーは今夜眠れなくなっただろう。


「それで、どうなりましたの?」

「どうって?」

「ですから、勝負の様子です」

 ヴォルフラムの言う通り、茉莉はリスティーナには秘密にできないので、人の耳のない女王の部屋に枕持参で報告に訪れていた。

 寝具に腹ばいになり、今日の体験を話すという茉莉に、最初はまた、素晴らしい景色か何かの話だと思っていたので、実は…と切り出された非常識な闘神達の行動に、最初は呆れたものの、これで茉莉の経験値も上がり、女王としては文句の言いようもないクリスティーナは、その内容が気になった。

「ヴォルフラムさんすごくいい人でね、最初から全力だったら、すぐに勝負がついて終わりの所を、私がこつを掴むまで一寸づつ馴らしてくれたの。

 普通闘神戦って得物を持って闘うんだってね?だから今日はじっくりやろうって言ってくれたの」

「徒手空拳で闘神同士が闘ったのですか…それは凄まじかったでしょうね」

 得物を持って闘えば、それなりに、闘神の体を容易に切る事が出来るので、素手よりは勝敗が早くつきやすいし、闘神の負担も少ない。

「うん。私がちゃんと負けるまで、けっこうなんていうか、時間もかかってすごかったよ」

 茉莉は自分の身に起きた事は、とても具体的にクリスティーナに言う気にはなれなかった。ヴォルフラムのおかげで、どの位この身が欠損しても戦えるか解ったが、その様子をクリスティーナに想像させるわけにはいかない。

「でも、その分すごくいい体験が出来たと思うんだ」

「そうですね…ファーナムにはひとつ貸しが出来てしまいましたね」

 茉莉の負けて尚、満足した表情に、クリスティーナは思案顔になる。

 闘神2人の判断による手合わせとはいえ、茉莉の得たものはイェシカにとっても金銭に換えられない程貴重なものだ。初戦で実戦を経験できる闘神は前出の理由によりほぼいない。得物がなかったとはいえ、次回どこかしらの国から試合の申し込みでもあれば勝ってしまう可能性もある。勝たないまでも初戦から善戦できる闘神は、計り知れない抑止力になるだろう。

「ごめんね、やっぱりマズかった?イェシカに迷惑かけたかな?」

 途端に心配顔になる茉莉にクリスティーナは首を振って笑いかけた。

「正確にはヴォルフラム様とジークフリート様にです。この件は公式にはなかった事ですもの」

「むう。そうだよね、イェシカとファーナムって仲いいの?」

「今はまずまずです。一度アキラ様の代でこちら側が攻め入られそうになりました。まあ、相手も先代だったのでヴォルフラム様も気にされてなかったのでしょう」

「もし先代の方と会ってたらどうなってたのかな」

 ヴォルフラムはとても人好きのする感じだった。先代はその父にあたるのだから、それなりに好人物だったのではないだろうか?それでも一度は敵だった相手と偶然出会うのはぞっとする話だ。

「予想もつきません…。闘神同士が偶然出会うのは本当に稀な事でしょうから。マリ様は相当な強運をお持ちですね」

「そうかなー」

「以前も密書を持った魔法使いを偶然見つけたりしましたよね」

「シンシアか~もう王様には手紙渡して上手いこと言ってくれたかな?」

「順調にいけば今日明日には王都に到着しているでしょう」

 その結果、コベットの王城でシンシア・リンドが国王から大爆笑されるとは夢にも思わない2人だった。


 リリーの灯した明かりにカバーを被せて一段部屋を暗くし、いよいよ眠ろうとした時、茉莉は今日の体験でまだ話していない事を思い出した。

「そういえばね、ヴォルフラムさんも王様大好きで面白かったよ。どこの国の闘神も同じなのかな?」

「…ヴォルフラムさんも?」

「うん」

「…も?」

「あっ!」

 茉莉としては男前のヴォルフラムがおじさんにデレデレなのが面白かったので言っただけのつもりだったが、あまりにも無意識に自分の心情も露呈してしまい、薄明かりにもわかりそうなほど赤くなり、恥ずかしくて、いたたまれなくなって上掛けに顔を隠してしまった。

 クリスティーナはその様子に、調子に乗りすぎた事を反省しつつも、微笑んでいた。

「私、どこの国の王も闘神様が大好きなんだと思いますよ」

 クリスティーナの言葉に反応して茉莉が上掛けから顔を出した。

「どこの国の王様も?」

「ええ」

「…王様だけ?」

 ちょっと茉莉は不満そうだ。

「もちろん、女王もです!」

 クリスティーナはあわてて付け加えた。

  

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