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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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闘神戦

 初の他国の闘神との対面(おまけにすごい男前)に、気安く声はかけてみたものの、茉莉もさすがに少しは緊張していた。

 彼は茉莉の呼びかけに笑顔で応え、断崖絶壁から舞い降りてくれた。

 近くで見ると、空色の髪に、瞳はアイスブルー、肌の色は茉莉より若干白く茉莉の頭2つ分背が高い。その作り物めいた容姿に似合わず笑顔は人好きがする。

 優しい目じりの皺から、二十代から三十代までのどこかの年齢ではないかと思われる。茉莉から見れば大人に分類されるが、こちらを気後れさせない独特の雰囲気を持っている。

 闘神なので異世界人なのだろうが、出身は茉莉とは違う世界のようだ。第一印象はなかなか好感が持てた。

「こんにちは、俺、ファーナムの闘神でヴォル『フラム』といいます。はじめまして」

 若干フラムの部分に力が入っているが、ファーナムの闘神はとても、とても、普通の挨拶をしてきた。

「はじめまして。イェシカの闘神で茉莉といいます」

 ここで名刺でもあれば交換していそうな雰囲気だ。

「こちら、妖精のリリーさんです」

「どうもどうもリリーさん。お昼なのに、お邪魔してごめんね」

「いえ、お気になさらず…お会いできて光栄です」

 リリーは至近距離で見るヴォルフラムの男ぶりに珍しく陶然としてしまっていた。

 

 まあ立ち話もなんだから、と茉莉たちが広げていた敷物に一緒に腰を下ろし、呼びかけ通りお弁当を分け合った。

「それにしてもすごい偶然だよね。この辺りあちこちこんなすごい景色でしょ?」

 ヴォルフラムは手を左右に振りながら花園を示す。

「で、今の季節、わりとこの辺によく来るんだけど、まさか噂のマリさんに会えるとは」

 進められたオニギリにかぶりつきながら、ヴォルフラムはなかなか意味深な事を言う。

「噂?やだ何か私噂になってるの?」

「うん。あ、これすごいモチモチしてて美味しい!何ていう料理?」

「…オニギリです」

「この蒸した穀物最高だね!」

「…コメです。それ、煮てあるんですよ」

 正確には米に似せて品種改良したこちらの穀物だ。

「これは是非ファーナムに輸入しないと…あ、こっちの外側焦げたのもすっごく美味しい!」

「…焼きオニギリです。外側は豆から作ったソースをつけて炙ってるんです」

「このオニギリ噛めば噛むほど味が出てくる。イェシカ恐るべし…このソースで巨万の富が築けるよ」

 まぐまぐとオニギリを味わう闘神は、言われなければただの食いしん坊のお兄さんだ。容姿以外はこの人が何か特別な力を持っているようにはとても思えない。

「そんなに言いたくない噂なら言わなくていいですよ?」

 茉莉がニヤリと笑って言うと、ヴォルフラムは目を丸くして首をすくめた。

「いや、可愛い闘神さんが来たっいう話しだよ?男ばっかり百人からの闘神の中で、たった一人の女の子だもん普通話題になるよね?」

「まあ、それならいいでしょう」

 茉莉が許すとヴォルフラムは明らかにほっとした顔をする。その様子に茉莉が破顔すると、

「なんか、久しぶりに普通の女の子に会った気がする」

 そう言って相好をくずした。

「えっ?そんな事言われるの初めてですよ?あーでもあなたも、普通のお兄さんな気がする!すごくかっこいいけど!」

 いつだって、茉莉は闘神様、闘神様と、期待と信頼、そしてちょっぴり恐れの混じった瞳で見られている。

 だが、闘神同士ならばそれもない。

「え?そう?そんな事言ってくれるのジークフリートだけだと思ってた」

 えへへと照れる姿がキュートで茉莉は不覚にもうっとりしかけたが、「ジークフリート?」それって男の名前っぽくね?となんだか嫌な予感に目が覚めた。

「ジークフリート様は、ファーナム国王陛下です」

 リリーが的確にそっと耳打ちしてくれる。

「…っですよねー!王様もさぞやイケメン闘神でご自慢でしょうねー!」

 ヴォルフラムお前もか!

「いやいやいや、ジークフリートの方が渋くていい男だから!」

 そう言いながら赤くなるヴォルフラムを見て、茉莉は『他人の振り見て我が振り直せ』とか『似たり寄ったり』とか『同病相憐れむ』といったような複雑な心境に至っていた。

「ちなみにジークフリート様は50代。確かにお渋いでしょう」

 リリーの解説に、なんとなく勝った!と思った茉莉を誰が責められようか…。


「そうだマリさん」

 食事も終えて、お互いの近況を語り終えた頃、まったりとした空気の中で、ヴォルフラムがふと何か思いついたように茉莉を見た。しかし「いやなんでもない」と言って、ちらりとリリーを見やる。その視線を追った茉莉は「リリーちゃんは信用できますから」と続きを促した。

「せっかくすごい偶然で出会えたんだから、手合わせしてみないかなと思って。ルール無用の実戦で」

 茉莉はその申し出を、意外とは思わなかった。それどころかいよいよ来たなと思う。

 父の残したスクロールの中にも降臨1年位で手合わせの申し込みが来るだろうと書いてあった。 

 ずい分早いが、何でもいいから受けとけと、亮の注意書きがあったので、茉莉はやる気満々で返事をしようとした。

「マリ様、国を通さず闘神が闘いますと、きっと後々問題になりますっ」

 しかし茉莉が発言する前に、リリーが止める。

「それに闘神同士の私闘は聞いたことがありません」

「そりゃそうだよ。闘神は勝手に国外に出たりしないからね。

 こうやって偶然出会うんじゃなきゃ、俺は一生マリさんと会わない可能性もあったと思うよ。

 だから秘密にしておけばいいんじゃないかな?あ、マリさんの女王様には言ってもいいよ?俺もジークフリートに秘密とか無理だし」

「私も、やってみたい!」

 闘神として、最も期待される闘神戦。

 初戦で勝利するのはまず無理と父、亮も書き残している。今ここで闘神戦を経験すれば、イェシカの国民の安全は現在の何倍にもなる。

 茉莉にとっては願ってもないチャンスだ。

「ありがとう、ヴォルフラムさん。でも、私を鍛えて王様に怒られない?」

「いいさ、実は俺も戦時戦闘の経験がないからね。こちらにも得がある」

 互いに戦闘への興奮も、恐れもない眼をして頷きあうと、ヴォルフラムは上着とズボンを脱ぎ始めた。

 ぎょっとして茉莉が半歩引くと、慌てて脱衣の説明をした。

「いやいや、これは別に変な意味で脱いだんじゃなくてね、脱いでおかないと、ボロボロの服で帰って人を心配させる事になるから」

「あ、ああ、そうか、えっ?じゃあ、私も脱いだ方がいいかな?」

「そうだね、体は元にもどるけど、服は復元できないからね」

 下着一歩手前になって、ヴォルフラムは残念そうに言う。

「マリ様、こんな所で、お怪我でもされたらいけません。やめてください」

 半裸で向かい合う2人を目の前に、リリーは半泣きだ。

「大丈夫だよ、マリさんは…妖精さんは闘神戦を見た事がないんだね。」

 ヴォルフラムが優しい声で妖精に話しかけると、妖精は素直にうなずく。

 茉莉はヴォルフラムが先程居た崖上までリリーを運ぶと自分のシャツで小さな体を隠した。

「いいって言うまで、そこから出ちゃだめだよ」

 言い含められたリリーは、はるか崖下から時折聞こえてくる、何かが硬いものがぶつかるような轟音に震えながら、ひたすら時が過ぎるのを待った。




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