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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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消えた真相

 ミンミの花の季節も終わりに近付き、若葉の色も濃くなり始めた。

 イェシカの情勢は安定し、女王の治世に人々が馴染んできた頃、事件はおきた。


「陛下、先程憲兵隊から、トーケル・ブロムクヴィストが捕らえていた牢獄で自殺したとの報告がありました」

 執務中の女王に、女王暗殺未遂の現行犯、及び王族殺害の嫌疑で憲兵隊の調べを受けていた元イェシカの貴族の死亡が知らされたのは、茉莉がその日のパワースポット巡りに出かけたすぐ後の事だった。

 使者からまず様子を聞いた女王は、折り返し、現場の責任者と、知らせを受けて検視に出向いているという憲兵隊長に登城を命じた。

 ブロムクヴィストは現行犯で逮捕されていたので、王城を出て東に位置する監獄に収監されていた。

 憲兵隊の取り調べは難航していた。女王暗殺については、単独犯で間違いなかったが、多数の王族の死や事故については、ブロムクヴィストの命令に従って手を下した者、もしくは手助けした者がいるのは明白だった。その名を聞きだそうと、厳しい聴取を続けていたが、なかなか口を割らなかった。業を煮やした憲兵隊長が女王に、このまま黙秘するようなら一族郎党を共犯で処罰する許可を得たいと3日前申し出たばかりだ。

 午前中の仕事をこなしながら、女王はブロムクヴィストの死に関して考えをめぐらせていた。

「自殺ですか、ありえなくもありませんが、今の時期まで待った理由がわかりませんね」

 ブロムクヴィストの死を知り、老臣ベッティル・エクストレームが執務室に現れ、開口一番そう言っている所へ、監獄長と憲兵隊長が入室許可を求めてきた。

「ええ、私もそう思います。ともかく、来てくれた2人に話を聞きましょう」

 エクストレームに立会いを許可し、女王はブロムクヴィストの自殺の詳細を聞く事にした。

 

 まず監獄長から報告を受ける。

「私に報告がありましたのは、朝食配膳時にブロムクヴィストの遺体が発見された直後でした。

 配膳役は警備の者と2人1組で仕事をしています。2人共確かに鍵を開けて入室したと証言しています」

「それ以前の生存確認はいつですか?」

 女王のその問いかけに、警備の者が前夜同じく2人1組で鍵を確認した時は生きていたと、澱みなく監獄長は答えた。

 自殺の方法は、扉の取っ手にシーツを裂いて作った紐で首を吊ったもので、特に不振な所はなかった事も付け加えられた。

「検視の結果も、監獄長の報告を裏付けるものです」

 憲兵隊長も自殺に疑いはないと言う。

「私が女王にお伺いを立てた件を、取り調べの時に脅しのつもりで言ったのが堪えたのかもしれません。ブロムクヴィストには領地に多くの眷族を抱えています」

 調べもまだ途中だっただけに隊長は悔しさを滲ませている。

「そうですか…でも何も言わずに死ねば、そちらに責任を転嫁させられる事を考えなかったのでしょうか」

 女王は自殺の一報を受けてから、それが気になっていた。

 既に領地は没収、貴族としての称号も剥奪されてはいるが、今だその地で多くの親類縁者が暮らしているのだ。

 家族の事を思えば、下手に嫌疑対象を増やすよりも、犯行に加わった者の名前をさっさと告げて罰を受ける方が傷も広がらないはずだ。

「そうですね、このままでは犯行に加わった可能性がある者は生涯我々の監視下に置くことになるでしょう」

 憲兵隊長は、既にそのように動くつもりでいる。

 ロムクヴィスト一族は、貴族としての称号や財産を失っただけでなく、何をするにも、憲兵隊の許可を得る不自由な生活が待っているのだ。

「報告ご苦労でした。遺体は家族に…」

「陛下、せっかくの御温情ですが、罪状の確定した犯罪があります。ブロムクヴィストは罪人として監獄の墓地に共同埋葬されます」

 女王暗殺者に慈悲を与えるほど、この国の司法は甘くはない。

 監獄長と憲兵隊長を下がらせた後、どっと疲れた女王は深く椅子に腰掛けると、大きなため息をついた。

「罪人とはいえ、人の死を耳にすると心が冷えるものです」

 エクストレームは労わるような視線を女王に向けた。

「陛下は、背後に誰かいるとお考えのようですね?」

 聡い家臣の言葉に、女王は自嘲の笑みを浮かべた。

「でも、これで手繰る糸があったのかどうかも分からなくなりました。もっとブロムクヴィストに目を配るべきだったのに…」

「憲兵隊長はそのご意向、心得て間違いのない仕事をしていたと思います。陛下は最善をつくされました。

 以後は同様の事態を防ぐべく我々家臣が努力致します。

 憲兵隊長がブロムクヴィスト一族を監視下に置くということは、手繰る糸を見つける事を放棄してはいないとお考えになってください」

 エクストレームの言葉に女王は、まだまだ人を見る目が育ってませんねと言われたような気がした。

「そうですね、私が信ずるべきは、闘神様ばかりではないのですものね」

 感謝の気持ちを込めて頷く女王に、エクストレームは恭しく礼をして退席した。


 主犯の死をもって、解決の道を絶たれたかに思えたこの事件の真相は、この後意外な結末を得る。

 そんな未来の事を知る由もない女王は、遅れた執務に取り掛かるべく、休む間もなく側近に声をかけた。

 

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