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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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クリスティーナの結婚

 クリスティーナが東屋で出迎えてくれたため、茉莉はシンシア・リンドからあずかった密書を依頼通り、誰の目にふれさせる事もなく渡せた。

 妖精リリーは、女王が手紙を開く前に、気を利かせて本来の仕事に戻って行った。

 東屋のベンチで手紙を読み終わると、クリスティーナは茉莉に手紙を回してくれた。

 その内容は、先王、兄王子、王位継承王族の死亡に関するお悔やみ、茉莉を得た事に関するお祝いが、正式に送った文書でも書きましたが、と軽く述べられ、本題に続いていた。

 驚いた事にコベットの王は、女王になったクリスティーナから、婚約破棄の手紙をもらったが、できればこのまま結婚して欲しいと言って来たのだ。手紙を持たせた使者、シンシア・リンドに了解の返事を持たせてくれれば、コベット側からもう1度正式に結婚の申し込みをすると締めくくられている。

 手紙には、子供が生まれた場合の親権の事まで生々しく書かれており、もちろん、手紙の内容で条件が合わないと思う所があれば、また使者を通じて話をつめたいと、かなり具体的にこの結婚について考えているのがうかがえた。

 読み終わって、感想を言うでもなく、ただぼうっとしてしまった茉莉に、クリスティーナは同じくベンチに座っていた茉莉の膝頭のあたりをぽんぽんと優しく叩いて正気に戻し、ちょっとした仕事を頼んだ。

「マリ様、このお手紙残らないように、この場で燃やして下さい」

「えっ、でもこれ大事な手紙じゃあ…」

「内容の大事な部分は記憶しました。マリ様もご覧になったし、もう用はありませんもの。それに手元に置いて、万が一にも人に読まれるわけにはいきませんから」

 茉莉の炎に焼かれた手紙は、燃え尽きた後、霧のように細かく粉砕して風に飛ばされた。

 その間、手紙の内容に触れないクリスティーナに、問いただしたい事がいっぱいの茉莉も、沈黙を守った。

「コベットの王からの正式な書簡の方はまだ届いておりません。きっと早馬で運ばれているのでしょうが、今頃どの辺りにいるのでしょうね?

 ふふふっさすが闘神様ですね、お返事が速すぎるとダリウス様はきっとびっくりなさるでしょう」

 口調も、表情もいつも通りのクリスティーナに、なんとなく拍子抜けした茉莉は、いろいろすっとばして一番聞きたい事を質問した。

「なんて返事するの?」

 短いながらも、全ての問が集約した言葉は、意外な答えで返ってきた。

「マリ様は、どんな返事をしたらいいと思います?」

 いつも通りの、クリスティーナの笑顔。明日の予定を聞くぐらいの軽い口調で言われて、茉莉はまたしても言葉を失った状態になる。

「急に聞かれても答えられませんよね。実は私もです。

 あのお手紙、ずい分早く届いたんですもの、お返事は今すぐではなくてもいいでしょう。

 マリ様も一緒に考えて下さいね」

「あ、あの考えるって、私が結婚した方がいいって言ったらしちゃうの?」

 ふむ、と考えるとクリスティーナはひとつ頷いて答えた。

「そうですね、元々来年には夫になる方でしたので、マリ様のご推薦ならば…してもいいと思います」 

「ふえええ!そんなぁ」

 思わず叫ぶ茉莉に、クリスティーナは笑いながらも私情を交えない現実を語る。

「マリ様、王はいつかは結婚しなければなりません。それは女王でも一緒です。

 特に近しい血縁の者が少なくなってしまった私は、子供を生す事はほぼ義務と言ってもいいでしょう」

 そんな話を聞く茉莉は、暗澹とした顔をしている。自分と同じ歳なのに、クリスティーナには結婚に対しての夢がなさ過ぎるように思えるのだ。

「ですから、マリ様も私も納得できる方なら、条件に少々難ありでもいいかな、と思います」

「難があるような人と結婚しちゃだめでしょう」

 とにかくそれは即答できた茉莉だった。

「ダリウス様の難は、やはりコベットの王であることにつきます。

 女王と王の結婚は、闘神を得た女王が私が初めてなので、前例はありません。

 おそらく、2人がずっと一緒に暮らすことは不可能でしょう。」

 単身赴任という言葉がなんとなく茉莉の頭に浮かぶ。この場合赴任しているのはどちらになるのかが謎だ。

「そうなると、子供の事も難しくなるでしょうから、これは臣下を納得させるのに苦労するでしょう」

「………」

 他人事のように話すクリスティーナに違和感はあるものの、現実逃避しているというわけでもなさそうなので、いろいろ言いたくはなるが、茉莉は大人しく聞き手に回ることにした。

「もちろん良い点もあります。ダリウス様は尊敬できる方ですし、

 強力な同盟関係になるので、国境沿いの警備を緩める事が出来るし、商業活動も円滑になる。

 あら、こうやって話していると案外いい案に思えますね」

「私は、クリスティーナがどうしたいかが大事だと思うんだけど…」

 話しぶりから、クリスティーナはもしかすると、コベットの王様と本当は婚約破棄したくなかったのかもと思えてくる。だとしたら、茉莉に何が言えるだろうか。

「…私は…どうなのでしょう。なかなかよい縁談に思えますが、先程も申しましたが、今決めろと言われても困る。そんな感じです…。

 今まで国益を考えて、良いと思える事を決断するのに、迷いなどなかったのですが、なんだか今回は即決できないのです。

 できれば、先に延ばしたいような…来年には結婚する気でいたのに不思議ですね」

「じゃあ、もうちょっと考えてみる?シンシアには悪いけど」

 やっとクリスティーナの本音が聞けたような気がして茉莉はホッとした。

「そうですね。あ、マリ様も考えて下さいね」

「うんわかった」

 どうして、クリスティーナの結婚について、茉莉が考えるのかと思いもしない所に、答えはあるのだが、まだそれには思い至らない2人なのだった。


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