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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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やればできる子

 男達を壇上中央に据えては、小刀を調べる女王を手伝いながら、茉莉は、生まれて初めてともいえる、激しい怒りに、手にした神刀の柄を力任せに握って耐えていた。

 相手は、エクストレームから闘神の守護なしと聞いて、クリスティーナを刺したのだ。

 無力な少女と思って刺したのだ。しかも確実に殺せる場所を狙って!

 恐らくは、自分の欲望のために…。

 自分達が仕掛けた事とはいえ、卑劣な相手に、憤る。


 次々と、女王に協力を感謝され、狐につままれたような顔をして、壇上から降りていく男達は真実、茉莉に力がないと信じて、クリスティーナに名誉ある廃位を求めるために、女王を偽刀で刺すふりをしただけの善意の人達だ。これほどの人数が集められたのも、家臣の総意と女王にわかって貰うためと、信じて疑わなかった。

 女王が刺されるのを止められなかったなら、さすがに茉莉を見限ってくれるだろう。とエクストレームに説得されて、この国の為にした事なので、もちろん女王も、茉莉も、何を責める気もない。問題は、エクストレームをしても、その善意の人々と、見分けのつかない程、普段はその欲望を完璧な仮面で隠していた男だ。

 その男を燻り出す可能性にかける為に、エクストレームは彼の望む状況をお膳立てした。

 国の有力者がほぼ参加し、音頭を取るのは忠臣の誉れ高かったエクストレーム。

 何か不都合が起これば、責任は彼がとるという事だ。

 前夜の打ち合わせで、女王に見立てた人形まで用意して練習させ、誰が女王を刺したか突き止められる可能性が低い事を悟らせ、偽刀を全員に持ち帰らせた。おそらくその男は、偽刀に良く似た小刀を用意したはずだ。

 女王でも、まがりなりにも、闘神を呼べる事を知った今、彼女を抹殺して以後の憂いをなくした上、エクストレームの失脚まで狙えるこのチャンス、「自分なら逃しません」と、当のエクストレーム自身が、早朝秘密裏に面会して、計画を打ち明けたときに言ったのだ。

  リリーのメッセージで呼び出された時、女王は彼こそが裏切り者で、秘密裏に呼び出して自分を暗殺でもするつもりかと思っていた。

 だが、話を聞くうちに、彼の事を疑った自分に恥じ入るばかりになった。

 エクストレームは、女王の帰還以来、仲たがいを印象付けるため、女王と闘神に極力近付かなかったし、会っても、チクリと嫌味など言ってみたりしていた。

 歳若い女王は彼の態度に、まんまと不信感を抱いていたので、それが彼女のために、憎むべき相手を誘い出すための芝居だったと聞いて、まだまだ人の心を読むには未熟な自分を痛感してしまった。

 父王の死後、なにかと自分を支えてくれた彼を深く理解しようとしていなかった証拠だ。

 彼が、女王達の態度から、相手に不振がられるのを嫌って、今日まで計画を秘密にしていたと告白しても、言い返す言葉もなかった。

 弱輩な自分を許して欲しいと頭を垂れると、

「今まで尻尾を掴ませなかった相手を騙すのですから、お若い陛下に気付かれるようでは、到底成功しないでしょう。

 御気になさらず、その内、私のする事等なんでもお見通しになってしまわれるようになりますよ」

 と、慰めているのか鞭撻しているのか、微妙な言葉をかけた。

 その謀議の後、茉莉との朝食でこの計画と、エクストレームから茉莉への依頼を伝えた。


 朝食の席で侍女長に果物ナイフを持たせ、女王に切りかかった所を止めるという技は、上手くいったのだが、剣を落とす芝居は、何度やっても、あまりにも下手すぎたので、本番ではクリスティーナはそこで一番緊張してしまった。彼女の頼もしい闘神は、まさに万能に近い力を持っているが、謀など無縁の環境で育まれて来たので、こういう事には向いていないらしい。


 クリスティーナの親族を手にかけた者を見つけ出す。

 その為のタイムリミットは、当初、闘神祭までだろうと、少女達は予測していた。

 女王にそうだったように、女性闘神の能力に懐疑的な雰囲気を利用して、人前で闘神の能力を使わないように心がけ、『相手がこちらを侮って打って出て来るのを待つ』という、かなり受動的な作戦しか2人は思いつかなかったので、期日の今朝まで、収穫はなかった。クリスティーナも、さすがに闘神を呼んだ女王に仇なす者はいないだろうと、期待はしていなかった。

 闘神祭の一連の儀式には、闘神の力を示す為のものがあるので、以後は茉莉の力を隠すこともできなくなる。


 茉莉が闘神の力をしかと自覚したのは、ミンミの花をクリスティーナからもらった直後だった。

 どうやってクリスティーナを護ればいいかと聞く茉莉に、長く考え込んだ末に彼女は、妙案を思いついたと、灯明妖精リリーを呼び寄せ、「マリ様のお力、今お見せして差し上げます」と、リリーに化粧用の剃刀を持たせ、「さあ私を切って」と命じた。

 リリーと茉莉が青くなってクリスティーナを止めると、

「昔から、闘神様が護る王は、余人に殺すことは出来ないと言われています。

 父様が怪我をなさったのを見たことがありませんし、きっと茉莉様の力で私は今も護られているはずです。だからきっとリリーに切られても、大した事にはならないでしょう」と自信満々に言った。

「陛下、そんな不敬を働く事等…私には出来かねます。どうしてもとおっしゃるなら、ご、ご自分でどうぞ」

 灯明妖精が震えながら言っても、

「実は他国では自殺した王がいると聞いたことがあって…自刃からは護れないのかも…だからお願いしているのです」

 と益々不安が募る事を言い出した。 

「大丈夫です!このミンミの花に賭けてマリ様は私の闘神様なのです。さあリリー、思い切ってやってちょうだい」

 でないと、お城の灯明妖精全員ク・ビ!などと高貴な方にあるまじき脅しで哀れな妖精を震え上がらせた。

 止めに「リリーはマリ様が信じられないのですね」と本人を目の前にして詰られる始末。

 そこまで言われて仕方なく、リリーは覚悟を決めた。小さいながらも、彼女には身に余る大きさと重さの刃物を思い切って、女王の肌に滑らせた。

 もちろん深手を負わせる程には力を入れられなかったリリーだが、差し出された手首は、悪くすれば大量の出血もありうる場所だ。恐々結果を確認した妖精と茉莉は、その柔肌に傷ひとつないのに驚いた。調子に乗って、ぎこぎこと刃をリリーが押し引きしても、赤くもならない。

「これ私のおかげ?本当に?」

 コクコクとうなずく女王と妖精。

「すごい、セコムより全然すごい!なんだあ安心したぁー」

 意味不明の感嘆の声を上げる茉莉に、クリスティーナは予想以上の結果に満足げに頷き言った

「これは闘神様の力のごく一部です。こうやって簡単な事から試していくのがいいのかもしれませんね」

 以後の道中は、茉莉の父が残した巻物と照らし合わせながら、昼間は暇なリリーと3人で闘神能力開発に勤しんだ。

 結果、茉莉はやればできる子だった。様々なびっくり能力に関心したり、あきれたりしながら、一つひとつ自分のものにしていった。

 そんな努力の成果が、今、クリスティーナの仇敵を確実に追い詰めていた。

  

 壇上に残る男は後3人。

 茉莉は犯人を目の前にしたら、何か恐ろしい事が起きてしてしまうのではないかと思い始めていた。

 自分の今の力を持ってすれば、男を罰するために、どんな残酷な方法でも、簡単に実行に移せるのだ。

 初めて与えられた力の大きさに、茉莉は怒りの波間から、ちらちらと見え隠れする不安を感じていた。


せめてサブタイトルはやわらかめにと…

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