つか温泉は?
降るような星の下。
それ以外の明かりは、円陣を描くように規則的に置かれたカンテラのみ。
その中心で、最初は溜め息のような風が巻き起こり、次第にそれは勢いを増し、円陣の中に描かれていた魔法陣を消しながら、大きく、大きくなっていった。このままではカンテラも巻き込む竜巻になると思われた直後、唐突に風はおさまり、巻き上がった土埃が、周りで固唾を呑んで様子を伺っていた人々に降りかかった。
そして沈黙。
魔方陣には召喚の祈りが込められている。
今、何者かの来訪が待ち侘びられていた。
魔法陣を特殊な儀式に則り描くのに何日もかかった。
その魔法陣を描く神官達を説得するのには、その倍の日数が費やされた。
そして、ついに約束の日ぎりぎりに、この儀式は行われた。
本当だったら、とっくの昔に、召喚した者の降臨を国中にふれまわり、虎視眈々とこの国を狙う諸外国にお披露目も終わっていたはずだ。
「契約の王が呼び声に答えられよ!」
本当だったら、この言葉を言うのは彼女ではなかった。
「我が闘神よ!出でませ!」
本当だったら、この場に立つ王は、こんなに不安な気持ちであるはずがなかった。
自分は本当にこの国の王なのか?
国を守護する闘神を呼べないのではないか?
その答えが、今出ようとしている。
とさり。
微かな音が彼女の耳に届いた。
音はその場にいた全員に届いたらしく、希望に満ちたどよめきがおこる。
彼女は祈るような気持ちで音と共に現れた、人と思しきものに駆け寄った。
「んーん?」
横たわる体に手をかけると、微かに声をもらす。
どうやら女性のようだ。
彼女は一瞬嫌な予感に震えたが、すぐに思いなおす。
自分だって女ではないか。
女性というだけで、そうではないという証拠にはならない。いや、なってはならない。
「あれーここどこ?」
ようやく正気付いたようで、暢気な声を上げる女性に、少し気持ちが緩む。
「ここはイェシカです。あなたの一族と私たち一族の契約の地です!」
「家…鹿ぁ?」
白い膝丈の外衣を着たその人は、通例通り若く、カンテラの光に浮かぶ髪の色は漆黒、瞳も同じ。
華奢な体つきだが、その強さとは別ということは、先代の闘神をよく知る彼女にはよく分かっている。
「我が闘神よ。あなたは父君のアキラ様の命に従いここにいらしたのですね?」
「ふえ?あの、はい…父は確かに亮という名前です。でも…」
女性の父の名を確認できて彼女の胸はいっぱいになった。契約はなされたのだ!
自分は王として、天に認められたのだと。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
日頃は決して、誰にも下げることのない頭を下げ、何度も礼を捧げる。
「いや、あの、父さ…父から何も聞いてないんですけど、なんで外人さん?でも日本語だし、いやでも、きんぱつ…つか温泉は?」
文章の修正が終わりましたら続きを書いていきたいと思います。
8年以上間が空きましたのでとにかく終わらせることを目標に頑張ります。




