8話目! 作戦会議
今日は遊里が月に一度の報告会にでかけており、詩依と二人きりである。
「というわけで作戦を考えます」
「おー!!」
ふたりきりである。
「で、ノリで乗っかったけど、なんの作戦よ?」
「この前外に行ったとき、芸能人かってくらい囲まれただろ?あれだとおちおち出歩いていられないなって思ってさ」
「芸能人のプライベートでもあんなに囲まれないと思うけどね〜」
「ウソでしょ・・・?」
そう言いながらポテチを箸で食べる詩依。
どうして手で食べないのか、なんて疑問は抱かないようにしている。
なぜならばそれが詩依だからである。
「ホントホント、んで蒼夢がってよりは、男が珍しいって理由であんなに集まってくるのさ。この前みたいに囲むだけでナニもしてこない連中っていうのも珍しいんだけどさ」
言葉の合間合間にポテチを挟む。
詩依の持っている袋から一枚奪い取って、相槌をうつ。
「何もしてこないのが珍しいっていうのがよく分かんないんだよな。詩依や遊里みたいに護衛の人がいるもんじゃないの?」
「チッチッチッ、甘い甘いよ蒼夢。その考えはポテチより甘い」
ポテチはもともと甘くありませんよ、なんて遊里の声が聞こえてくる。
「いい?基本的に世の中の女性は男に飢えてるの。今回、というより今まで蒼夢に襲いかかる人がいなかったのは、ほんっっっとうに、幸運なの!普通なら護衛担当に阻止されてでも男と”触れ合おう”とする奴が紛れ込んでても不思議じゃないから!」
「はぇ〜・・」
「だから、正直なところ対策を講じるって言っても多分無意味。そうやって捕まる女が滅多にいないのは、外に出歩く男が希少も希少だから。もし日常的に出かけるのが望みなら、もっと護衛を増やして、とかが現実的だと思うな?」
「もっと大人数・・・」
「そ。蒼夢の顔と体を考えると・・・うん、あと十数人は必要かな?」
そんなに要るか?さすがにこういう世界だからといっても別に五人とかで足りると思うんだけどな。
犯罪になるのわかってて迫ってくる人なんて、そんなにいない気がするけど。
とか不思議に疑問を浮かべていると、ポテチの空き袋をノールックでゴミ箱に投げ入れるという神業を見せつけながら、グイと体を寄せてくる。
その顔はいつものようにフラフラとした笑顔ではなくて、かといって真剣に言っているだけにも見えなくて、
その気迫に少し後ろずさってしまい、壁に背が付く。
「蒼夢、君は自分の魅力を過小評価しすぎじゃないかい?」
「詩依・・?」
「わかってる?私や遊里がその気になれば、君を押し倒して、あんなことやそんなことができるんだよ?」
「ちょっ、近・・・」
ドン、と壁に手をついて逃げ場をなくされる。
詩依の刺すような目が近づいてくる。
「私だって、君を襲いたいって気持ちを必死に抑えてるんだ。そういうのに疎かったり、そもそも抱かなかった人間でさえそんな気分にさせるんだ。人目も気にせず押しかけてくる女なんて、普通の男性よりもずっと多いに決まってる。・・自覚がないなら、これをきっかけに知っておくといい。君は普通よりも”良い”男なんだってことをさ」
「な〜んて、冗談冗談!ちょっぴり脅かしすぎたかな?」
これが恋愛漫画ならキス不可避の距離から解放されて、普段とは違う詩依の雰囲気も薄れていく。
俺がそういう体質なんだって言われて、正直心当たりはある。もちろん、恩人であるイケオジのことである。
イタイほど語った俺の欲望のようなものの中に『モテたい』ってあったはずだ。
多分それを叶えてくれたんじゃないだろうか。
ありがたい。ありがたいが、まさか今になって問題ができるとは思ってもいなかった。考えなしでそういう理想を叶えてもらうものじゃないな・・
「それでも、他の人から襲われやすそうってのは本当だから、対策とか意味ないと思うよ?」
「対策、一個思いついてるのが無いわけじゃないんだ」
「ほうほう、と言いますと?」
「ん〜と、とりあえず付いてきてくれる?見てくれたら分かると思うからさ」
「あいさー!じゃ、案内お願いしまーす!」
詩依を連れてやってきたのは、かくれんぼに使えそうなくらい広いクローゼット。
「ふぇ?・・蒼夢が気にしないならいっか」
「ん?なんか言った?」
「いや〜、なにも〜?・・それで、ここに何があるっていうのさ?」
「こっちは男物を揃えてんだけど、奥の方には「おぉ〜!!これ、この前出てた秋限定品!?こっちは白染のカーディガン!?すごいすごい!蒼夢、なんでこんなの持ってるの!?」・・・色々合ってな」
奥へと進んで女性物をかけてあるゾーンに入った途端に、詩依が気がついたら俺の後ろから駆け出して服を取り出して物色していた。
詩依はそういうの疎いと思ってたが、やはりこうしていざ目にすると変わるものなのか?
「ふ〜ん?・・で、要するに女性の格好して紛れようってのが蒼夢の作戦なわけね?」
「そういうこと。詩依はこの作戦、どう思う?」
「ん〜、アリよりのアリって感じ!!蒼夢って童顔だし、肩幅もそこまで広くないし・・うん!イケると思うよ!!・・あ、せっかくだし私が服を選んであげよっか?」
「いや、自分で選ぶけど?」
「いいからいいから、遠慮してないで!任せておきなって!!」
有無を言わさず、アレやコレやと着せ替え人形にさせられること数十回。
やっと満足のいく出来になったらしく、解放された。
「うん、これならいいんじゃない?襲いたくなる男性から、目で追いたくなる女ぐらいにはなったと思うよ!・・なんでも似合うもんだから、ちょっぴり楽しんじゃった」
頭にはいつもと違ってウィッグを被っており、髪は腰までかかるような長く美しい黒髪のものとなっており、服は水色のスカートに合わせて清楚感のある白いブラウスが。
胸元にはフリル付きの青いリボンが可愛らしく結われ、袖は半袖となっている。
また靴は黒タイツで足元を覆いつつも、可愛らしい花柄がデザインされ、ヒールも低めに調節された歩きやすいものが選ばれた。
ここまでガチになるなんて、少し、いやかなり詩依の押しを甘く見てたな・・・
「ただいま戻りました」
「お、ちょうどいい!遊里にも見せてあげようじゃないか!!・・化粧まで間に合わなかったのが残念だけど、十分でしょ」
「おかえり、遊里!」
「・・・なにを企んでるんですか?」
「ふっふっふっ、仕事を終えてお疲れの身には癒やしがほしいでしょ?」
「えぇ、貴女の相手で疲れてしまいましたからね」
「というわけで、じゃじゃーん!この子に抱きつく権利をあげちゃうのさ!!」
「・・・」
「・・・?」
「え、もしかして気づいてない感じ!?ひょっとしてわちきのセンスが遺憾なく発揮されすぎたってこと!?こうなったらしょうがない・・ネタばらししてやりな!」
ウィッグを外して、誤魔化していた肩幅を顕にする。
その時、遊里はすべてを悟った。
この世の真理を、すべての根源を。世界の始まりと終わりについて。
・・・ではなく、蒼夢がこれほどまでに女性に近づくことができることを。
これならば、多少距離が近くてもごまかせるようになることを。
「・・えっと、似合ってた?」
「大変お似合いでしたよ」




