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第16話 『寝起きドッキリ』

 私は今、素敵な素敵な馬鹿デカイお城に来ています。人生二回目の王宮です。


 実は今日、王子の誕生日である。

 シュヴァルツに頼まれてから私はせっせと今日この日のために色々してきた。もちろんウィルの協力も仰いで。

 王子の誕生日って言ったらすんなり協力するんだから、あの子は……。


 私の計画した作戦は、誕生日サプライズ大作戦。当然そのままの意味である。


 あのシュヴァルツにお願いされたんだからなにか特別なことをしてあげたい。いつもとは違うような何かを。

 そう思って浮かんだアイディアが王宮にお忍びで行くことだった。


 王宮は普通、位の高い貴族でも王族の許可無しには入れない。しかし、婚約者だけは違う。王族の婚約者だけは出入りを許される。面倒臭い手続きはしなきゃならないけど普通の人達よりはまだ王宮に行きやすい。


 そこを利用して、今日は王宮の王子の部屋でプチ誕生日パーティーを開くことに決定した。


 王子の部屋へ向かう途中途中でふと、迷惑かもしれないという考えが頭を過る。しかし、ここまで来ては止められない。ノコノコ帰ったらウィルに何と言われるか……。


 ウィルの冷たい視線を思い出して身震いした。我が弟ながら恐ろしい子よ。


 例の王太子にも気を付けながら目の前を歩く案内人の方に付いていく。


「ここです」


 立ち止まったのは大きな大きな扉の前。

 思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

 自分の部屋もかなりの広さがあると自負しているがやはり王族ともなれば違うらしい。当たり前か……。


「ありがとうございます」

「いえ。ごゆっくり」


 案内人は無表情のままお辞儀をして、そのままどこかへ行ってしまった。一刻も早くここを離れたいって雰囲気が隠せてないよ……。


「この扉はまるで王子と周囲を隔てる壁ね……」


 ポエミーな台詞をポツリと呟いて身なりを整えた。

 思ったよりも王子の王宮での扱いが悪そうだ。それとも、ただ王子を毛嫌いする案内人だっただけ? しかし、王子の部屋の周りには人の気配が全くしない。無駄に長い豪華な廊下にも、掃除をする使用人の一人もいないのだ。

 仮にも第二王子である彼に、ここまで露骨に嫌悪を示せるのはやはり王太子が絡んでいるからだろうか。王宮の権力ピラミッドはよく分からない。


 まぁ、婚約者の私には関係の無いことだがな。


 フッと格好つけて笑い、思い切りデカイ扉を叩く。飾りがいっぱいに付いているこの扉を叩くのはちょっと痛かった。

 宝石のつける量を減らせ。


 暫くしても反応がない。

 首を傾げてもう一度叩く……がやっぱり返事がない。まさか、私の家に行っているとか? 入れ違いになってしまった?


 その可能性を否定できずに一人で唸る。出来るだけ早い時間に王宮を訪れたのにすれ違ってしまうなんて……。

 がっくしと肩を落とすが、ここで諦めて帰るのはなんとなく癪だった。

 なにか王子の部屋に悪戯をして帰ろう。


 せっかくケーキやら、二人でできるボードゲームやらを用意してきたのに勿体ない……。

 王子の部屋が開いているはずないのだが、取り敢えず取っ手を回した。


「……え!? 開いた……」


 意外とすんなりと扉が開く。いやいや、王子の部屋を開けてちゃだめでしょう。

 そっと部屋に入り、ぐるりと見渡すと沢山の書類が積まれている机と、ふかふかの赤い絨毯。部屋はきちんと整えられているが、天蓋付きのベッドだけがぐしゃぐしゃになっていた。


 思わずベッドからさっと目を離す。

 王子の部屋って生活感のないものだとばかり思っていたから、なんとなく見てはいけないものを見てしまったような罪悪感があった。


「と、取り敢えず……」


 手に持っていた籠を綺麗な方の机に置いた時、ふと視界の隅にあのベッドが映った。

 もう一度ベッドをじっくり見る。


「なにか可笑しい……。あ」


 よく見るとベッドの中に金色のものが光っていた。金色と言えば王子の髪。


 待って、これってもしかしなくても王子が寝てる……?


 思わず盛大に狼狽える。

 まさか、王子がこの時間帯まで寝ているなんて想像もしていなかった事態である。実はロングスリーパーなのか?


 怖いもの見たさで恐る恐る王子の寝るベッドへ近付いた。


「う、あぁぁぁ……」


 私は王子のご尊顔を拝見してからその場に赤面して蹲った。


 駄目だ。これは駄目だ。見せてはいけない。

 王子は何歳だ? 私の一個上だから……11歳か。え、可笑しい。絶対に可笑しい。これは11歳で出る色気じゃない。


 ベッドの上で、舞い降りた天使の如く麗しく眠る王子はそれはもう……犯罪臭がした。

 寝顔も美しく、涎なんて垂れていない。キラキラ輝く金髪は計算しつくされてるのかって思うくらい綺麗に散っていた。寝巻きからちょこっと見えるお腹とか、毛布を抱き枕にしてるところとかそこだけ見たら全然王族に見えない。

 どうやら寝相が悪いらしい。


 私は慄然とした。

 王子が……可愛い……だと?


 王子の誕生日なのに自分がご褒美を貰えた気分である。あのいつでも私を小馬鹿にして、大人びた笑みを浮かべる余裕綽々の王子はいない。ただベッドの上で眠る年相応の可愛らしい王子様である。

 でも、この乱れた感じは切実にやめてくれ。


 今度は私の心が乱れそうなので、一度深呼吸する。取り敢えず王子を起こさなければ……。

 婚約者なんだからこれくらいは許容範囲なはず。

 変な高を括って王子の肩に手をかける。


「王子、王子。起きてください」


 前後に揺らすけど中々起きない。めちゃくちゃ寝起きが悪いな、この人。


「王子……!」


 揺らしていると王子がんぅーと唸って身動ぎした。思わず手を引っ込める。なんで私が悪いことをしたような気分になるんだ……!


 泣きそうな思いでまた王子の肩を揺らす。

 起きろよ! 起きてくれよ! そんなに無防備だと暗殺されるぞ!


 どうして起きないのだろう。

 思わず首を捻って考える。いつもは誰が起こしているんだ? シュヴァルツ……だよね。彼以外に考えられない。


『ディラン様の誕生日を祝って欲しいのです』


「あ、そう言うこと」


 謎が解けてハッとする。なるほど。


「ディラン様。起きてくださ……っ!」


 もう一度肩を揺すろうと手をかけたが、その手は何者かによって捕まれ、何者かによって引っ張られた。

 ……王子しかいないわけだけど。


「起きてたんですか……」


 じっと王子を睨むと、へらりと笑われた。


「起きてないよ。まだ夢の中」


 目が完全にとろんとしている。ヤバイ。寝惚けていると思って王子の胸辺りを押すが、効果なし。

 感覚とか絶対現実そのものなのになんで気付かないのかな!? やっぱり寝起きが悪い!


 逃げだそうとする私をちらりと見て、意地悪そうな笑みを浮かべた。


「だぁめ。なんで逃げるの。俺の夢なんだから俺の好きにさせろよ」


 口調! 口調と笑顔が合ってない!

 変なところを突っ込んでいる間に王子の手が怪しい動きを始める。


「え、ちょ、待ってください!」

「待たない。夢なら何をしてもいいだろう? 明晰夢なんて始めて見たよ」

「夢じゃないです! 現実です!」

「じゃあ、なんでベルが王宮の……それも俺の部屋にいるわけ?」


 可笑しいでしょ? と笑いながら王子の手がするりと腰を撫でた。私の首あたりに顔を埋めながら囁く。

 寝起きだからか、王子のシャンプーの匂いがダイレクトに伝わってクラクラした。


「止めてくださいって!」

「ベルは夢の中でも俺の言うこと聞いてくれないんだ?」


 クスクス笑って私をベッドの上に組み敷いた。上には目を虚ろにさせた王子。


「私達、何歳か分かってます!?」

「今年で11」


 11の男がこんなことするのか!?

 欲情しまくってるもんなの? 男の子って。


「この歳でこういうのはマズいです」

「……ほんと、君は夢の中でも思い通りに動いてくれないんだな」


 伏せた王子の目を見たとたんに鳥肌がたった。目が本気である。

 唐突に王子が首筋をカプリと甘噛みをした。思わず肩が跳ねる。クスクスと嬉しそうに笑う王子の手が私の足を撫でるように触れた。


 ヤバイ! これ以上は本当にヤバイ!


 今日は王子の誕生日だからある程度は好きにさせるつもりだったけど、まだこの歳でのこのような行為は私の倫理に反するのだ。

 許せ、王子!


 心の中で適当に謝ってカッと目を見開く。

 王子は目を伏せていて気付かない。


「るぁっ!」

「いた!?」


 ゴチンッという有り得ない音が王子の部屋に響いた。

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