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検尿

「おはよう~」

「ぜえはあぜえはあ、はあ、おは、はあ、よう」


 遥と並んで教室に入る。

 声に反応してくれるのはいつものメンツだ。


「おっはよう遥ちゃん! ついでに月瀬」

「はぁ、はぁ、ついでは、余計だろ、んはぁ」

「どうした朝っぱらから試合やってきました的な疲労具合は。ま、まさか遥ちゃんと朝の試合を!?」


 苦笑いする遥に代わり、小野に天誅を下すものがいた。


「小野ぉ! アンタ朝からくだらないこと言ってんじゃないわよあほんだら!」

「ぐえっ!」


 この乱暴さ。無論、軽音楽部の加藤である。楽器とアンプをつなぐケーブル、通称シールドをまるで西部劇の投げ縄よろしく放り、小野の首をとらえる。

 とらえられた小野にチョップをくらわすのは、サッカー部マネージャーの甲斐。


「加藤ちゃん、もう話して大丈夫。このアホはホームルームはじまるまでしっかり教育しておくから」

「ラジャー」


 教室の隅まで連行されていく小野。笑顔で見送る加藤。今日も平和だな。


「ルェオック。加藤貴様、よくも我が同胞を」

「お? やんのかコラ?」

「ロックック。適当に流した曲のBPM当てクイズで勝負だ!」

「のぞむところおぉ!」


 うんうん。こっちもこっちで通常運行でなにより。


「あっくん見て、もうほとんど集まってるよ」


 遥に袖を引かれ、教壇へ向かわされる。

 日直の人が設置してくれたらしい大きなポリ袋と、提出した人が分かるチェックリストがあった。


「えーと、足りないのは俺たちの分と小野と原田の分か。俺がやつらの鞄適当にあさって取ってくるわ」

「お願いね」


 ったく、野郎の尿集めとかできればやりたくないんだが、遥にやらせるわけにもいかないしな。

 しかし、男子の尿はやっぱり何も感じないな。変態的志向とかではなく、吸血鬼として。

 待てよ。待てよ待てよ待てよ。

 俺は震える手で、自身のものと野郎二人の袋をポリ袋へ入れる。

 男女混合検尿袋。

 嗅覚が勝手に作動する。キャッチするは、スパイシーで食欲をそそるにおい。

 これは危険物だ。濃いめの体液の集合体だ。 

 クソッ! 朔夜から体液もらったのにまだわき上がるのか! 俺の吸血欲求は底なしかっ!


「最後は私のだね」


 遥が袋を軽く放ってポリ袋に入れようとした。

 特に芳醇な香りを放つそれを、俺は無意識のうちにキャッチした。


「えっ」


 遥は、はじめは俺の突拍子のない行動に純粋に驚いたのち、意味を理解して青ざめた。


「あっくん、まさか」

「おしっこ飲みたい」

「ひっ」


 今まで数々の変態的行為をなんとか飲み込んできた様子の遥だったが、流石にコレはアウトらしい。うんアウトなのは俺も重々分かっているんだけどね。ビックリだよ自分でもこんな変態的台詞が飛び出すなんて。


「って違~う! 今のは不意打ち吸血欲求で一瞬だけ隙が生まれただけだから! もう大丈夫だから!」


 俺はつかんでいた遥の検尿袋をポリ袋の中へ入れ、口を縛った。

 密閉完了。これで悲劇は起きない。


「私、ドナーとして覚悟を決めたつもりだったけど……を提供するのは、ちょっと」


 遥は精一杯笑顔を作っている。無理して作っているせいで表情筋がそこかしこヒクついているのが痛ましい。


「ほんっとすんませんっした見苦しいとこお見せして」

「早く一人前の吸血鬼になれるといいね」

「全くだ」


 朔夜に、俺の吸血欲求は特別強いみたいなこと言われてるし、まだまだ先のような気がする。それまでにガチ犯罪を犯してしまわないか心配でならない。なるべく遥や朔夜と一緒にいないと。


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