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朔夜ちゃんと付き合ってるの?

 卓球部は今日は一時間程度のミーティングだけとのこと。それまで図書室で時間をつぶす。

 ここ数日は吸血鬼関連で勉強が疎かになってたからな。今のうちに進めておこう。

 数学で区切りがついたら、次は生物。理系を強化しておきたい。

 教科書を読みながら問題集を解いていく。

 うし、今日の復習はこんぐらいでいいだろう。生物に移ろう。

 今日は遺伝子のとこだな。塩基配列は今のうちに覚えておくか。


「そこ、面白いよね。全ての生物が、ATGCの四つの塩基の配列で作られてるなんて」

「神秘的だよな。ぶっちゃけ感動した。神様が作った設計図みたいだなって思ってさ」

「あっくんはロマンチストだね~」

「って遥お前いつの間に」

「五分くらい前から。ずっとのぞき込んでたのにあっくん集中してて気づかないんだもん」

「あーそれはすまん。部活はもう終わったのか?」

「うん。ちょっした話し合いだけだったから」


 後ろからのぞき込んでいた遥は、俺の隣に腰掛けた。


「んじゃ行くか?」

「ううん。私もちょっと勉強してく」

「そか」


 遥は手提げカバンから俺と同じ教科書と問題集を取り出して、勉強をはじめた。

 無言の時間が続く。ページをめくる音。カリカリ走るシャープペンシルの音。

 夕陽が部屋をすっかり朱に染める頃。


「そろそろ行くか」

「うん」


 俺と遥はほぼ同じタイミングで教科書を閉じた。

 遥と一緒に勉強するのも久しぶりだな。中学一年以来のような気がする。一人でやるより集中できた。たまにこうするのもいいかもしれない。

 それから連れ立って帰路につく。


「ふぃ~、良い感じに頭使ったな~」

「あっくん」

「ん?」

「朔夜ちゃんと付き合ってるの?」

「いやいやいやいやそれは無い。断じてない」

「でも、小野くんのそういうことに関する嗅覚って鋭いし」


 そうなのだ。付き合っているのを隠していたとしても、小野にはすぐバレる。クラス内恋愛しようものならすぐ小野に見抜かれるため、皆戦々恐々としている。今までバレなかったやつはいない。告白成功の翌日に教室に入ると、黒板にハートマークがてっぺんについた相合い傘の絵に、カップルの名が記されているのだ。なんて鬼畜。


「昨日も話したじゃないか。気になってる女子とかはいないって」

「ホントかなぁ。朔夜ちゃん、かわいいしなぁ。あっくんは年上と年下好きだからなぁ。しかも主従関係にあって、一緒に住んでるしぃ。好きになってもおかしくないんじゃないかなぁ」


 む。流石にしつこいな。遥は俺が一旦否定したらそこから追求してくることはあまりしないやつのはずなんだけど。


「そりゃあ俺も男だし、好みの女の子が近くにいればドキドキすることもある。でもだからって恋愛的な意味で好きになるとは限らないだろ。ってか、俺が朔夜と付き合ったとして、何か問題でもあるのか?」


 遥の言い方が嫌みったらしかったため、少々キツい物言いになってしまった。

 言ってしまってから後悔する。だがすぐにフォローを入れるわけにはいかない。

 二の腕に遥の肩が強めに当たる。


「別に。ただ、二人が付き合うことになったら、あっくんち行くの控えようって思っただけ。それだけ」


 遥が落ち着いた声音でそう答えた。

 急に自分が恥ずかしくなった。ここは素直な気持ちを伝えよう。


「おう。そうか。ま、付き合ってないし今後そういう予定もないから、その、全然来てくれていいぞ。ってか、来てくれると、ありがたい。美味い飯食えるし。そうだ、今夜、一緒に勉強しようぜ。お前とやるとなぜか集中できるんだよ」


 また遥の肩が当たる。ただ今度は、トン、と軽く触れる程度だ。


「全く、いつまで幼なじみに甘える気なのかねぇこの子は」

「子ども扱いすんな」

「その台詞ってまさに子どもって感じだよね」

「うっせ」

「ふふ」


 機嫌が良くなってくれたようで良かった。遥と険悪ムードになるの、キツいからな。昔からケンカになる前になんとかお互い譲歩したものだ。

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