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愛妻弁当

 昼休み。

 今日は小野、原田と昼飯だ。遥と食べる方がずっと珍しいため、こっちのが日常感がある。

 三人で机をくっつけて食べるこの時間を、俺は密かに楽しみにしている。気の合うやつらと向き合って共に飯を喰らい、与太話をする。そういうことにささやかな幸せを見い出す一般庶民。それが俺。


「お、今日の月瀬の弁当、いつもとちっと違うじゃん」

「そんなことないぞ」


 小野の指摘を、卵焼きを口に運びながらいなす。


「なんつーか、豪華?」

「ロック。言われてみれば確かに。彩り豊かだ。普段は茶色い」


 小野と原田は各々惣菜パンをかじりながら弁当箱をのぞきこんでくる。


「お前等よく見てんな」


 俺の母親は忙しいながら弁当を作ってくれる。ありがたい。が、中は大体冷凍食品のため、同じような弁当になりやすい。だから見破られてしまった。


「おれ、分かっちゃったー。女だろ。ナオンだろ」


 ニヤニヤしながら小指を立てる小野。それ古いだろ誰が分かんだよ。


「レォック? それがマジなら今すぐその弁当の中身はオレがいただく。女子の作った弁当は男子の至宝。独り占めさせるわけにはいかない」


 原田はロン毛を振り乱して荒ぶる。顔に当たってかゆい。こいつは髪を女子以上につやつやさせることに命かけてる上、良いにおいまでするんだからシンプルに気持ち悪い。


「原田。仮にこれが女子が作った弁当だとしよう。他人のために作られた弁当だとしても嬉しいものなのか?」

「それがうら若き女子が作りたもうたものならば。それほどオレは飢えている」

「あ、そう」


 原田の目がマジだ。真剣と書いてマジだ。こんなガツガツした男子がいるならこの国は安泰だな。


「なぁ月瀬。もうこれが女子に作られたものだってことは割れたんだ。誰に作ってもらった?」

「自分で作ったんだよ」

「ロックダウト。月瀬は料理が壊滅的にできないだろう。調理実習で死にかけたことは記憶に新しい。お前の料理はアニメヒロインの作る劇物料理に並び立つ」

「それは言い過ぎだろ!」


 ちなみに、小野はアニメは国民的なものだけ、俺は国民的アニメ+深夜アニメ毎期二、三作視聴しているのに対し、原田は毎期二〇作以上欠かさず視聴している重度のアニメオタクである。軽音でギターやるやつ大体何かしら重度のオタク、とは原田の言。中でも比率が高いのがアニオタと機材オタだそうだ。


「月瀬の親交のある女子……おれの情報網を使うまでもないな。遥ちゃんしかいない。ん、や、ちょっと待て。おれの鼻が何かを嗅ぎつけて……これは、年下女子? ん、同学年? あれ、それともかなりの年上? ともかく、もう一人いるな! 紹介しろ!」

「お前の鼻どうなってんだよ! 超能力かっ」

「ロック。語るに落ちるとはこのこと。オレは今嫉妬で憎しみのブルースが漏れだしそうだ」

「この恋愛脳どもが。もっと有意義な話しようぜ。勉強のこととか、将来のこととか」

「つっても現状顔が割れてるのは遥ちゃんのみ。うっし原田。遥ちゃんの弁当の中身確認しに行こうぜー」

「ロッキン承知」

「人の話を聞け……」


 ワックスツンツン頭と、髪は男の命頭が席を立ち、遥の所属する仲良しグループのシマへ進撃していった。

 軽音楽部。口の悪いアネゴ系女子の加藤。

卓球部。目立ちすぎることがなく、かといって全く目立たないわけでもない、人に好かれやすいある意味人生勝ち組の遥。

 そして、男子サッカー部マネージャーのクール系女子の甲斐さん。

 クラスカースト女子部門二位あたりに食い込んでいるツワモノどもだ(俺調べ)。え、俺たちのグループ? ほらあれですよ、感性が他人とはちょっとばかし違うため距離を置かれているといいますか、番外編といいますか、理の外側にいるといいますか。 

 モテすぎる小野は男子、小野のことを好きになっていない女子から敬遠されているし、原田はドのつく変人。そいつらとつるんでいる俺もまたヤバイ奴だと。俺だけはまともなはずなのに。昔から舌芸が得意ってだけで。美術の時間に舌を使って絵画を完成させて、そのあまりの名画っぷりに美術の先生が気絶した、というエピソードはきっと関係ないはず。

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