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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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腐敗VS発酵

「ゼンコウジさんに行く前に恵美子さんにお願いしないといけませんね」


ニッコリと微笑んで見せたグラーシアの目は笑っていない。

またしても転生人を不当に扱う事例を目の当たりにして怒り心頭といった所に、その被害者が

彼方での息子の教え子だったというのも怒りの炎に油を注ぐ要因であったのだ。


「ショーンさんならまだ内宮じゃないかな、誰かに呼んで貰える?」


クラウドも王宮の廊下でショーンにとても良い発酵具合の書籍を渡したばかりだ、ショーンは王妃のお取巻き(コンパニオンレディ)として

王妃の住まう奥向きの内宮に詰めてる筈だと答えれば、早速侍女が王妃の宮へと遣いに出される。

そうして足早に訪れたのは異世界管理課転生人管理官としてのショーン デ リヴィエール子爵夫人。

王妃様は事情を耳にすると快く送り出してくれたそうだ。


「本人の申し出を孤児の偽言と握り潰したんですって、そして今頃になって転生人秘匿と言って脅迫ですって?」


手早く席が作られ繊細な絵付けも見事なティーセットが運ばれて茶が供される。

シェンを連れて来た、いや、脅したという老神官一行が下座に並べられて簡素な椅子に座って尋問を受け、

シェンも椅子を勧められて掛けて、ショーンの聞き取りに応じていた。


「秘匿したのは当時の教会だとしても、それを容認して今更それを持ち出し脅迫したのは貴方よね。

転生人秘匿を私から陛下に奏上しませんと、殿下におかれましてもこのシェンの言が

偽りでは無いと申し添えて下さっておられますが」


「い、いえ、我々も知らなかったので御座います、これなるシェンは孤児でした故

境遇から抜け出す為の子供の頃の偽言との記録を信じてしまっただけで我々もまさか本当とは思わず…」


「それを判断するのが貴方達だとでも?判断するのは異世界管理課転生人管理官の仕事です。

何時から貴方方教会が異世界人の真贋の判断を下さる様になったのかお教え下さらないかしら」


ショーンは優雅にティーカップのハンドルに指を掛け、目の前でどう言い抜けようか脂汗を浮かべる神官達に問う。

普段ならイチ子爵家の夫人一人、異世界管理課だろうが何だろうが教会の権威を盾に尋問なぞ一蹴する所なのだが

ショーン デ リヴィエールにそんなモノは通じない。


絶大な軍事力の維持の為にシランス港を有し、莫大な富を寄進するリヴィエール辺境伯が後見し

今となっては息子の嫁として一族に迎え舅として庇護の下にある事か。

王妃の側近として裾下に侍り、王妃の寵を頼んでの強気なのか。


そうでは無い。


何故(なにゆえ)リヴィエール子爵夫人はドレスにブーツという姿なのか、手首に光る黄金のバングルに

施された紋章が夫の子爵の碇に槍では無く、辺境伯家の舵輪に槍なのか。

何故武装しての登城が許されているのか、その理由を知ればたかが子爵家の夫人程度と侮れる筈が無いのだ。


ショーン デ リヴィエールこと手塚 恵美子の異世界転移の恩恵付与(ギフト)は弓術と肉体強化。

戦闘特化型転移人だった事と、落ちた先がリヴィエール辺境伯家だった事が幸いした。

他国の侵略とモンスタースタンピートの脅威に晒される立地のシランスにもたらされた恩恵と歓迎されたのだ。

手首に嵌るバングルも単なる後見人(パトロン)の枷なんかでは無い、愛弓の『細石(さざれ)』を納めた魔道具。

魔力を練れば矢となる便利な魔道武具の細石を携え、ヒールこそ高めだが回復と衝撃軽減の効果を仕込まれた

ブーツはどんな悪路も踏破出来、どんな障害も乗り越えられる。

冒険者ランクもS級と、七カ国に渡る全ギルドの中においても数名しか与えられていない最高ランク。

入輿の前、ただの転移人ショーンとしてシランス海岸でのモンスタースタンピートに立ち向かい

領内にたったの一匹も魔獣を入れず撃退したという大功を立てている事から

『鉄壁』の二つ名とギルドの最高ランクを己が物にし、その実力は中隊同等とも言われている。

それだけでは無く、リヴィエール家に嫁ぐ際に持参金代わりにと、今まで冒険者としての蓄えを叩いて建造された

魔道戦艦『山雅』と『深志』を従えての輿入れはシランスの領民の度肝を抜き、更にこの戦う大船が

シランス港を護ると聞いては安心と共に喜びに沸いたという。

更に領民の居住区へと迷い込んだり人を襲おうと侵入する魔獣を未だにエクササイズと称して

易々と狩り、その魔石を戦艦の動力として有事に備えて備蓄に回していると聞く。

個人として見ても充分な戦力を有し、味方として側に置けばなんとも頼もしい女傑を

王妃は側置く女騎士より信を置いて侍らせている。


そして教会の野心溢れる一派が王太子妃として迎える令嬢を、勝手に聖女と僭称し

横から攫おうとした事も知られている。

そして今、転生人を不当に隠匿し強迫して王都に連れて来た事を聞かされては

首謀者共犯共に極刑に処されるのは当然、しかし何時の世も何処の世界でも宗教というのは

一定の尊崇を受け俗界とは一線を画す存在でもあるようだが、

俗世の刑法が聖堂に入らずの不文律も異世界管理課転生人管理官、いや、転移人のショーンならば

容易に踏み躙り目の前の神官を処分した所で誰も何も言えないだろう。

転移転生人の魂はこの世界の主神マトラの導きし者、神の庇護を受け神の導きに依ってこの世界に降りた者を

マトラ神に仕える神官が排除しようとしたり況してや罰そうだなんてとんでもないとなる。


そして異世界人保護の為の法とその執行ならば異世界管理課転生人管理官ならば行える。

そしてショーンはその力があるのだ。

『鉄壁』の愛弓を出し横に一振り、それで終い。


矢をつがえる程の事でも無い、ショーンの前に並んだ神官達の首など簡単に吹き飛ぶ、王太子妃の御前だからと

首の骨をへし折る程度に加減をするかも知れないが命を刈る程度造作も無い。

そして俗世を捨てた教会所属の神官を処分しようともショーンが咎められる事は一切無いと解っているだけに

神官達は常の教会の権威に縋って言い逃れようとはせず口を噤むしか出来無いのだった。


「コレの始末は猊下にお任せしましょうか」


何時までも唸るきりで説明も弁明も無く口を閉ざすきりの神官達に痺れを切らしたショーンは

この場での尋問を切り上げ、王宮に詰める護衛騎士に神官達の処遇を任せてそれ等を別室へと下げさせた。


「まさか殿下の前のご子息の教え子だとは、世界は違えど世間って狭いのねぇ」


改めて座を定め、シェンに話し掛けるショーン。


「先生のお母様だったとは、本当にビックリしました」


「私はショーン デ リヴィエール、リヴィエール子爵の妻で前は松本在住の単なるバツイチです」


「俺はクラウド、今は王太子妃殿下の元でシナノ領開発やってます。

前は諏訪住みの中学生やってました。

シェンさんって上田住みだったんですか?凄い体格イイっスよね、御柱祭に興味ありませんか?」


転生人が集まったからと気を利かせた女官が緑茶を淹れ直したカップを取って其々が一息ついた。

そうしてからの自己紹介、シェンも懐かしい緑茶の効果か落ち着いて口を開く。


「俺はシェン、孤児上がりの地方の小さな教会の神官だったんだけど、神託?

俺の親代わりのモノヌイナのヤーヤン神官から善光寺神殿の神官になれって言われて

いきなり中央からの迎えが来て、受けるとも答える前に連行されてココに来る前にヤツ等に言われたんだ。

善光寺の秘仏を盗んでこいって、それでコイツとすり替えて中央に秘仏をお迎えして

本物は教会管理にした方が秘仏の為だとか安心だとか勝手な事言ってて、それでも俺は褒められた生まれじゃ無ぇし

前もグレて染屋先生に迷惑を掛けてた身だから偉そうにこんな事言うのもアレだけど

泥棒なんぞやれるか、悪党の手先なんか真っ平御免だから帰らせてくれって言ったらよ、

モノヌイナの教会もそこで保護してるガキ共もヤーヤンの爺さんもタダじゃおかねえって言い出しやがって」


シェンの態度が反抗的というか不貞腐れている理由に、教会内部の腐敗具合が思った以上だったと

その場の皆が唖然としている。

教会の神官って神の教えを伝導し人々の心の安寧を守る人じゃなかったっけと、自分の中の常識を疑い

今一度その在り方って何だっけ?と確認したくなる程の悪党振り。

特に前の生の自分の長男の教え子に犯罪行為を強要してたと聞かされたグラーシアのこめかみには青筋が浮いていた。


「疾く、猊下に遣いを」


少しばかりトーンの低い声で命じるグラーシアに、鉄仮面程のポーカーフェイスの女官は

僅かに動揺を表に出してしまったがすぐにその場を辞してその命に応えるべく足早に王太子妃宮に戻ると

ミハエル大司教の元へ送る手紙にペンを走らせるのだった。

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