野心の胎動
大理石造りの白亜の宮殿、毛足の長い豪奢なカーペットの上に十重二十重と蠱惑的な美女が寝そべって
透き通るような白い肌を申し訳程度の薄絹を纏うだけで惜し気も無く晒し、身をくねらせるように侍るのは
奥向きに位置する主寝室。
「精霊王すら使役する転生人と、富を生む転生姫か」
女体に盛られた果物を食みながら下品な饗宴に興ずる初老の男が書簡を手に、何やら思いを巡らし
いやらしく笑み崩れて分厚い唇を歪ませる。
左右から乳房を押し付け、媚を売り寵を競う性奴隷の捧げ持つ金のゴブレットから葡萄酒を呷ると今度は別の女体に
貼り付けるように盛られた炙り肉の薄切りを、また一枚と剥がして咀嚼する。
「左様に御座いまする。
なれど世間知らずの小娘と小僧二人、開発を期待して下げ渡された未開の森に国を造るなぞと大言を吐いて
入り浸っているようですので、そこを」
「そうだな、ユリウスの持参金に金の卵の養鶏場ごと頂戴するのも悪くないかもしれぬ。
先先代と義兄上があのようなしくじりさえせねば、我が国をキリアラナなぞに…何がサフィールの化粧地よ!」
「そうで御座いますな、なれど御主人様でしたら割譲したマリルよりもっと良き御主人様に相応しい精霊と
富の沸く土地を手にされる事でありましょう」
書簡を運んで来た骨張った矮躯の男が、阿るように追従する。
それに乗せられるようにギヒヒと低い笑い声を漏らしながら贅肉を揺らす、鷹揚に二重顎を首にめり込ませて
一つ頷き、腸詰めのような指を皿として侍る女体を指すと、秘めた部位を露わにせよとばかりに蹴って下段に落とし
盛られた果実や肉を振る舞う軽さで矮躯の男はじめ女人の群れから離れて控える部下達に弄玩を許すと
言葉短かに告げ、それらを下げ渡した。
「前祝いだ、更なる富を手にしたらそれ以上の物をやるぞ」
禽獣すら顔を背ける下卑た色と食の欲を剥き出しにした狂乱を肴に、肥えて身動き一つ大儀な男は
捧げられたゴブレットを傍らの女人に傾けて中身を柔肌ごとむしゃぶりついて啜り、饗宴に没頭すべく
後は丸投げといった風情で書簡をなげた。
寝室の外に侍立していた部下等はその様子を見届けると、早速動き出す。
主人の望む結果を差し出せなければ外に放し飼いにされている大蛇、眠りの邪視と毒の息を吐くアスプと名付けた
人造魔獣蛇の生き餌として丸呑みか、手足を千切られて嬲り喰われる末路一直線だからだ。
これがマムクール王の王弟 ジャイド、庶子故に王位継承権を持たぬお飾りの王族で名ばかりの大将軍。
正室腹の妹 サフィールはキリアラナの王妃で、同腹の妹のサリーナは添え腹を期待されてサフィールと共にキリアラナに送られ
建前はメイドとして、実際には寵姫として月眼を持ったユリウスを産んだ。
単に王族の末席にある身が、月眼持ちのユリウスの伯父として将来の王の後見を約された立場へと変化した事で
増長し、このような乱行に諫言する者も無く好き勝手に振る舞う内に佞臣が集まって甘言を囁く。
そうして砂山が崩れるように脆く崩れた倫理や体面の後に芽吹く制御の効かぬ欲の魔物。
「シナノとやらを抑え、ファングルも我が領土としよう。
その際には下賤で低俗な異世界とやらの名なぞ消して儂が良き名を付けてやろうて」
女達の嬌声に混じって、既に新たな領土を得たかの盛り上がり振り。
「ゲラルドよ貴様に一隊やろう、"蛇の腹"を好きに使うが良い」
阿り侍る矮躯の男にジャイドは機嫌良く、私兵の一隊の指揮権を丸投げするつもりで指に巻き付くデザインの指輪を
太い小指から抜くと、ゲラルドに投げて渡した。




