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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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精霊の理と狩りの作法

「貴様はソレの仲間か」


追っ手らしき小男の方が弓に矢をつがえ鏃を向け、傍らの長身の男が威嚇するように問うた。


「お前等こそ何者だ、此処は神渡る聖なる湖として森の精霊王と伴侶の湖の乙女を御迎えする神域。

それを人如きが乗る車を追い込み落とし、俗世の泥にて穢すとはエント殿ウンディーネ殿両精霊王と

此の地を祝福して下されたマトラ神様を愚弄しているのか」


クラウドは上着の裾を跳ね上げ、腰に差した折り畳み式の草刈り鎌を抜いて刃を起こすと

威嚇仕返すとばかりに追っ手の2人組へと刃先を向けた。


「…その鎌、オシカの木樵か?」


「そうだ、俺はオシカ村のクラウド。

訳あってオシカの森を追われてシナノと名付けられた此処へ居を移して聖なる湖の管理を任されている」


クラウドの手にした草刈り鎌はオシカ村の木樵しか使わない特殊な物である。

魔力やギフトが無くとも草刈り鎌と斧だけで野獣や魔獣を相手にし、森の恵みを糧に森に生きる

一流の狩人の証として他の木樵やドワーフ、森の賢者とも呼ばれるエルフにも知られている。


「!?…それは世界樹、まさかお前はあの"精霊の愛し子"か?」


驚いたように弓を下ろして矢を外す小男が草刈り鎌を指差す。


「どうもそうらしいな、エントさんに軽くて硬い素材をくれってお願いしたら持って来たモンだけど」


小男が弓を下ろしたので、草刈り鎌の刃を閉じたクラウドは問われるままに鎌の柄の入手元を明かせば

入手元として挙がった森の精霊王の名と、世界樹材を目の当たりにした追っ手2人は

深く被っていたマントのフードを取って非礼を詫びるように頭を下げると夫々名を名乗った。


「それは大変失礼した、この通り詫びよう。

私はアルフヘイム(エルフの森)に住むラウル、弓を使うコイツはニルヘ、共にエルフだ」


尖った耳が特徴的なイケメンはエルフ故の美形だろう、しかし滅多に人間と関わりを持たずに森の奥で

ひっそり暮らしているエルフが人を襲うのかと、セドリックは剣の柄に手を掛けたまま(にじ)り寄る。


「そのエルフが何用で人を追う、エルフとキリアラナ王国の間に不可侵条約があるのを忘れたか」


「不可侵条約の事は承知している、しかしコレは無抵抗な火龍の仔を物陰から射て傷付けたのだぞ」


怒りを露わに理由を吐き棄てるエルフの言葉に、馬車の中の人以外のその場に居た者達は

エルフ達の怒りに納得して溜め息をついた。

竜というものは強大な力を有し長命であり様々な知恵を持ち、自然界の調和を保つ使命を誇る種族である。

だがその力と寿命故に繁殖衝動自体が希薄なようで仔を授かるのは稀な上、更に魔力の源となる

角が生えるまでは全くの無力であるからこそ神の庇護を受けている。

だからこそ竜の仔を狙うのはタブーとされており、何事か願いなり野心を持って竜狩りを行なうとしたら

独り立ちした成竜の縄張りである険しい山へとアタックした上で正々堂々と名乗りを挙げ

竜を討つに相応しい願いなり何なり理由を述べて、竜と竜狩り志願者双方合意の上で

一人なり、冒険者なら1パーティで向かって行くのがルールとされている。

当然、タブーを犯した罰当たり者には漏れなく神罰が降るとされており、碌な末路を迎えてはいない。


「そりゃマズいわ、この人の護衛とか従者なんかはどうしてる?」


「仔竜の仇を勝手に殺して、我等が神の怒りを買っても困ると捕縛してある」


「で、被害者の火龍の仔は生きてんの?」


「はい、辛うじて…今は村長の元で世界樹の葉を煎じて飲ませて治療しております」


「そりゃいけない!セドさんは至急開拓団詰所にあるハイポーションを取って来てエルフさんに。

それからヴィーはマトラ神様をお呼びしてくれないか?」


原因と経過を聞いたクラウドは眉根を寄せ少し考え込むと、セドリックに火龍の仔の治療の為の

ハイポーションを提供する事で、シナノに禍や祟りの類いが降り掛からないようと頼むと

心配そうに漂うヴィヴィアンに至急マトラ神へ仲立ちをして欲しいと頼んだ。


「マトラ様?」


「あぁ、火龍の仔の庇護神は火の神様のようだろ?これの首元に"サラマンダーの吐息"が掛けられている。

だからマトラ神様に火の神様とムートン神様の御二柱様の仲介をお願いしたいんだ」


「ムートン様まで何故?」


「そりゃ、コレがムートン神様の眷属だからだよ」


騒ぎで失神していた馬車の中の人が漸く意識を取り戻して、目を開けば其処にある瞳は

常の人間のものとは異なり、謂わゆる"月眼"と呼ばれる特別なものだった。


「ムートン神の…」


マムクール人が信仰するムートン神の眷属がと聞いてエルフ達が困惑に口を閉ざせば

馬車の中の人が、いきなり無礼者がと怒鳴り出す。


「無礼者めが!私を誰だと思っている、斯様に追い回され取り囲まれる謂れは無い」


起き上がると踏ん反りかえって偉そうな口を叩く青年にクラウドは草刈り鎌を再び開くと

刃先を青年の喉元に突き付け、青年の減らず口を止める。


「煩え卑怯者、おっと、名乗んなくていいからな。

アンタ何をしたか解ってんのか?今アンタは神の怒りを買ったんだ、ここで名を明らかにするってのは

自身の魂に消えない神の怒りの印を刻まれるってのは流石に理解してんだろ」


各国に存在する王室のいずれも神の怒りを買った者は王位継承権を剥奪するという共通事項がある。

何故かといえば神の呪いが王個人では済まず、国全体に及んでしまう恐れがあるからだ。


「…何故だ、私がそのような」


「してんだよ、悪いけどこのお坊ちゃん連れて一度、レディの屋敷に戻ろう。

で、コレを牢かなんかに放り込んで、メイドさんの誰かにおグラさん直々の御神酒を出して貰って

マテさんには王都まで伝令を頼もう」


色々と指図をするクラウドに皆が従うのは、精霊とマトラ神を介して神の怒りを解ける可能性を持つのが

クラウドだけだと信じているからだ。


「さ、早くしないと取り返しのつかない事になるぞ」


クラウドは鎌を手にしたまま青年の襟を掴んで担ぐと、グラーシアのシナノ領主屋敷へと戻って行った。

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