未承認なのにヒロイン(男)ルート炸裂
クラウドはチート能力である精霊さん達の助力とマティスの大いなる土魔法の力で造られた
スワ湖までやって来ると、辺りを徘徊していた地元精霊に向かって呼び掛ける。
「なぁ此処いらの冷え込み具合を知りたいんだけど、この湖に氷は張りそうかい?」
樹々や草花の葉陰に隠れていた生まれたての小さな精霊達が顔を覗かせ、突然の問い掛けに
ポショポショとナイショ話をするように囁き合うとフワリとクラウドの肩に乗って答える。
「湖はノームとウンディーネ様が造られたばかりだから知らない、でもココは木の枝に氷が下がって
キラキラ光るホワイトツリーが見れるよ」
「冬の女王の道だからね、冬になると雪がヒラヒラ舞って真っ白な雪の庭」
「樹氷が見れるんなら御神渡りもありそうだな、ありがとう」
いきなり出現したように見える小鳥程度の大きさの精霊の姿にセドリック達は言葉も無い。
そして鈴を転がすかの愛らしい声が抽象的な語りをして、クラウドの髪を引いたり襟を捲ったり
シャツのボタンを弄ったりと忙しない。
「そうだ挨拶がまだだったな、俺はオシカの森のクラウド。
今度コッチに越して来たからヨロシク、で、此処の人間の長になるグラーシア様が皆んなにって
拵えてくれたキャラメルって甘い飴っぽい食べ物があるんだけど食べる?」
精霊は基本的に陽の光と清らかな水と空気と豊かな森があれば存在出来、食事の必要は無いのだが
甘いものが大好物なので、ご挨拶と助力の礼物として贈って頂戴とグラーシアから預かっていた
彼女手製の日本では当たり前だけれども、キリアラナでは珍しい菓子類を差し出せば
精霊達はワッと群がって夫々口に入れる。
「甘〜い!」
ホッペを押さえて甘味の喜びを溢れさせる精霊達の元に、フと立ち現れる水の影。
「久し振りね、コッチに引っ越して湖を造ったってウンディーネ様から聞いて私も来ちゃった」
ユラユラと水の裾を引く美しき乙女、ウンディーネの眷属 湖の乙女の一人、ヴィヴィアンだ。
「ヴィー、久し振りだなぁ」
「それにしても素敵な湖を造ったわね、此処に住んじゃダメかしら?」
元々"うみ"という言葉は水の沢山集まる所を意味し、湖を指す言葉だったというそれが
何時の間にかもっと大きな水の溜まった場所、海を指す言葉へと取って代わられた。
だが諏訪の湖と呼ばれるように、諏訪の人々に恵みをもたらし営みと共にあった
遠くにアルプスの稜線を望む雄大なる眺めこそが、蔵人の帰る事の叶わない故郷の姿なのである。
「気に入ったろ、湖の精霊だろうが神様だろうが見惚れる程の美しき湖だからな。
ヴィーが此処の 八坂刀売神様かぁ、なら誰か好きな相手とかいない?
諏訪湖の神様は夫婦だからさ、2人の為に御社を建てるよ」
住むんなら誰かイイ人連れて来て住んだら?と気軽く勧めるクラウドに、王侯貴族の子女ですら
滅多に拝めない程の美人が照れたように身をくねらせて水飛沫を辺りに散らす。
「…だったら、エント様を呼んでいい?」
チラと窺うようにして森の精霊王の名を挙げたヴィヴィアンに、クラウドは永い片想いを成就させ
とうとう意中の人を捕まえたのかと歓声を上げた。
「やったじゃん!で何時告ったんだよ〜、ウンディーネは知ってんの?」
「……クラウドがオシカを出てすぐよ、クラウド一家が居なくなったってエント様が奥の泉に訪ねて来て
私も一緒に探すからってウンディーネ様に話を通しに行ったりしてるうちに」
クラウドも自分達一家の失踪が精霊界を騒がせたと知っていたが、その周辺でまさかそんな事に
なっていようとはと、永い永い恋煩いから解放されて晴れて両想いの脳内お花畑な湖の乙女を茶化しつつ
上社と下社を造営する代りに、湖の全面凍結によって発生する氷丘脈に纏わる
ラブストーリーに協力させ、キリアラナにも"御神渡り"を再現させる約束を取り付ける。
そしてそれを見守るしかなかったセドリック達、むくつけき武人には些かハードルの高い
男女の機微なんてものには口を挟むなんて真似は出来ずに伝承が捏造されるのを止められずにいる。
「素敵っ!氷の上に恋の通い路が現れる湖が私の湖だなんて!他の乙女達が羨ましがるわ〜」
クルンクルンと水の裾を閃かせて喜び踊るヴィヴィアンに目を細めるクラウドと
伝承の裏側を目の当たりにして呆然とするセドリック達騎士団一行。
と、その時。
ガラガラと車輪の軸をも折れよとばかりに疾走する一台の馬車が此方目掛けて駆けてくる。
「何事だ!」
駆けて来る四頭立ての馬車は王族と許可を得た高位貴族にしか許されてはいない。
それが全速力で疾走しているのだから只事では無いと、騎士達は腰に帯びた剣の柄に手を掛け警戒し
セドリックが誰何の声を掛けるが止まる気配は無く、そのまま馬車はスワ湖へと落ちた。
「ヴィー!」
「任せて」
馬が狂乱していたようにも思えない、そのまま放っておけば馬車の中の人は溺死確定だろうと
クラウドはヴィヴィアンに馬車を引き揚げるように頼むと
浮き上がった馬車の扉のノブを思い切り破壊した。
すぐに引き揚げられた馬車は、たいして浸水していなかったらしく簡単に開いた扉の向こうには
端が濡れただけの密に織られた絨毯の上のクッションにもたれた年若い青年が座っていた。
「あんた、何をした?」
キリアラナでは見掛けない様式のベンチの無い馬車に乗っていた青年の首に巻き付くような
禍々しい気配と、この馬車を追い掛けて来ただろう追っ手の足音と黒い炎の追尾に
クラウドは青年の肩を揺らして厳しく問い掛けた。




