そうして乙女の夢は結末を迎え、物語は。
リヴィエール子爵が父親であるシランス辺境伯のツテまでをも総動員して調べた結果、
確かに攻略対象達は王立アカデミアに在籍しており、エレミアと接触交流をした形跡はあれど
ゲームシナリオのようにはいかなかったようで。
財相Jr.のジョージ ステラはアカデミアで学ぶ傍ら、父の後継として王城の会計局にて
下積み修行に勤しんでいる中、とある別の貴婦人に一目惚れしてエレミア ダフラシアなぞ
眼中に無かったと調べがついており、現在もその貴婦人に熱を上げているとかいないとか。
そしてフォンドール商会の会頭のドラ息子 マイケルは原作通りに甘えた性格と
舐めた根性の持ち主で、女性の庇護欲を擽って自在に操れればフォンドールの後継の座も
巨万の富も栄耀栄華も思うがままと、まるでアカデミアにはヒモ修行にでも来ているのかと
周囲が眉を顰めているのにも気付かずハーレムを形成し、本来の学業も身の回りの事も
誑かした女学生や女性教師に任せ切りにし、気に入りの男爵令嬢と寮や学園内の至る所で
戯れる自堕落な生活を送っていたが、此度の女禍騒動と呼ばれるダフラシアの淫婦との不行跡が
父の耳に入り、有無を言わさず連れ戻されたその足で過酷なルートを辿る商隊へとぶち込まれ
根性を叩き直し性根を入れ替えて真面目な商人になるまでフォンドール商会の敷居は跨がせないと
半勘当状態で商い修行の旅の最中だそうである。
そして冒険者ギルドBランクのそこそこ凄腕冒険者 双刀のジェットはというと、王立アカデミア入学は
高位ランカーは貴族や大商人等のハイクラスな地位にある人物からの依頼を受ける事も多々ある為
それなりの教養やマナーを学ばねばならないと、Aランク取得に向けた技能取得の一環として
ギルドマスターの推薦状を手にやって来ただけらしいが
運悪くエレミアに目を付けられ、ルートフラグ回収の奇行に巻き込まれただけのようである。
なお現在、そこそこの成績を修め卒業したジェットは活動拠点であるスレイプニルギルドの
看板受付娘 ナタリーを口説き落とすのに成功したらしく、小さな家を借りてそこそこ幸せな
甘々同棲生活を始めたばかりだそうだ。
「あらまぁ…皆さん色々と」
悲喜交々な結末を迎えてはいるが、ヒロインが関わって堕落したのは商会のドラ息子と王子だけ。
流石にゲームのようにアイテムや課金でフラグ建築回収、好感度上げはならないようで
夫々が夫々の道を歩んでいると報告書にはあった。
「そうよねぇ〜ジョージちゃんったら、アフロディアさんに首っ丈だもの」
報告書を携え、王都に構えたファングル公爵邸に訪ねて来たリヴィエール子爵夫人 ショーンは
キャラキャラと声を立てて笑うと、花の形に整えられた小振りの小倉バターサンドを口に運ぶ。
「アフロディアさんというと、本来ならリヴィエール子爵の」
「そう、運命の女よ」
「貴女がシランス辺境伯の後見を受けて冒険者になって暫くした頃でしたわね、女だてらのマステマ通い」
「だって…お義父様には拾って頂いたご恩がありますもの、ご子息が失恋して自棄になった挙句の
放蕩三昧で、シランス領の財政が傾くんじゃないかなんて途方もない自堕落散財生活を知っていて
見過ごしには出来ませんでしたから」
優雅にティーカップを傾けるショーンは、当時の娼館通いを懐かしく振り返った。
「アフロディアさんって女の私から見ても綺麗で魅力的で」
ふふっと笑みを浮かべ、魔獣を倒して稀少なドロップ品を換金しては夜蝶楼に通い詰めていた頃は
王城の公的な舞踏会へ花を添える為の参加資格すら有するマナーと教養を備えた高級娼婦 アフロディアを
指名しては見世のテラスで妖精のような美しい歌声を堪能し、一杯のワインを傾けると宿代わりに
一人シャワーを使いベッドに潜り込む風変わりな女冒険者。
歌は妖精のようと評され竪琴にチェンバロにフルートを弾きこなし、数ヶ国語を自在に操れ古典に通じ
作曲もすればカリグラフィーもやり、水彩画も玄人裸足なマルチな才能の持ち主であり
当然ベッドでのサービスも言うことなしの高級娼婦を色事抜きで
歌に耳を傾け一杯のワインを共にするのみで一晩分の料金の他にチップまで弾む酔狂な客を
アフロディア当人も当初は馬鹿な真似はお止しとばかりにあしらおうとしていたらしいのだが。
「絆されちゃったのよねぇ、お互いに」
何時しか女友達とも呼べる情を育むに至った事と、ショーンが身を呈してモンスタースタンピートから
シランスを守った事件を機にクレールが強引なプロポーズで外堀を埋めていた頃、
異世界より落ちて来た可憐な大和撫子に夢中なクレールは娼館に通う事も無く
出逢いも接点も無かったアフロディアは、国務諮問官長を務めるトロコス伯爵に身請けされ
後妻に収まっていたのだった。
「ご主人の失恋って、トロコス伯爵夫人になってしまったから?」
「原作だとアフロディアさんは肺病で儚くなられてしまうでしょう?
ハイポーションを混ぜたワインを差し入れてたし、ナイショで浄化魔方陣を織り込んだカーペットを
プレゼントしたり健康に気を使わせる方向に導いたから」
何気に運命を捻じ曲げホホホと笑うショーンはアフロディアと互いに貴族の妻として社交界で再会すると
サロンや茶会に呼び合う程、仲良くお付き合いをしているという。
「それは良う御座いました」
「でもそれで財相Jr.に目を付けられて追い回されるとはね」
アフロディア当人は前職が前職だけに男のあしらい方も慣れたものだが、
みっともなく人妻を尾け回しているだけで声も掛けられない腑抜けと笑い者になりつつあるジョージを
何とかして諦めさせようと頭を抱えるステラ財務大臣の胃痛を取り除けないものかと
夫より相談されている身としては、そろそろ引導を渡してやらないととショーンは言った。
「それでリヴィエール子爵の辿る筈だった放蕩者の道をステラ財務大臣の息子さんが行ったら
とても寝覚めが悪いですわねぇ…」
「そうですわね、でしたらお見合いの一つもセッティングしてあげましょうか」
恋に溺れるのは勝手だが、周りに影響を与えてまでのめり込むのも如何かしらと眉を寄せた
グラーシアの心配にショーンは脳内でサロンで見聞きした適齢期の令嬢をリストアップしてゆく。
「そうしてあげて頂戴、失恋の痛手は新たな恋で癒えますもの」
安心したようで小倉バターサンドを摘むグラーシアに、ショーンはコクリと頷いた。




