齟齬と魔性と成り行きと
余談だがエニグマダンジョン特区の同性婚を取り決めた一文には"ダンジョン特区にて活動をする、若しくは
していた実績のある冒険者に限り同性同士の婚姻を認める"とあるので女性同士のカップルも何組か
態々エニグマダンジョン特区のギルドにて冒険者登録、何度か迷宮ドロップ品をギルドに持ち込み買い取り実績の記録の記されたギルドカードを添えて婚姻届を提出しているという。
「…俺の貞操の危機は理解しました、で、おグラさんや王様一家の危険の方はどうなんでしょう?」
冒険者としてやっていく中での(男の矜持的な)危険を嫌という程言い聞かせられたクラウドは
本来の議題である王家王族に対する叛意と、乙ゲーのシナリオから外れてしまった登場人物の行方を把握し
此方側の害になる者かどうかを選別せねばならない。
「俺様何様なべオ様は既に修道院入りされてるし、リヴィエール子爵はショーンさんの忠実な夫だし
子飼いのジャンは取っ捕まえてあるし」
「残りの財相Jr.と商会のボンとB級ライセンスがどうしてるか調べさせるわ、アナタ」
ショーンが魔方陣の魔石に触れ、防音効果を一時OFFにすると自分の夫に声を掛けた。
「ショーン…私は放蕩者でもスキモノでもないからな」
「知ってますよ、私が"落ちて来なかった"もしも"の世界の話ですわ」
ふらふらと近付くクレールは妻に縋るように手を取って訴えれば、ショーンももしもの話として
本来の『イケ恋』でのリヴィエール子爵のその後を掻い摘んで聞かせた。
「アナタが私と知り合われなければの複数あった未来の一つ、私が居なければアナタはマステマ一の名花
夜蝶楼のアフロディア嬢と恋に落ちた挙句、叶わぬ恋にやさぐれて放蕩の限りを尽くすようになり、
その荒んだ生活の隙をダフラシアの淫婦に突かれて、骨抜きにされ髄までしゃぶられる」
異世界より降された妻の言はまるで、森の奥に棲まう老エルフの如き未来視の宣託のようで
知らず背を正して聞き入るクレール。
「ダフラシアの花売り令嬢はさ、多分俺等と同じ世界の同じ国に居た女の子でしょうよ」
「そうなの?」
それは初耳とグラーシアは、横から口を挟んだクラウドに問う。
「あの娘の言動がこのゲームを知ってる逆ハー狙いだなって思ったんですよ、市井に伝わってる話だけでも
いちいちイベントをクリアしようとして行動してる節があったし」
「あのお嬢さん…そんなに?」
先の婚約破棄騒動でほぼ初対面の男爵令嬢が、世間で膾炙される程の不品行を重ねていたのかと
驚いたグラーシアが今更ながら元婚約者と自身の立場を奪おうと画策していたらしき
愛人擬きの醜聞に眉を顰めた。
「王都に来てショーンさんが集めてくれた噂でですけどね、ダフラシアのネーちゃんは面白おかしく
"マステマ通りの花売り令嬢"とか、野心溢れる淫売が王子を仕留め損ねて折角磨いた男漁りの技術を活かして
売春を本業にしたとか有名になっちゃってて王立アカデミアでは下級貴族の令嬢が王族や上位貴族の後継を狙って
男漁りをしたり、食い詰め三男以下の貴族の子供が爵位目当てに婿に押しかけるべく
女の子をハントするテクを磨いてるとか中々エゲツない噂が流れててお上は噂の火消しに躍起ですよ」
王家肝煎りの王立アカデミアは王族と貴族子弟の教育の為に創設されたキリアラナ一の学園である。
其処でベオヘルグとエレミアは恋に落ちたのか乙女ゲームをリアルで攻略しに掛かったのかは
今となっては分からないが、それに近い出来事があったようだ。
グラーシア自身は偶々起きた戦争に、父親だけでなく領民達をも出兵させねばならない家庭事情もあれば
何よりベオヘルグ王子との婚約も口約束ではあるが決まっていたし、領地にて銃後を守る母と共に
ファングル領の領主館にて家庭教師と王家より遣わされた講師達によって
王族に嫁ぎ、新たなる領地を経営する特別な未来の大公夫人に相応しい教育を施されていた為に
王立アカデミアに態々通う事は無かったのだけれども。
「お前という者がありながら私があんな悪名高い淫婦の毒牙に掛かる訳が無いだろう、だが異世界の
未来視にそのような結果があると其処の精霊使いまで言うのだからな…」
全く信用出来無い内容ながら、妻以外の異世界人にまで同じ事を言われては信じない訳にはいかないと
信じるしかないではないかと項垂れながらもクレールは挙げられた人物について、調査する事を約束し
知っている事も全て明らかにすると約束した。




