騒動の燠火
カルロの復命はまだか、何度もそれを口にするこの国の王太子 ハインリヒは
使者として派遣した側付きのカルロを待っていた。
「王太子に娘をくれとは図々しい事は言えぬと言った舌の根の乾かぬうちに
あのような申し出をクリストフは何と聞くでしょう」
頭を抱えるように椅子の背もたれにもたれる王妃は目の前の我が子の浮かれぶりと
呆れているであろうファングル公爵の嫌そうな顔を想像して目を閉じた、
王もクリストフの軽蔑も露わな眼差しと亡き妹の呆れ顔を思い浮かべて渋い顔だ。
「あのなハインリヒ、今回は思う所がある故こんな図々しい申し入れをしたが
ベオヘルグがあんな酷い真似をしておいて謝罪もそこそこに婚約相手を
弟から兄にすげ替えてくれなんて普通は言えぬし言わぬのだぞ」
両親からは了解を得たと急かしてファングル公爵邸にカルロを遣ったと聞かされた
王は諭すように息子に言い聞かせているがハインリヒは右から左へと聞き流す。
「既に"転生者"獲得の動きが出てきているのでしょう、
なれば騒動を抑えるには私が立候補するのが一番「「問題がある!」」
ハインリヒの発言に王と王妃は最悪の悪手だと被せた、
「惚れただのと騒ぐが今のタイミングは最悪じゃ、
当の令嬢にすら陳腐な政略の言い訳としか取られぬのに」
三男のやらかしの始末もまだなのに長男もかと王妃が事をどう穏便に収めようかと
扇を忙しなく開閉しながら思案しながら
先走って軽率な行動を起こしたもう一人の息子を睨め付ける。
「まさか本気で僕がグラーシアに惚れたとか言い出して
あのアホみたいに見境無く動く訳無いでしょうが、
夢見る小娘相手の砂糖塗れスイーツ小説の王子じゃあるまいし」
ニコニコと上機嫌な顔でハインリヒは弟をバッサリ、
惚れた腫れたでは無いのに何故そんなアプローチをしたのかと王妃は息子の
冗談にしては面白くない企みに掌に扇を叩きつけて怒っているポーズを取る。
「確かにあの度胸と思い切り良さは王の半身として立つには好ましいけれど
グラーシアはカルロの妹だからね、私も妹のようにしか見れません」
「ならば何故そのような悪手を!?」
「カルロがね、可愛くて」
へらりと笑んで側付きに不似合いな賛辞を贈る長男の発言にここにきて
王太子が同性愛者なのかと血の断絶の恐怖に両親は青ざめる、
「違いますよ、僕はそういった目的でカルロを召そうとか思ってませんし
そんな関係になりたいとかでは無くてね」
悪戯を仕掛ける子供みたいに目を細め、
復命に戻ってきたカルロを認めて口を閉ざしたハインリヒに王と王妃は
息子が何を考えているのかと渋面を作ったままだ。
「クリストフが来るのは午後かな?その時にちゃんと説明して納得させますよ」
「納得出来る内容なのだな」
「えぇ」
ベオヘルグの婚約破棄騒動でほぼ徹夜だった王とファングル一家、
それでも事が事だけにすぐにでも王宮へやって来るであろう公爵が現れるまで
取り敢えずカルロから公爵家の返事聞いて一休みするかとハインリヒは
確信を持った口振りで父に答えた。




