フンボルトペンギン
フンボルトペンギンを見に行くんだな、よしこっちだ!
◇ ◇ ◇
よし到着だ。
ほら、あれがフンボルトペンギンだ。
見覚えのあるペンギンだと思ったか? だとしたら正解だ。
フンボルトペンギンは、日本ではもっとも多く飼育されているペンギンでな。水族館や動物園にいるのはだいだいがこのペンギン、と言って差し支えないだろう。日本全国的には、1600羽以上が飼育されてるって話だ。
どうして日本ではこのペンギンが多く飼育されているのか? そう思うだろう。
その疑問にズバリ答えると、『日本の気候上、飼育しやすいペンギンだから』なんだ。
フンボルトペンギンの生息域は、南米のペルーやチリの海岸でな。このあたりの温暖な気候は日本とよく似ていて、フンボルトペンギンにとってこの国は快適に過ごせる場所であると言えるだろう。ちなみに、南アメリカを北上するように流れる『ペルー海流』は別名『フンボルト海流』と言われていて、これが彼らの名前の由来なんだ。
ペンギンといえば寒い場所にいる、というイメージがつきものだと思う。
しかしそうとは限らなくて、温かい場所が好きなペンギンもいるんだ。このフンボルトペンギンもその一種だな。
フンボルトペンギンのクチバシの周りのピンク色の部分を見てほしい。ここは肌が露出している部分で、体の熱を逃がす役割を持っているんだ。
温暖な気候に適応した進化を遂げたこのペンギンだが、逆に寒い場所は苦手で、冬季営業期間中は展示していない水族館もあるから注意してくれ。
気候も適しているし、飼育下では餌に困ることも天敵に襲われる危険もない。それに、日本の優れた繁殖技術も、個体数が増えている理由なんだ。
停電になっても停止しない孵卵器や病気治療の技術、なによりも保護意識の高さから、フンボルトペンギンは順調に数を増やしてきて、日本での出生率も飼育数も世界有数……ここはまさに『フンボルトペンギン大国』なのだが、今度は逆に増えすぎが問題視される事態になってしまっているんだ。
過剰な繁殖はやっぱりまずいからな。
そこで卵を石膏などで作った偽物とすり替えて繁殖を抑制し、個体数をコントロールしているんだ。
多くの施設で飼育されているから、フンボルトペンギンはどこにでもいるペンギンと思われることもあるようだが、実は絶滅危惧種なんだ。
数が多いのはあくまで飼育下での話、野生下では人間による魚の乱獲や住処の破壊、重油流出事故やプラスチックなどの海洋ごみ問題に直面しているんだ。現地の政府が保護計画を進めているようだが、野生のフンボルトペンギンは年々減少傾向にあるのが現状だ。
日本で繁殖したフンボルトペンギンを現地に連れていけばいい、というものでもないらしい。彼らが安全に生きていける環境ができなければ、事態は変わらないだろう。
……少し、深刻な方向に話が向いてしまったな。
まあ、今の話は頭の片隅にでも留めておいてくれれば幸いだ。
お、ちょっとこっちを見てみてくれ。
このモコモコしているのは、換羽中のフンボルトペンギンだ。
換羽とはその名のごとく、年に一度全身の羽毛が生え替わる生理現象でな。古い羽根が新しい羽根に押し出されているから、こうなっている。
ペンギンの羽には、冷たい水から身を守ったり体温を保つ作用があってな。羽が水や日光の影響で古くなってしまうと、そういった機能が減退してしまうんだ。飼育下では多少は問題にはならないかもしれないが、野生下では命取りになることもある。だから、定期的に新しい羽と取り換える必要があるのさ。
換羽はペンギンにとってかなり体力を使う一大イベントだが、飼育員さんにとっても掃除が大変になる時期だろうな。
さて、フンボルトペンギンについてはこんなところか。
【フンボルトペンギン】
【英名】Humboldt Penguin
【学名】Spheniscus Humboldti
【有名な個体】
葛西臨海水族園の脱走ペンギン・『さざなみ』
https://www.youtube.com/watch?v=ZQmfo52v1Jw
【特記事項】
温帯性で飼育しやすく、日本での飼育数がもっとも多いペンギン。
しかし、環境破壊や漁業によって魚を奪われるといった要因によって野生下での個体数は減少しており、絶滅が心配されている。
一方で、日本では気候や優れた繁殖技術による個体数過多が問題視されている。卵を偽物とすり替えることで繁殖を抑制しているほどで、全生息数の1割が日本で飼育されている個体ともいわれる。
野生下では減りすぎ、飼育下では増えすぎという両極端な状況にあるフンボルトペンギンだが、飼育大国としての日本の繁殖技術と実績は注目を集めており、その現地での応用のためにチリに技術指導が行われている。




