81 現の塔
塔の最上階にたどり着いた三人。
そこで目にしたのは、ゲートの前に立ちふさがる異形の姿だった。
街に蔓延る異形と比べると圧倒的に小さく、二足歩行の大ウツボというより人間に近い。
しかし、不気味さは普通の異形とは比べ物にならない。
しかもこちらの姿を確認できているのにも関わらず、ピクリとも動かないのがさらに不気味さを加速させる。
「こちらの勝利条件は唯一つ。あのゲートの中に飛び込むことです。あの門番を倒すことは考えない方が得策です」
「それって強すぎるからってこと? ふふふ……ちょっと燃えてきたよ」
やる気十分に前進するクロエを、エリシアが止める。
「駄目。それ以上近づいたら動いてくるわ」
「だったらこれでどう?」
クロエは手の平を前に突き出し、得意の闇弾を放つ。
しかし当たる寸前で、闇弾はシュッと消えた。
「あれ?」
「あいつに飛び道具は通用しないわ」
「近づくのも駄目、遠くからも駄目……いったいどうすれば」
「最初にトラオムが言ったでしょ。あいつとは戦わずゲートに入る。それしかないわ」
「ですがゲートに入るには、いずれにしろ近づかなければなりません。覚悟はよろしいですか?」
トラオムの言葉に、クロエとエリシアは同時にうなずく。
作戦開始。三人は一斉に門番の間合いに飛び込んだ。
(さあ門番、かかってくるのです。わたしは夢幻世界の『管理者』として、お二人を無事に目を覚まさせなければなりません)
トラオムは囮だ。門番の攻撃が自分に来れば、クロエとエリシアに時間の余裕が生まれる。
その目論見通り、門番はトラオムをターゲットにしてきた。
(速い! ですが受け止めます!)
トラオムは防御魔法を展開。
光の障壁が出現するものの、容易く突破されトラオムは壁際まで吹き飛ばされてしまう。
だが、これでほんの少しだが時間が稼げた。
クロエとエリシアは半分ほどの距離まで詰めている。
そして次に門番がターゲットにしたのは、エリシアだった。
(くっ、間に合わない……!)
エリシアには身を守るだけの余裕もない。
為す術もないまま、門番にやられてしまう。
「かはっ……!」
「エリィ!」
「私に構わず行って!」
門番の視線は、残されたクロエに向けられる。
クロエとゲートとの距離は、あと少し。
しかし、希望は潰えた。
まるで三人の努力をあざ笑うかのごとく、門番がクロエの前に回り込んだ。
「うっ、パラダ――」
そしてクロエの首を締め上げ、地面に叩きつけた。そのまま動かなくなってしまった。エリシアも同様――。
「クククク……ギギギギ……」
今まで一言も発さなかった門番が、笑い声のようなものを上げた。
「コノテイドカ。ジツニアッケナイナ」
「うぅ、そんな……」
「アトハキサマダケダ」
「――ふ」
その時、トラオムは不敵に笑った。
瞬間、フロアの床が破壊され――下の階からクロエとエリシアが姿を現した。
「ナニ!? ナゼキサマラガ!?」
「その二人はボクが作った分身さ。そっくりでしょ!」
クロエの闇魔法によって作られた二人の分身は、黒い霧となって散っていく。その隙にエリシアは、門番の背後を捉えていた。
「この距離なら無効化は出来ないはずよ。――《光槍》」
超至近距離から放たれた光の槍が、門番を貫く。
「グアアアアアーー! ダガ、コレデオワリトオモウナヨ……」
門番は前のめりに倒れた。
あとはゲートに飛び込むだけ。
「行ってください! お二人とも!」
トラオムが声を振り絞って叫ぶ。。
すべてはこの瞬間へとつなぐためだった。
最上階に現れた三人は、全員囮。本物のクロエとエリシアは、下の階で待機していた。もちろん、エリシアの魔法で気配を消して。
すべては作戦通り。
の、はずだった。
『3』
戦闘不能となったはずの門番から、無機質な音声が流れる。
『2』
それは何かをカウントしているようだった。
「自爆してゲートを破壊する気です!」
いち早く気づいたトラオムが二人を急がせる。
「エリィ。先に行ってみんなに会ってきてよ」
「クロエ!? 何をする気!?」
「トラオムを助ける。自爆に巻き込まれたらきっとただじゃ済まない」
「分かってるの!? これを逃したらもう帰れないのよ!?」
『1』
クロエは黙ってエリシアを突き飛ばした。
「大丈夫。遅れるけどボクも必ず帰るから」
「待って、クロ――」
エリシアはゲートの中に入って姿を消した。
それを見届ける暇もなく、クロエはトラオムの元へ急ぐ。
「クロエ様!? どうしてですか!?」
「誰にも犠牲になってほしくないんだよ。ボクの友達なら特にね」
『0』
ズドオオオオオオーーーン!!
凄まじい轟音と共に、塔は崩壊した。




