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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第3章 グリモア
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70 第3章エピローグ

 胡蝶の夢、という言葉がある。

 簡単にいえば現実と夢があやふやになることだ。

 クロエはそれとまったく同じ状況に陥っていた。

 

 ベルディアとの出来事は、あれから何日か経った今でもはっきり覚えている。

 けど、一緒に行動していたはずのグリモアは何も覚えていない。

 というより、最初からそんな記憶は存在していないかのようだ。

 

 地下室への階段も、ベルディアという人物の存在も、最初から存在していなかった。

 

 それが真実なのかもしれない。

 そう思い込めばすべてが丸く収まる。

 しかし、頭だけでなく全身にも刻み込まれた記憶が、そうするのを邪魔してくる。

 確かめなければ。グリモアは忘れているが、他の誰かは覚えているかもしれない。

 一人でも見つかれば、ベルディアとの出来事は現実だったと証明できる。

 

「我が主よ。まだベルディアとかいう人間のことを探しているのか?」


 と、決心を固めたその時、グリモアがひょっこり姿を現した。


「うん。グリモアは何か思い出したこととかない?」


「思い出すも何も、そんな人間は最初からいないだろう」


「……はぁ」


 思ったとおりの答えが返ってきて、クロエは落胆した。

 とりあえず分かったのは、これ以上グリモアに聞いても無駄ということだけ。話が平行線にしかならない。

 なので早々に話を切り上げ、別の人に尋ねることにした。

 

 まずはエリシアから。

 ちょうどよく、エリシアが書物庫に入ってきた。

 

「ねえエリィ。ベルディアのこと覚えてるでしょ?」


 クロエがそう言うと、エリシアは首をかしげた。

 

「ベルディア……さん? 誰? クロエの知り合い?」


「――!?」


 そんなまさか!

 エリシアが仲間のことを忘れるなんて、そんなこと絶対ありえない。

 けど最初から記憶が存在しなかったなら、そんなこともありうる……いや、それこそありえない、とクロエは首を横に振った。

 なぜならエリシアは、自分自身の口ではっきりとベルディアのことを言っていたからだ。

 

「本当に覚えてないの!? ベルディアが魔力に敏感だって教えてくれたの、エリィでしょ!?」


「あったかしら、そんなこと……」


 エリシアはあごをつまんで明後日の方向を見上げた。

 本当に何も覚えていない。というより、存在しないものは思い出しようがない、という感じだ。

 

「……っ!」

 

 ガツンと殴られたみたいに、頭がくらくらしてくる。

 エリシアでも覚えていないなら、もうほかの誰も覚えていない気がする。

 それでもクロエは、ベルディアを覚えている別の誰かを探しに、ふらふらと書物庫を出ていった。

 

「……変なの」


「数日前からああなんだ」


 そんなクロエを、二人は不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 

 通路の曲がり角で、クロエは誰かとぶつかった。

 おかげでクロエは後ろに弾き飛ばされれる。

 

「いたたたた……」


「おや、大丈夫ですか?」


「あ、大聖女様。ボクなら大丈夫だよ」


 相手は大聖女だった。

 クロエと比べるとかなりヘビィ……おっと失礼。ふくよかな人なので、向こうはまったくの無事である。一ミリすら動いちゃいない。

 そんな大聖女に手を貸してもらいながら、クロエは立ち上がる。

 

 ふと思った。

 大聖女様なら、何か知っているんじゃないかと。


「そうだ、大聖女様。今から変なこと聞くよ」


「ん、なんですか?」


「ベルディアのこと、覚えてる?」


「ベルディア……」


 大聖女は考え始めた。

 考えるということは、ベルディアのことを知らないということになる。

 しかし、グリモアやエリシアとは何かが違った。

 何か、心当たりがあるようだった。

 

「その名前を私は知っています。ですが、貴女の思っている方とは同名の別人かもしれないので、いくつか質問させてください。まずそのベルディアという方に姉はいますか?」


「――! い、いるよ!」


「ではその方の名前は…………オリヴィエ」


 大聖女からその名前が出た瞬間、クロエの記憶が蘇る。

 

『……私の姉のオリヴィエだ。といっても歳は5年前に私が越してしまった。姉は15歳のまま時間が止まっているんだ』


「言ってた! そう言ってたよ!」


「そうですか。では最後の質問です。その方達(・・)は、もうこの世にはいませんか?」


「……方達?」


 それは明らかにおかしい。

 まるで、二人とも死んでいるような言い方だ。


「いや、ベルディアは生きてるよ。普通に喋ったりもしたし、それに」


「――クロエ、貴女には見せなければならないものがあるようです。私に付いてきてください」


 話を続けるクロエを、大聖女はさえぎって言った。

 クロエはそれに従うことにした。

 向かう先は、大聖堂の地下にある納骨堂だった。

 まるで倉庫のような場所だ。薄暗く、静かなこの空間には、引出し棚がマス目の如く続いている。


「ねえ、ここって死んだ人の骨を保管する場所だよね?」


「そうです。納骨堂ですから」


「じゃあ、ベルディアは……」


「…………」


 大聖女は何も言わず立ち止まった。

 目の前にある引出しには『オリヴィエ』『ベルディア』という名前のプレートがあった。

 するとおもむろに大聖女は引出しを開け、中から一枚の写真を取り出した。

 それは、以前クロエが地下室で見たものと同じ、姉妹が仲良く写っている写真だった。

 クロエはすべてを理解した。

 

「そんな、嘘でしょ!?」


「いえ、確かです。10年前、近くの村で魔物の襲撃事件がありました。その際、彼女達は魔物に……」


 大聖女は姉妹の最期を語り始めた。

 村の生き残りから聞いた話によれば、村を襲ったのはたった一匹の魔物。

 しかしその魔物はあまりに凶悪で、村民を片っ端から殺し回った。

 姉オリヴィエは、妹ベルディアをかばって殺され、それからすぐベルディアも殺されたのこと。

 話を聞いただけでも凄惨さが目に浮かんでくるようだった。

 思えばベルディアが剣の達人だったのは、強ければ姉を守れたかもしれないという想いの表れなのかもしれない。

 

「でも、ボクは本当にベルディアと一緒に過ごしたんだよ。信じられないと思うけど、本当に」


「私は信じますよ。そしておそらく、私も彼女と一緒に過ごした。けど、それを覚えているのは貴女だけ。きっとそこには、特別な何かがあるのでしょうね」


「特別な……何か……」


「その記憶は大事にしていてください。それが、彼女の生きた証になるんですから」


「うん。絶対、忘れない」


 クロエは強く頷いた。

 

 

 

 それから数日後。

 クロエはベルディアのことをめっきり話さなくなった。

 

「なんだ我が主。あのなんとかっていう人間を探すのはもうやめたのか?」


 グリモアが突っかかってきた。

 この様子だと、グリモアは名前の頭文字すら忘れていそうだ。

 

「うん。やめたよ」


「そうかそうか。やはり無いものを探すなんて合理的ではない。やっとだが気づけてよかったな」


「でも、ちゃんといるからね?」


「どこに?」


「そりゃもちろん……って、言わせないでよ恥ずかしいなぁ~!」


「やれやれ。何を一人であんなに盛り上がってるんだか。楽しいことでもあったのか?」


「うーん、まあ、色々とかな。とにかく本当に色々あったよ」


 何があったかは、グリモアは覚えていない。

 けど、別にいい。クロエが覚えているのなら、きっと意味はある。

 ベルディアとの奇妙な日々は、決して忘れることはないだろう。

 そしてこれからも、奇妙な日々は続いていく。

 

「そうか、色々か。楽しそうで結構結構」

 

 隣を見たら、そんな気がしてきた。

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