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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第3章 グリモア
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66 魔導書をつくろう

 紙、インク、ペン。

 呪われた魔導書もどき、グロテスタスの灰入り墨汁、精霊の羽ペン。

 

 三つの魔導書の素材が手に入ったことで、クロエはさっそく魔導書づくりに取り掛かろうとしていた。

 テーブルの上には、すでに三つの素材が並べられている。


「……それで、魔導書ってどうやってつくればいいの?」


 しかし、具体的なつくり方をクロエは知らなかった。

 素材集めだけで手一杯で、つくり方を調べる余裕はなかったのだ。

 

 とはいえ闇魔法はとうの昔に廃れている。

 どんな本を読んでも魔導書のつくり方なんて見つからないだろう。


 手探りで行くしかない。

 クロエはまず羽ペンを手にした。

 

「何をしているのだ我が主。100ページ手書きで書くつもりか?」


「え? そうじゃないの?」


「自動書記の魔法を使う。そこにある三つの素材を正三角形になるように並べてくれないか?」


「う、うん」


 言われるがままクロエは素材を正三角形に並べていく。

 グリモアが自分の従者であることを思い出しつつもクロエが並べていく。

 そして、100ある闇魔法の中に『自動書記』の魔法があることも思い出していた。

 

「あ、そういえばそんな魔法があった気がするよ」


 魔導書でいえば10ページ目。

 初歩的記録術、序列の十番《сёки(シークヌ)》――という、いかにもな感じのする魔法があるのだ。

 魔導書の内容をすべて覚えているはずのクロエが、今になってようやく思い出したのは、やはり……

 

「最近、魔導書読んでなかったから忘れてたよ」


「頼むぞ我が主。自動書記は『記憶』が頼りなのだからな」

 

「分かってるよ。内容はちゃんと覚えてるから大丈夫だって」


「そうか。それなら安心だな」


「並べるのはこんな感じでいい?」


「ああ。準備が出来たならさっそく始めようか」


「そうだね!」


 クロエは正三角形の中心に手をかざし、魔法を詠唱する。

 

「《сёки(シークヌ)》」


 するとたちまち、紫色の幾何学模様――魔法陣が展開された。

 正三角形の頂点にある三つの素材は、それぞれが宙を舞う。

 

 魔導書は最初のページが開かれ、

 インクは瓶と中身が分離し、

 ペンは魔導書に最初の魔法――序列の一番《уад(ヤダ)》を記録し始める。

 

 程なくして書き終えると、次のページへ。

 また程なくして書き終えると、またさらに次のページへ。

 すべてが全自動で進んでいく。

 

「すごい! ほんとに何もしなくてもいいんだね!」


 楽なのはとてもいい。

 楽なのはすべてに優先される。

 

 ……あまりに楽すぎて、少し眠くもなってきた。

 

「だが気は抜くんじゃないぞ……って、言ってるそばから!」


 ふわぁ~ぁ、とクロエがあくびをした瞬間、羽ペンの動きが狂い始める。

 慌ててあくびを引っ込めると羽ペンは元通りになったが、その代償として67ページ目の字が少し汚くなった。

 

「あ……でもまあいっか」


 しかし、クロエはそんな小さなことは気にしない。

 トラブルは(実質)何も起こらず、順調に執筆は最後のページ――100ページ目へと至る。

 

「あ、待って待って」


 その時、クロエは意図的に集中を途切れさせ、自動書記を止める。

 

「どうしたんだ?」


 グリモアはクロエの不自然な行動を訝しむ。


「最後はボクの手で書きたいんだよ。いいよね?」


「なるほど、そういうことか。もちろんだ。あの魔法は我が主が創り上げたものだからな」


 好きにするがいい、とグリモアは言う。

 するとクロエは、宙から落ちてくる羽ペンをすかさずキャッチ。同じく宙から落ちてきた魔導書の100ページ目に、100番目の闇魔法の詳細を記録しようとする。

 この時クロエは、今までの書式とは大幅に変えようと考えていた。

 

 具体的には、仰々しいグリモア文体を直すこと。

 あの書き方は雰囲気はあるが、いまいち分かりやすさに欠ける。

 魔導書は言わば魔法の辞典なのだから、もっと分かりやすくあるべき……というのがクロエの考え方だった。


(好きにしていいって言われたし、好きにさせてもらうよ。じゃあまずは……って、あれ? う、腕が、勝手に動く……!)


 しかし、クロエの意志とは別に、羽ペンとそれを掴む手は勝手に文字を綴り始める。

 

 

 ――最上級時空魔法、序列の百番《парадигм(パラダイム)》。時を統べし『王』にのみ扱える究極の魔法。『王』が望めば、対象の姿を過去にも未来にも自在に変えられるだろう。闇は、そなたの味方だ――

 

 

 出来上がった文章を見て、グリモアは共感したふうに「ほう」とつぶやく。

 

「さすがは我が主、いい趣味をしているな。私と気が合うのは間違いないだろう。とはいえ……『王』とは大きく出たものだ」


「ち、違うんだよ。なんか、勝手にそう書かれてったんだよ」


「勝手に? どういうことだ?」


「分からないよ」


「むぅ……だが魔導書はこれで完成だ。タイトルはどうする?」


 完成。

 その言葉を聞いて、クロエは一瞬で鬱々した気が吹っ飛んだ。

 最後に予測しない事態が起こったけど、夢に見た魔導書が手元に戻ってきた喜びに比べれば些細なものだ。

 

「それはね。最初から決まってたよ。『гримойре(グリモワール)』」


「その名前は……前のと同じではないか。いいのか?」


「いいんだよ。ボクはあの(・・)魔導書が読みたかったんだ」


「そうか、なら決まりだな。新たな魔導書の名は『гримойре(グリモワール)』だ!」


 次の瞬間、魔導書の表紙に『гримойре(グリモワール)』の文字が出現した。

 

 

 ――ついに、魔導書が完成した。

 その晩、クロエは魔導書を抱き枕にして眠っていた。

 おかげで恐ろしく変な夢を見る羽目になったが、それでもなおクロエは最上級の幸せそうな寝顔を浮かべていたという。

 

 そして次の朝。

 

 

 ……大事に抱いていたはずの魔導書が消えていた。

 

 

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