59 うねうねvs炎使い
「……は、はァ?! いくらなんでもこれは聞いてませんわ! 大体アレはなんですの!?」
ライナは震える指先で『うねうね』を差す。
その禍々しいオーラを放つ『うねうね』は、まるで三人を威嚇するように紫色の触手の先端を向けていた。
「アレはグロテスタスっていう……植物だよ、たぶんね」
クロエは案外落ち着いて答えた。初見じゃないせいか、ライナより幾分冷静だった。
「名前を聞いたんじゃありませんわ! どうしてあんなになったかを聞いたんですわ!」
「ボクにも分からないよ。いつの間にかああなっちゃったんだ」
「まったく、使えないですわね……けどいいですわ。アレを燃やせばよいのでしょう?」
「うん、よろしく!」
「いきますわ――《炎球》!」
ライナの手の平から、拳三個分ほどの大きさの炎球が発射される。
だが炎球は、グロテスタスに当たった瞬間、吸収されるようにして消滅してしまった。
まったく効いていない。しかも怒らせてしまったようで、グロテスタスは触手をムチのようにしならせて叩きつけてきた。
「んひぃっ!」
ライナは悲鳴を上げながらも、後ろに下がって間一髪かわす。
「グロテスタスは炎に強い植物だ。生半可な炎では逆に力を与えてしまうぞ」
と、グリモアは言うものの。
「これ以上火力を上げれば周りに燃え広がってしまいますわ!」
ここは屋内。しかも本や本棚といった燃えやすい物しかない書物庫だ。
「大丈夫だ。私がなんとかする」
「妙に自信あり気ですわね」
「実際そうだからな。さあ、奴に最大限の火力をぶつけてやるんだ」
「もう、どうなっても知りませんわよ――《獄炎》!」
轟々と燃え盛る三本の火柱が、グロテスタスの根本から出現する。
やがてそれは一纏めになり、極太の炎柱となってグロテスタスを飲み込んでいく。
さっきとは違い、効果はあるようだ。
紫色の触手は、徐々に黒い灰と化していく。
――しかしグロテスタスは、最後の抵抗とばかりに触手を伸ばしてきた!
「あれぇ……なんかまずくない?」
もう終わったかな、と安心して傍観していたクロエの額に冷や汗がタラリ。
その触手で足を絡め取り、炎の道連れにでもしてきそうだ。
というか、そんな気しかしない。
「実際まずいぞ! 逃げるんだ我が主!」
「もう逃げてるよ!」
「あーちょっと! わたくしを置いていかないでくださいまし!」
一斉に走り出す三人を、三本の触手が追う。
死に際の急成長と言うべきか、触手は限界を超えて伸び続けている。
が、炎の周りの方が速かった。
触手が誰かの足を絡め取る前に、燃え尽きて灰となった。
「はぁ、はぁ……これで本当に終わったんだよね?」
そんなに長い距離を走ったわけでもないのに、息切れを起こしているクロエ。後ろを見てみると、床にグロテスタスの灰が降り積もっていた。そして、周りの本棚は焦げてすらいなかった。
「貴女の言った通りでしたわね。延焼を防ぐ魔法とかが闇魔法にはあるんですの?」
ライナはグリモアに尋ねる。
「いいや、魔法すら使っていない。魔力の膜を作って周りを覆っただけだ」
「なるほど、そういうことでしたのね」
「そんなことより我が主、あの灰を集めに行くぞ」
「うん。『インクの素材』だね!」
クロエとグリモアは、手分けして灰をバケツに入れていく。
かなり大きく成長してくれたおかげで、灰を入れたバケツは何個も作られていく。
そしてこの灰は、魔導書の文字を綴るための『インク』の素材となるのだ。
「……あの二人、何を仲良くやっているのでしょう」
とはいえライナには、二人が後片付けをしているようにしか見えていなかった。
「あのぅ、わたくしはもう帰ってもよろしくて?」
「うん、ありがとねライナ。おかげですっごく助かったよ」
「うむ。お前の炎魔法は実に見事だった。我が下僕にしてやってもいいぞ?」
「げ、下僕!? なんでですの!?」
「ふふふ。冗談だ」
「もう……」
あはは、と笑い合う三人。
最初はグリモアが苦手だと言っていたライナだったが、もうすっかり打ち解けていた。
「じゃあわたくしはこれで。この本はクロエに預けますわね」
その帰り際、約束通りライナは黒い本を差し出す。
「やった、これで……」
「ん? 何か言いました?」
「い、いやいや、なんでもないよ」
クロエは半笑いを浮かべながら呪われた黒い本――出来損ないの魔導書を受け取る。
手で触れたことで所有者はクロエとなり、同時にライナも呪いから解放された。
両者両得。二人は満面の笑みを浮かべた。
「やった、これで……『紙の素材』も手に入っちゃったね!」
「魔導書完成に大きく前進だな」
「んふっ。いいねいいねぇ、順調だねぇ~」
クロエは半笑い、満面の笑みと続け、最後はニンマリ笑いで締めるのだった。
『インク』『紙』の素材を同時ゲットした!!




