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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第3章 グリモア
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58 出来損ないの魔導書

 朝、クロエが目を覚ますと、高い所にあるはずの天井が低く感じられた。

 圧倒的既視感。数日前にもこんなことがあった気がする。

 程なくして目のピントが合うと、ライナが顔を覗き込んでいるのが映った。

 

「おはようクロエ。今日も遅い目覚めですわね」


「……どうしたの。何か用?」


「これを見てくださるかしら」


 そう言ってライナは、黒い本を取り出してきた。

 クロエもむくっと起き上がり、その本をじっと見てみる。

 

「この本はいったいどういう本ですの?」


「うーん、分からないなぁ。ちょっと貸してみてくれない?」


 クロエは手を伸ばして本を取ろうとする。

 しかしライナは手を引っ込めて、本を取れないようにしてきた。

 

「さ、触っちゃ駄目ですわ!」


「なんで?」


「とにかく、絶対に触っちゃ駄目なんですの!」


「わ、分かったよ。触らない触らない」


「ほっ……」


 安心するライナの姿を、クロエは不思議そうに見つめる。

 他人には触らせたくないほどに大事な本なんだろうか。

 

「けど、近くで見てみないと分かる物も分からないよ。表紙は真っ黒いし、タイトルも掠れてて読めないし……」


「タイトル? まさか貴女、この本のタイトルが見えてますの!?」


「え? もしかしてライナには見えてないの?」


「ええ、そうですけど……」


「そっか、なるほどね」


 黒い本には心当たりはないが、タイトルが見える・見えないの特徴には心当たりがある。

 そう、魔導書だ。今は失われているが、あの魔導書には『гримойре(グリモワール)』というタイトルがあった。

 そしてそのタイトルが見えていたのはクロエだけだった。

 ライナが持っている黒い本も特徴が同じ。

 もしかしたら、その本も魔導書なのでは?

 クロエはそう考える。

 

「グリモアにも見せてみようよ。何か知ってるかもしれないしさ」


「あー、闇魔法の始祖だとか仰ってたあの……けどわたくし、あの方はどうも苦手ですわ」


 ライナはグリモアのことが苦手。

 なんというか、案の定という気がしたクロエだった。

 

 

 

 

 

「ふむ。これは闇魔法の魔導書だな」


 テーブルに置かれた一冊の黒い本。

 グリモアはそれを見てすぐに魔導書だと断言した。

 

「本当に!?」


「ああ。間違いない」


「じゃあ、もう魔導書は――」


 完成ってことでいい?

 だって魔導書そのものが見つかったわけだし。

 クロエはそう考える、が。

 

「しかしこの魔導書は恐ろしく出来が悪い」


 グリモアが言うには、この魔導書は魔導書と呼ぶことすらおこがましいとのこと。タイトルが掠れていて読めないことがいい証拠だそうだ。

 

「そういえば我が主、何か言いかけてなかったか?」


「え! いやいや、何も言ってないよ」


「そうか?」


「そうそう」


 面倒くさがりなクロエでも、魔導書作りに掛ける情熱は本物だ。

 素材を集める手間が省けるのはもちろんいいけど、どうせなら最高の魔導書を作りたい。

 喉元まで出かけた言葉は、再び腹の奥底へと沈んでいった。

 

「さて、どのくらい酷いものか実際に読んでみようか」


 グリモアはテーブルの上の魔導書に手を伸ばす。

 だがクロエの時と同様、ライナが止めてきた。

 

「だ、駄目! 触っちゃいけませんわ!」


「む? なぜだ?」


「それは、そのぅ……」


「話さなければ何も分からないぞ?」


「そうだよ。一人で抱え込んでちゃ駄目だよ」


「わ、分かりましたわ……」


 クロエにも促され、ようやくライナは話す気になってくれた。

 

「実はその本、呪われていますの。何度捨てても、何度燃やしても……元通りになって必ず返ってくるんですわ! 最後に触れた人の元へ!」


「……へぇ」


 それを聞いたクロエは感心するような声を漏らす。

 

「ということはライナが絶対触らせようとしなかったのって、ボク達のためだったんだね」


「うっ、実際その通りですけど……貴女に面と言われたら何だかむず痒いですわ」


「でもボク、そういうの嫌いじゃないよ」


「あーもうむず痒いですわ! だから言いたくありませんでしたの!」


 憑き物が落ちたように声を張り上げるライナをよそに、グリモアがクロエの肩を小突く。

 振り向いてみると、グリモアは何か言いたげな様子だった。

 

「あの魔導書もどき、なかなか面白い代物だな。もしかしたら紙の素材として再利用できるかも知れないぞ」


「本当に? 中身はもう書かれてるんじゃないの?」


「少し手を加えれば大丈夫だ」


「そっか、じゃあライナからあの本を譲ってもらって……」


「いや待て、ただ頂戴するだけではもったいない。ライナは優れた炎使いなんだろう? ついでにアレ(・・)の処理もしてもらおうじゃないか」


「ああ、アレ(・・)ね」


「二人でコソコソ何を話してるんですの?」


 ライナが怪しんできた。

 二人は話を切り上げるのと同時、ライナに話を持ちかける。

 

「ねえライナ。あの本、ボク達なら何とか出来るかも知れないんだ」


「本当ですの!?」


「うん。でもその代わりにさ、一つ頼みを聞いてくれないかな」


「ええ、いいですわよ」


「ありがと。じゃあこっち付いてきて」


 クロエとグリモアは、ライナをある場所へと連れて行く。

 そこはグロテスタスの鉢植えを置いている書物庫最奥だった。

 決して陽の光は届かず、空気は常にじめじめしている。

 だがグロテスタスはその環境を糧に――とても大きく成長(・・・・・・・・)していた。

 

「なっ……なんですの、これは……」


 ライナはこの世ならざる光景を目の当たりにし、思わず卒倒しそうになる。

 辺り一面を覆い尽くす、無数の紫色の触手。

 うねうねと蠢く様が地獄の様相を加速させている。

 最初は鉢植えにちょこんと植えられていたのが、たった数日でこうなってしまったのだ。

 

「頼みっていうのは……ライナの炎魔法でこれを燃やしてほしいんだ」


 さすがのクロエも、この時ばかりは申し訳無さそうに言っていた。

おまけ


グリモアの他人の呼び方と敬意度


我が主>>>名前呼び>あの人間>貴様>我が下僕

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