57 秘密の地下室と奇妙な植物
穴の中の階段は小さな地下室に続いていた。
だがそこにも依然としてベルディアの姿は見当たらない。
クロエ達は警戒しつつ部屋の中を見渡してみた。
机の上だけでなく、下にまで散らばる紙の数々。
奇妙な色の液体が入った瓶が並んだ棚。
そこら中に置かれた鉢植えには、紫色の触手のような植物が植えられている。
まるで研究室のような部屋だった。
クロエは本棚に置いてある本に着目する。
(これは……蘇生術に関する本?)
偶然手に取ったその一冊だけではない。
死者蘇生、リザレクション、ネクロマンシー。
本棚には死人を蘇らす術について書かれた本がずらりと並んでいた。
(つまりベルディアは誰かを生き返らせようとしている……?)
と、考えたその時。
部屋の奥にあるドアが音を立てて開いた。
その向こうから、ベルディアが姿を現した。
「なぜ君達がここにいる……まさか後を付けてきたのか?」
「……(どうしようどうしよう!?)」
クロエは視線で助け舟をグリモアに求める。
するとさすがと言うべきか、腕を組んでどっしりと構えていた。
「そちらこそいったい何をやっているのだ?」
「周りを見れば分かるだろ? 植物の育成と研究だよ」
「わざわざ地下でやる必要もないだろう」
「この植物は日陰とじめじめした空気が大好物でね。地下じゃないと上手く育たないんだ」
「なるほど、一理ある」
「では次は君達の話を聞かせてもらおうか。なぜ私を付けてきた?」
「それは我が主が話してくれるさ」
「えっ!?」
急に話を振られてクロエは戸惑う。
さっきまで頼りになると思って見ていたが、肝心な所で丸投げしてきた。
やっぱりグリモアは油断ならない、と改めてクロエは思う。
「我が主? 君達、いったいどういう関係なんだ?」
「そ、そんなことより……えーとその、この植物はなんていう植物なのかな」
「ん? 興味があるのか?」
「う、うん。よく見たら可愛げがあるなぁ、って思って」
クロエは近くにあった鉢植えを一つ持ち上げてみる。
その瞬間、触手のような幹がうねうねと動き出した。
(ひ、ひぃぃぃ……!)
思わず手放しそうになるのを必死に我慢するクロエ。
自分でも何を言っているのか分からない。
可愛げがある? トンデモナイ。
「そうか! やっぱり君は分かっているようだな!」
が、その言葉はベルディアには刺さったようだ。
「……え?」
再びクロエは視線で助け舟をグリモアに求める。
だが、今度ばかりはグリモアもギョッとしていた。
「いやぁ、実は君達以外にもこの部屋を見た人はいるんだけどね。みんな気味悪がってしまうんだ。でもクロエ、君は違うようだ。うん、やっぱりグロテスタスは可愛いよね!」
「う、うん……」
植物の名前がグロテスタスと判明した。見た目に違わない、実に的確な名前。けど今はそんなことなどどうでもいい。
早く帰りたい。
クロエは切に願っていた。
「そうだ、今君が持ってるグロテスタスはあげるよ。書物庫の環境ならばここと同じように育ってくれるはずだ」
「あり……がとう」
さすがに要らないとは言えなかった。
クロエが持つグロテスタスは、さらに元気に動き出す。うねうね~。そう、まるでクロエの手元に行くことを喜んでいるかのように。
「えーとじゃあ、ボク達はそろそろ帰るから……」
「ん、そうか。またいつでも来てくれていいからね」
「か、考えておくよ」
クロエとグリモアはある意味大きな収穫を得て退散していく。
帰りの階段は、上りなのも含めてとても疲れた。
ベルディアから貰った触手植物は、書物庫の最奥、絶対に人目につかない暗がりに置かれることになった。
うねうねと動く触手は、ずっと見ていると可愛げが……やっぱり湧いてこない。
「なんか、すごく災難な一日だった気がするよ」
クロエは力なく椅子に倒れ込む。
グリモアは何か考え事をしているようだった。
「あの植物、何か見覚えがあると思っていたが……やっと思い出せた」
「思い出せたって、何を?」
「あの植物は魔導書の素材になる。燃やして灰にすればインクの素材に使えるぞ」
「え! そうなの!?」
へたり込んでいたクロエが、一気に元気になった。
勢いよく立ち上がったあまり、椅子が吹き飛ぶ。
「だが我が主は当然それを知ってたんだろう? そうでなければ『可愛げがある』なんて言ってまで譲り受けようとは考えないからな」
「いや、それは……」
「とはいえアレ一つだけでは量が足りないな。もう何個か貰ってくるか、大きく育つまで待たないとならないだろう」
「はぁ、そうなんだ。やっぱり一筋縄じゃいかないか……ぎゃ!」
再び椅子に座ろうとして失敗するクロエ。
椅子が定位置より遠く彼方に吹き飛んでいたことを思い出したのは、盛大に尻もちを付いた後。
ラッキーなのか災難なのか、よく分からない一日だった。




