39 闇鍋大会・前半戦
約束の時間になり、書物庫には六人全員が集合して卓を囲んでいた。
その中央に置かれた鍋には一同が様々な場所――大聖堂の食堂や街にある店――で調達してきた食材がグツグツと煮込まれており、どういうわけか毒々しい紫色の湯気を立てている。
そして部屋の照明を消すと周囲は夕闇に同化し、いよいよ鍋の中身は完全に見えなくなった。
「んじゃあそろそろ始めよっか」
とクロエが仕切ろうとしたその時、焦り顔になったライナが待ったをかけてきた。
「ちょっと待ちなさい! いったい何を始める気ですの?!」
「何をって、闇鍋に決まってるでしょ? 収穫祭が終わったらこれをやるのが恒例なんだ。たぶん、他の所でもやってるよ」
「嫌ですわ! わたくしはそんなの!」
「えぇー? でもライナだってノリノリでなんか入れてたじゃん。実は楽しみなんでしょー?」
「うっ……。否定は出来ませんわ……」
「それに食べながら情報交換だってできるし、いいじゃない」
「そうですわね、ここは腹を括ることにしますわ。けど覚悟しておきなさい、わたくしが選んだ食材は強烈ですからね!」
ライナは自信満々に言ってのけた。
全員の覚悟が決まった所で、本格的に闇鍋大会の始まりである。
◆◇◇
「しかし驚きましたね、このような異国にも闇鍋文化があったとは。……それで、どなたから行かれます?」
「じゃあ私から行かせてもらうわ」
桃太郎が言った直後に名乗りを上げたのは、エリシアだった。その勇気をたたえて周りからは「おぉー」だの「いけいけー」だのといった声が上がる。
「こういうのは早めにやったほうが被害が抑えられるものなのよ」
そう言いながらエリシアが闇鍋からゲットした食材は、まるごと一匹のイカだった。
「あ、わたしが入れたイカです!」
これはユノの仕業であった。闇の中に浮かび上がるイカは中々グロテスクなビジュアルをしており、周りは若干引いているが当のエリシアはそうでもなかった。
「この程度なら、どうってことないわ」
「え! イカでこの程度なんですか……!?」
「でも悪くない選択よ。このイカから漏れた墨のおかげで、鍋のスープが紫色になったんだから」
そう言っている内に、エリシアはすまし顔でイカを完食していた。
◇◆◇
「じゃあ次! 私!」
二番手を買って出たのは、さっきからうずうずしていたアリスだった。
「いやぁ~ほんとは最初に行きたかったんだけどね。エリシアちゃんに先越されちゃった」
そう言いながらアリスは鍋の中をかき回す。イカ墨による紫色がぐるぐると渦巻く中、鍋から引き上げられた食材は――ハバネロだった。
「おっと、それは拙者が入れた唐辛子ですね」
桃太郎は唐辛子と言っているが、実際はこの通りハバネロである。単に知らなかっただけだ。まあ、広義的な意味ではハバネロも唐辛子も同じではあるけども。
「じゃあ、いただきま~す!」
そんな暴君を前にして、アリスはあろうことか一口で全部口の中に入れてしまった。さっきはエリシアの勇気をたたえていたのに、アリスの勇気には「えぇー!?」だの「うわ、一口!?」だのと若干引き気味になっている。
「あれ? 意外と辛くな……――!?!?」
勇気は時に無謀と履き違えられる。時間差でやってきた辛さに、アリスはあえなく撃沈。けほっ、けほっ、と何度もむせてしまっている。
「まったく、無理しちゃって」
先鋒エリシアが情けの声をかける。
「でも、すっごく刺激的だったよ……」
アリスはテーブルに頬をくっつけて臥しながら、グッと親指を立ててみせるのだった。そんな彼女の勇姿に、周囲からはいつの間にか称賛の声が上がっていた。
「ナイスファイト!」
◇◇◆
二人目のアリスが食べ終わった頃、一同が抱いていた疑念は確信へと昇華していた。
――この鍋にはまともな食材が一つも入ってない!
と。
しかし、闇鍋大会は一度始まったら引き返すことは不可能。
すぐさま三人目の挑戦者――ライナが名乗りを上げた。
「わたくしが行きますわ!」
そして勢いよく鍋から引き上げられた食材は、ふやけたシュークリームだった。ライナの顔は、みるみるうちに青ざめていく。
「うわぁ、鍋に甘い物とか強烈すぎるよ……」
と呑気にのたまうクロエは、誰がこんな劇物を仕込んだのか気になった。
が、誰も名乗り出ないのを見て何となく察してしまった。
――あ、これ自滅したやつだ。
と。
しかし、自分で取った物は全部自分で食すのが闇鍋のルールだ。どんなに強烈な物だろうと、誰が入れた物だろうと。
ライナだってそれが分かっているはずだが、中々食が進まない。
「意地を見せなさい、ライナ」
「くぅぅぅ……!」
だが一応、エリシアの叱咤激励もあってライナは何とかシュークリームを食べきることができた。意地を見せられたのだ。
その勇姿に、周囲からは称賛の声が上がる。
「ナイス……ファイト……」




