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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第2章 収穫祭編
34/88

34 オレは赤ずきん

「ありがとうございます、ありがとうございます、お二人のおかげでマッチを売り切ることができました!」


 ペコペコ頭を下げ続けるマリー。

 

「と言われてもなぁ、別にボク達は何もしてないしなぁ……」


 クロエは助けを求めるように、アリスへ視線を送った。

 

「まあまあ、よかったじゃん。全部売れたんだから……って、あれ?」


 アリスは一個だけマッチが残っていることに気づいた。それはマリーが暗黒面に堕ちた時に開けた箱と同じ物だった。言わば元凶の箱――パンドラの箱とも言えよう。

 

「あ、まだ残ってたんだ。じゃあそれはボクが買うよ」


 そう言ってクロエはひょいとマッチ箱をつまみ上げた。

 

「クロエちゃん、お金は持ってるの?」


「お金なら……バイト代で払うってことで」


「あれ? クロエちゃんは何もしてないんじゃなかった? それじゃあバイト代は出ないよねぇ~?」


「こまかいなぁ、もー……」


 確かに何もしてはいないが、それでもクロエは黙ってマッチ箱を仕舞うのだった。

 

「ではわたしは一足先に絵本の世界に帰ります。お二人もどうかお元気で……」


「ばいばい、マリーちゃん!」


「マリーも、元気でね」


 三人の別れの挨拶が済むと、マリーの体が光に包まれていき、やがて光の粒となって消えていった。

 

「無事に帰れたようだね。この調子であと二人もよろしくね!」


 とアリスが言った矢先のこと。

 遠くの方で、しかし同じ大礼拝堂の中で、誰かの叫び声が木霊した。

 

「ひぎゃあぁぁぁぁぁ!! た、助けてーー!!」


「今の声……ユノ!?」


 叫んだ内容からして穏やかではないことは確かだ。クロエとアリスは脇目も振らず声がした方へと急いだ。

 

 

 

「あれは……!」


 少し走った先で、クロエは二人の少女が取っ組み合いになっているのを目にした。

 一人はユノ。人狼に扮したユノだ。

 そしてもう一人は、顔は見えないが頭に赤いずきんを被っていた。

 

「テメェ、よくもオレのばあちゃんを!」


「ひぃぃぃぃ!」


「サイコロステーキにしてやるぜ!」


 赤いずきんを被った少女が、今にも襲いかかりそうな勢いでユノに跨った。

 周りの人達がどうするか、どうしたらいいか、手をこまねいている中でアリスが一歩前に出る。

 

「やめて! ユノちゃんは狼じゃないよ!」


「ああん? 邪魔すんじゃねえ……って、アリス!?」


「ほら、よく見てよ赤ずきんちゃん。狼はこんなにほっぺたプニプニしてないでしょ?」


「ぁ? ……ってなんだコイツ、よく見たら人間じゃねえか」


 そう言って少女は、ユノの頬をぎゅ~とつねる。

 

「い、痛いです……」


 アリスと少女、両サイドから両方の頬をつねられながら、ユノは「やめてください」と懇願する。

 

「……ねえアリス。この女の子が、もしかして」


「そう。この子が『赤ずきん』ちゃん。こんなに早く二人目が見つかるなんて、運がいいね」


「へぇ、やっぱりそうだったんだ……」


 クロエは赤ずきんをじっと見つめた。

 

「おいおまえ、ジロジロ見てんじゃねえよ」


 目の前にいる赤ずきんはこの通り、口調が荒い。目つきもまるで狼のように鋭く、クロエが想像している赤ずきんとは大分違っていた。けどまあ、アリスがそう言うなら彼女が赤ずきんなんだろう。

 

(……納得したところでイメージとかけ離れてるのは変わらないんだけどね)


 それはそうと、クロエはマッチ売りの少女にも訊いたあの質問を赤ずきんにも投げかけた。

 

「ごめんごめん、ジロジロ見ちゃって。ボクはクロエって言うんだけど、キミは?」


「オレは赤ずきんだ。それ以上でもそれ以下でもねえ」


「えっ……名前、とかって……」


「はぁ? オレが赤ずきんだっつうんだから赤ずきんに決まってんだろ」


「そ、そう……」


 それは名前ではなく通称のような気がするけど、分かりやすいからいいか。クロエは妥協という名の納得をすることにした。

 

「ところでよぉ、おまえ見てねえか?」


「何を?」


「オレのばあちゃんだよ。もしかしたらこっちの世界で生きてるかもしれねえ」


「おばあちゃんを? ……あ、もしかして願いってこれのことじゃない?」


 クロエは横にいるアリスに尋ねた。するとやはり、想像通りの答えが返ってきた。

 

「どうやらそうらしいね。それにしてもクロエちゃん、何気ない会話から赤ずきんちゃんの願いを見つけるとはさす――」


「あーそういうのいーからいーから。……それにしてもおばあちゃんに会いたいなんて、そんな願い叶えられるのかなぁ。そのおばあちゃんって、この世界に来てるの?」


「うーん、反応は感じられないなぁ。この世界に来てるのは、主人公の三人だけだよ。あ、私も入れれば四人だけどね」


「そっかぁ。それじゃあどうやって叶えてあげればいいの?」


「あー……えーっと……」


「アリス!? なにかないの? アリスだけが頼りなんだよ!?」


「…………」


 苦笑いをして黙ったアリスを見て、クロエは「あれ? 詰んだ?」と思ってしまった。

 

「諦めないでください!」


 と、その時だった。声を上げたのはユノだった。

 

「ユノ、なにかいい考えがあるの?」


「はい。とにかく『おばあちゃん』と思われる方に当たってみるんです。動いてみなきゃ何も始まりませんよ!」


「……確かにそうだね」


 クロエはユノの考えに賛成した。同様にアリスも賛成し、他の三人に向かってこう言い放った。

 

「うん、今はユノちゃんの作戦しかなさそうだね。というわけで『おばあちゃんローラー作戦』の決行をここに宣言します! みんな、準備はできてる!?」


「「「おーー!」」」


 三人は思った。

 

(……なにこのテンション)


 と。

 あと、なんでついついこのテンションになっちゃうんだろう、と。

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