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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第2章 収穫祭編
33/88

33 マッチはいかがですか!!

「二人には話してもいいかな。実はボク、特別な魔法が使えるんだよね。その中に人の心を操るっていうのがあるんだけど、それを使って――」


「ズルはいけないよー」


「ず、ズル!? ……う~ん、やっぱりそうだよねー」


 アリスに言われてハッと気付かされたクロエ。勢い任せとはいえ、さすがに「人の心を操って無理やり買わせる」とは言うわけにはいかなかった。それにこの方法ではマリーも喜ばないだろう。

 

(なんだか最近、考え方がナチュラルにダーク寄りになってる気がする。ちょっと気をつけないと……)


 闇魔法も数ヶ月でほとんど習得し、残すは序列八十番以降の上級魔法のみとなった。その影響なのか、いや、確実にその影響でクロエ自身にも変化が訪れていた。

 

 それが意味するのは、クロエが闇魔法に馴染んできているのか。はたまたクロエが闇魔法に飲まれ始めているのか。まだ自覚がある分、後者である可能性は低そうではあるが。

 

「はぁ、やっぱり地道にやってくしかないのかなー」


 溜め息をつくクロエに、マリーが反応する。

 

「はぁ~~~、世知辛いのはどこの世界も一緒ですね……」


 クロエよりも数段深い溜め息をついて。

 

「ちょっと二人ともー、暗い顔しないでよー。お客さんが逃げちゃうよ?」


 とアリスが注意をした、その時だった。

 三人がわちゃわちゃと話している所に近づいてくる、一つの人影。


「おやおや、まるで本物みたいなマッチ売りの少女だね」


 彼女に声をかけられ、三人は振り向いた。

 ドクロマークの付いた幅広帽子に、ワイルドなジャケットと、まさに海賊のコスプレをしていた女だった。

 そしてその女海賊は、マリーに目を向けて話を続ける。

 

「ところでお嬢さん。マッチ売りの少女のコスプレをしてるなら、アタシにマッチを売ってくれないかい?」


「――! は、はい……!」


「ちょうど煙草の火ィ欲しかったトコさ」


 そう言って女海賊は、ジャケットの内側から煙草を一本取り出し、口にくわえる。

 その姿はとても様になっており、コスプレの小道具ではなく普段から嗜んでいることが伺えた。

 

「マッチです、どうぞ……!」


「……あ」


 嬉々としてマッチを渡そうとするマリーに対し、何かに気づいてバツが悪そうになる女海賊。

 

「やっぱいいや。マッチ、持ってたんでね」


「……えっ。え、え、えっ……」


 そうして女海賊は、マッチを買わずにその場を離れてしまう。

 さっきまではにこやかだったマリーの表情が一転、ずーんと沈みきった暗い顔になってしまっている。そう、それは夏が過ぎて首を下に向けているひまわりのように。

 手に持つマッチも、行き場を失ってただ虚しく小刻みに震えている。

 

「マリーちゃん、気を落とすことはない……と思うよ?」


「そうだよ、次のお客さんはきっと買ってくれるよ……うん、きっと」


 マリーの姿が見ていられず、思わず心配の声を投げかけるアリスとクロエ。だが、その言葉が若干ぼやけている感じがするのは気のせいだろうか。

 

「はぁぁぁぁ、脱力感が全身を襲ってきています……。心が折れそうです。挫けそうです。壊れそうです……」


 マリーはうつろな目でマッチを凝視している。隣で二人が励ましの言葉を言っているようだが、マリーの耳には二人の言葉はおろか周りの雑踏すらも聞こえていなかった。完全に自分の世界に入っている。

 

 やがてマリーは、手に持ったままだったマッチ箱をカゴに戻すわけでもなく、どういうわけか箱を開けてマッチ棒を一本取り出して火をつけた。

 

「はぁ、火はいいですね。見てると心がやすらぎます。…………はぁぁぁ、こんな世界、ぜんぶ燃えちゃえばいいのに」


 なにやらとんでもないことを言うマリーだが、今度はマリーの言葉がクロエやアリスに届いていない。なぜなら二人の目に、とんでもない物が映り込んでいたからだ。

 

「うわ、ちょっと、何これ!? 大聖堂が燃えてるよ!?」


「マリーちゃん、ストップストップ! イメージの具現化が暴走しちゃってるよ!」


 イメージの具現化……それはマッチ売りの少女の物語、ラスト部分で見せたようなアレである。今、マリーの頭上にはほわほわとした雲のような泡が浮かんでおり、その中に轟々と燃え盛る大聖堂が映し出されているのだ。

 

 しかも暴走というからには映像も鮮烈かつ豪快であり、そのイメージの泡もかなり大きい。クロエやアリス以外に、周りの無関係な人達の目にも留まることとなった。

 

 程なくして周りにいた中の一人が声を上げる。

 

「マッチ買う……いや、買わせてください~~~っ!」


 その一人が発端となり、他の人も続々と声……というか購入宣言を上げていく。

 

「わ、私にもください……!」


「十箱買うよ……!」


「さっきは要らないつったけど、やっぱ買わせてくれ……!」


 カゴの中のマッチが、一気に数を減らしていく。彼女に火気を持たせてはいけない。その意思の元、危機を感じた人達が次々とマッチを買っていっているのだ。

 

 純粋にマッチが欲しいという客は一人もいないわけだが――、

 

「よかった、マッチが売れてるよ!」


「よ、よかった……のかな?」


 アリスとクロエはこの際気にしないことにしていた。

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