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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第2章 収穫祭編
31/88

31 不思議の国

 まるで本当に童話の世界から飛び出してきたかのような、そんな不思議な少女だった。

 自らを『アリス』と名乗ることもさながら、その行為に陳腐さを感じさせないのは仮装の完成度が高いからだろうか。

 いや、違う。ただ単に仮装の完成度が高いだけでは、彼女から出ている不思議な雰囲気の説明がつかない。

 

 …………。……ハッ!

 

 クロエはいつの間にか、アリスと名乗る少女を穴が空きそうなくらい見つめていた。魅了されていた、と言ってもいい。

 

「えーと、アリス……だよね? ボク達に何か用があるの?」


「うん。実はみんなにお願いがあって来たの」


「お願い?」


「クロエちゃんは絵本が突然白紙になっちゃうって話、知ってる?」


「……知らないなぁ」


 首を横に振るクロエ。

 なぜアリスが自分の名前を知っているのか引っかかったが、この際気にしないことにした。

 たぶん、名前だけは知っている町の住人なんだろう、と。

 一ヶ月に一度行なわれる『礼拝の儀式』のおかげでと言うかせいで、そういう人達は結構いる。この前の盗賊なんかもそうだ。

 

「それ、聞いたことがあるわ」


 エリシアが加わってきた。

 

「本当におとぎ話みたいな話なんだけど、絵本の登場人物が現実世界に抜け出すとそうなるって言う……はぁ、口に出してみたら分かったけど、本当に馬鹿らしい話ね」


 それでこの話がどうしたっていうの、と言葉を続けるエリシア。

 するとアリスは、いかにも真面目な調子でこう返した。

 

「実は、その馬鹿らしくておとぎ話みたいなことがこの書物庫で起こってるの!」


「……はあ?」


「クロエちゃんなら心当たりがあるんじゃない?」


 話がエリシアに逸れて安心しきっていた所に、また話を振られてドキッとするクロエ。

 だが、アリスの言う通りクロエには心当たりがあった。

 

「そういえばこの前、白紙の絵本があったよね。ユノ、それ取ってきてくれる?」


「はい、分かりました!」


 それから程なくして、ユノは数冊の本を持って戻ってきた。

 以前、書物庫の片付けをしていた際に見つけて弾いておいた物だ。

 それをユノは机に規則正しく並べる。

 全部で四冊。

 

「まだ四冊で済んでいるのは幸運だったね!」


 ちなみにその四冊とは、

 

『マッチ売りの少女』

『赤ずきん』

『桃太郎』


 そして、

 

「『不思議の国のアリス』……これってまさか」


 エリシアはアリスに疑いの視線を送る。

 

「そう、そのまさかだよ! 私も絵本の世界から飛び出して来たの!」


「…………」


 全員が言葉を失った。

 まさか、とは思ったけど……このアリスは本物のアリス(・・・・・・)

 コスプレなんかじゃなくて、本当に?

 

 一番最初に我に返ったのは、ライナだった。

 何か思い当たることがあるのか、クロエに耳打ちをする。

 

(貴女、また変な魔法使ったんじゃないでしょうね!?)


(いや、さすがに今回は(・・・)ボクのせいじゃないと思うよ!?)


(本当ですわね……?)


(うん。だってそんな魔法ないもん)


(そうおっしゃるなら……そういうことにしておきますわ)


 一応ながらもライナは納得し、クロエの耳元から顔を遠ざけた。

 アリスは二人が話し終えるのを確認し、さらに話を続ける。

 

「ここからが大事なことなんだけどね。絵本の世界の住人が長い間外に出てると、ページが白紙になるだけじゃなくて、いずれ物語の存在自体が消えてしまうの。私のお願いっていうのは、それを食い止めるための協力をしてほしいってこと!」


「なるほど、だいたい分かったわ」


 とエリシア。さすがの理解力だ。

 

「絵本の世界の住人が不在だと、物語が消える……じゃあまずは、貴女から帰ったらどう?」


「あ~~! ちょっとちょっと、待って!」


 弁明を!

 アリスはエリシアが押し付けてくる自分の本を必死に押し返す。

 とにかく弁明を!

 

「私が帰ったら、きっとみんな困るよ!? そんなの白ウサギ(案内人)さん無しで不思議の国を旅行するようなものだよ!?」


「……と言うと?」


「絵本への帰し方、知りたいでしょ?」


 確かに現実世界の住人である四人はそんな方法など知る由もない。

 少なくとも白紙のページを押し付けるのは不正解らしい。

 エリシアは本を元の位置に戻し、他の三人と共に案内人アリスの話を聞く体勢に入った。

 

「方法は主に三つ。一つ目は――」


 一つ目は、自らの意思で帰ること。だがこの方法が通じるようであればアリスの手助けは必要ないため、望みは薄い。

 

 二つ目は、願いを叶えてあげること。そうすれば絵本の登場人物は満足し、自らの意思で帰ってくれる。一つ目に通じる方法だ。

 

 そして三つ目は――

 

「登場人物を、殺すこと」


「えっ」


 サラッと怖いことを言い放つアリス。

 クロエも思わず驚いてしまった。

 

「そうすれば強制的に帰せるけど……できれば使いたくない方法だよね。だから、基本的には二つ目の方法で帰していくって思って」


「うん、できればボクもそうしたいよ……」


「だけれど、一応覚えておいてね。絵本の登場人物っていうのは、なにも善良な主人公だけ……とは限らないからね」


 話が一段落着いた所で、アリスは要点をまたも三つにまとめた。

 

 ひとーつ、絵本の世界から登場人物が飛び出した!

 ふたーつ、このままだと物語の存在が消えてしまう!

 みーつ、でも登場人物を絵本の世界に帰せば元通り!

 

「じゃあみんな、がんばろー!」


『『おー!』』


 四人は思った。

 

(……なにこのテンション)


 と。

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