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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第2章 収穫祭編
30/88

30 収穫祭開始

 それから一週間が経過し、ようやく迎えた収穫祭当日の朝。

 書物庫ではクロエとユノが、お互いの仮装(コスプレ)姿を見せあっていた。

 

「いかがでしょうか、クロエ様……」


「ユノ、もう時間がないから正直に言わせてもらうけど……」


「は、はい……(ゴクリ)」


「すごくいいよ! すごく格好良くなった!」


「ありがとうございます! クロエ様のおかげですー!」


 実際、ユノの『人狼』コスプレはだいぶ良くなっている。

 もふもふ成分は首周りや手足の一部分に限定したおかげでかなりスッキリし、なにより余った素材で作ったケモミミバンドが人狼らしさを一気に高めている。

『灰色の毛玉』『人狼と言うより人狼に食べられる側の羊』などと言われていた時とは大違いだ。


「クロエ様こそ、すごく似合ってますよ!」


「ありがと。エリィと一緒に作った甲斐があるよ」


 クロエが扮するのは、異国の聖女とも言うべき『巫女』の姿だ。

 ゆったりした袖の白装束に、袴と呼ばれる赤くて丈の長いスカート。

 上下紅白という奇抜な色合いながらも、着用者の素材がいいためかそこまでの違和感はない。

 

「そう言えばユノって、今回が初参加なんだよね?」


「はい、わたしがここに来たのは収穫祭が終わって少し経った辺りでしたから……」


「そっかぁ。じゃあ存分に楽しんでいきなよ」


「はい! 無論そのつもりです!」


 二人が和気藹々と話していると、書物庫入り口の扉が開き、そこから新たに二人の仮装者(コスプレイヤー)がやってきた。

 

 一人は赤と黒のドレスを身にまとった『吸血鬼』のライナ。

 もう一人は、紫と橙のローブに身を包み、黒いトンガリ帽子を深々と被った『魔女』のエリシアだった。

 

「ふふん。やっぱりいつもの(・・・・)場所におりましたわね」


「…………」


 いつものように大きな態度で接するライナに対し、エリシアは帽子の鍔を掴んで無言でいる。

 そんな不自然な様子を、クロエが見逃すはずがなかった。

 

「どうしたのエリィ、黙っちゃって……というかそんな帽子、去年はしてたっけ」


「去年とまったく同じというわけにもいかないでしょ……」


 視線を逸らしながら言葉を返すエリシアに、ライナは呆れたようなため息をつく。

 

「まったくもう、素直じゃありませんわね~」


 スッ……。

 ライナは背後から帽子を奪取。

 

「あっ……」


 すると帽子の下に隠れていた、赤いリボンがあらわとなった。

 先日、クロエがエリシアにあげたリボンと同じ物だ。

 エリシアは片方の手でリボンを隠し、もう片方の手で帽子を取り返そうとする。

 

「ちょっと、返しなさい!」

 

「せっかく付けたのに、隠していては意味がないでしょう?」


「そうだよ、意味ない意味ない。付けなきゃもったいないって」


「わ、分かったわよ……」


 エリシアはクロエにそう言われた途端、渋々ながらも頭から手を離した。

 

「うん、やっぱり似合ってるよそのリボン。作って正解だったね!」


「クロエがそう言うなら……付けたままにしておくわ」


 恥じらいつつも、緊張が解けて微笑むエリシア。

 

「ほんっと、素直になるまで長いんですから」


 口ではそう言いつつも、さりげなく形が崩れたリボンを整えてあげるライナ。

 素直じゃないのはお互い様のようだ。

 

「では準備も終わったことですし、わたし達も行きましょうか!」


 この四人の中では最年少、ユノが場を取り仕切る。

 そろそろ時間もいい頃合いになり、ちょうど収穫祭開始を告げる花火も二、三発打ち上がった。

 これからこの大聖堂は……いや、すでに仮装した人々が練り歩く光景が繰り広げられているだろう。

 

「そうね、行きましょう」とエリシア。


「わたくしも初めてですからドキドキしますわ~!」とライナ。


「えー、ここから出たくないよー」とクロエ。



「「「…………え?」」」


 クロエ以外の三人の声が重なった。

 

「だってさ、仮装パーティーの会場は大聖堂全体でしょ? てことは書物庫(ここ)も会場ってことじゃん」


「クロエ……屁理屈言うにも去年と同じじゃ芸がないわよ」


「おっとエリィ。去年と同じ魔女(コスプレ)のキミには言われたくないなぁ」


「んぐっ……!」


 思わず言葉を詰まらせるエリシア。

 クロエがこの収穫祭というイベントに対して珍しく乗り気だったのは、「楽しみ」だからというよりむしろ「書物庫から出なくていい」という方が大きいのかも知れない。

 乗り気だけど、いつもみたいに引きこもっていたい。

 この矛盾こそが、クロエの人間性をよく表していた。


「というわけで、ボクはここに残るよ。去年と同じようにね」


 そうは言うが、今年も去年と同じになるならエリシアに楽しい思い出話を聞かされて、二日目からは普通に書物庫を出ることになるだろう。

 しかも今年はライナやユノといった親しい仲間も増えているので、それだけ思い出話の種も増える。

 二日目どころか今日の午後から書物庫を出る可能性、非常に高し。

 

「そんな寂しいこと言わないでよー」


「いやぁ、ボク人混みが苦手でさ……って、今の誰?」


 あまりに自然に会話に加わってきたため、クロエもごく自然に返したわけだが、その声は初めて聞く声だった。他の三人に一応視線を送ってみるが、みな首を横に振っている。

 

「こっちだよ、こっちこっち!」


 声がした方を向く。

 するとそこに立っていたのは、クロエ達と同じく仮装に扮した少女だった。

 

 水色と白のエプロンドレスに、白黒縞模様のニーソックス。そして金髪碧眼という姿はまさに――。

 

「私、アリス。よろしくね!」


 ――不思議の国の『アリス』だった。

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