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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
27/88

27 引きこもり聖女はサボリを極める(10)

 ライナとユノ、そしてエリシアから勇気をもらったクロエは、立ち上がると同時に分身クロエへと突進。接近戦を試みるつもりだ。

 

「この距離なら変形はできないでしょ!」


 そして『《уад(ヤダ)》』を詠唱、手の平から闇弾が放たれる。

 その攻撃を、分身クロエもまた変形なしの闇弾で受け止め、相殺。

 二つの闇弾は紫色の霧となって散った。

 

「くっ、さすがは本物のボクです。そこに気づくとは……いえ、ようやく気づいたと言いましょうか」


「強がるのはボクより強くなってから言いなよ!」


 続けざまに闇弾を放つクロエ。

 それを分身クロエは、先程と同じように闇弾で相殺。

 攻撃、相殺、攻撃、相殺……。

 一瞬たりとも油断できない、激しい攻防が続く。

 

「まずいわね……」


 その様子を見ていたエリシアが、親指を下唇に当てながらつぶやく。


「そうかしら? わたくしには、本物の方が押しているように見えますけど」


「ライナ……それはクロエを買いかぶりすぎよ。ちゃんと見てみなさい、もう息が切れ始めているわ」


 エリシアに言われて、ライナは戦闘中のクロエに目を向ける。

 なるほど確かに、遠目から見ても肩で息をしているのが分かった。

 体力は同格のはずだが、本物クロエは盗賊達との戦闘が長かった分、消耗も分身より多かったのだ。

 

「弱点でも何でもいいから、突破口が欲しいところね……」


 眉をひそめるエリシア。

 するとその直後、ライナが何かに気づいたように声を上げた。

 

「弱点……と言えるかは分かりませんけど、分身の方は水を嫌ってましたわ」


「それ、本当?」


「ええ。お風呂にも足をチョンチョン、と浸けるだけで全然入ろうとしませんでしたわ」


「それは本物のクロエにも当てはまることだけど……確かめてみる価値はあるわね」


 その時エリシアは、机の上に置いてあるガラスの花瓶を見つけた。

 中には一輪の赤い花と……八分目まで満たされている水。

 エリシアはそれをすぐさま手に取り、戦闘中のクロエ達に向かって投げつけた。

 ガシャン! 床に落ちて砕け散った破片や花びらと共に、中の水も宙を舞う。

 

「――!」


 虚を衝かれた分身クロエが、極端な回避行動に出る。

 ただの水を避けるために、身をよじって後ろに大きく飛び跳ねたのだ。

 なぜそんなことを――?

 その答えは、出たも同然だった。

 

「クロエ! 分身の弱点は水よ!」


 エリシアは思いっきり叫んだ。

 

「水……?」


「ええ、そうよ。さっきの見てたでしょ? 何かこう、水を出す魔法とかはないの?」


「水を出す魔法!? そんなのないよ!」


「……そのとおりです、本物のボク。九十九ある闇魔法のうち、水を出す魔法に該当する物はゼロです」


 そうこうしているうちに分身クロエは体勢を取り直していた。

 相変わらず無表情なのは変わらないが、声に余裕が生まれていた。

 弱点を知られたとは言え、他に水で攻撃する手段がないからだ。

 彼女自身が言ったように水を出す魔法もなければ、水の入った容器の類もこの部屋にはもうない。

 実質的に弱点はないようなものだ。

 

「今度こそさよならバイバイです、本物のボク――」


 分身クロエの全身から、禍々しいオーラが溢れ出す。

 次の『《холе(ゾォン)》』が放たれた時が、本物と分身が入れ替わるその時だろう。

 しかし、そんなピンチの状況にも関わらず、クロエは距離を離すのではなく逆に分身に向かって走り始めた。

 

 自棄(やけ)になったわけではない。

 心の奥底には、確固たる勝算があった。

 

「なっ……!」


 予想外の行動に出たおかげで、分身クロエの動きが一瞬止まる。

 その隙に、クロエは分身に抱きつくようにガッチリと組み付いた。

 

「水は出せないけど、闇魔法は九十九個もあるんだ! 代わりになる魔法の一つや二つあるでしょ!」


「な、何をするつもりですか、本物のボク!」


「こうするんだよ! 《шавв(ワーブ)》!」


「それは転移魔法……どこに連れて行く気ですか!?」


「ボク達の嫌いな場所さ」


「まさか……!」


「さすがはボクの分身だね! そのまさかだよ!」


「承知できません! 今すぐ離しなさい!」


 分身クロエの表情から、初めて余裕が消え去った。

 手足を暴れさせて必死に抵抗するも、クロエが根性でしがみついて離させない。

 やがて黒い光に包み込まれた二人は、その光が収束すると共に姿を消した。

 

 

 

 そして次に二人が姿を現した場所は、白い湯気の立ち込める大浴場。なみなみと湯の注がれた浴槽の上だった。

 ザッバーン! 二人は浴槽の中に仲良く落下、湯柱が高々と上がる。

 

「駄目です! 水は駄目です……!」


 必死にもがいて浴槽から出ようとする分身クロエを、本物クロエが必死に取り押さえる。

 水しぶきが飛び跳ね、白い湯気に黒い霧が混ざっていく。

 分身クロエが、徐々に影に戻り始めているのだ。

 それと同時に分身クロエの動きもどんどん大人しくなっていき、抱え込む腕にもほどんど感触が消えていく。まるで雲を掴んでいるかのようだ。

 

 そして、完全に霧散するその寸前。

 クロエは、分身の魂の叫びを聞いた。

 

「ボクは……ボクは……! もっとこの世界で光を浴びたかった……!」


 それは全てが同じである分身と本物の、唯一の決定的な相違点であった。

 元々が影である彼女は、基本的に光を浴びることがない。

 本物の身体を乗っ取ろうとするのも、全てはこの目的を果たすためだったのだ。

 

「そっか……キミには悪いことしちゃったかもね」


 一人だけになったクロエは、湯に浮かび上がった純白のローブを抱きかかえるようにして拾う。

 

「……また、天気のいい日にでも出してあげるよ。安全な範囲でだけどね」

 

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