24 引きこもり聖女はサボリを極める(7)
「チクショー! 縄をほどけデス!」
「あのぉー、鼻が痒いんで掻いてくれると助かりマス」
ついでに簀巻きにされた盗賊姉妹のことは放っておき、エリシアは二人のクロエを見てため息をついていた。
「はぁ……。まさかこんな方法でサボろうとしてくるとはね」
「ち、違うよ! 確かに魔法で分身は創ったけど、決してサボるためじゃないよ!」
「じゃあどっちのクロエが『礼拝の儀式』に出たのかしら?」
「うっ……」
その答えは、双方のクロエの服装を見れば明白だった。
本物クロエは濃紺色の法衣(普段着)を着ているのに対し、分身クロエは純白の聖衣を着ている。
この大聖堂では、正式な場では白い衣装に身を包むのが決まりだ。
よって聖歌の歌い手として礼拝の儀式に姿を現したのは、分身クロエ――というのは言うまでもないはずだ。
「まあいいわ。今はそれよりも……」
エリシアはクロエ達を一瞥し、柱に縛り付けられているクアラベルの前に立ちふさがった。
「……今さら何の用だい」
「まだ貴女達の真意を聞いてないわ。どうして礼拝の儀式を襲撃したのかしら」
「私達は盗賊だよ。そんなもん決まりきってるじゃないか」
「……なるほど。問うだけ無駄だったわね」
後のことは衛兵に任せるわ。エリシアはそう言い残し、クアラベルに背を向けた。
「そう言えば」
「まだ何かあるの?」
エリシアは背を向けたまま聞き返す。
「私の部下の中には、けったいなことに信心深い奴が何人かいてねェ」
「それがどうかしたわけ?」
「今回の礼拝の儀式には、そいつらも参加してるのさ。……さて、そろそろドデカい花火が上がる頃だねェ」
「花火? まさか――ッ!」
エリシアは再びクアラベルと顔を合わせた。
まるで蛇のような怪しい笑みが、エリシアの瞳に映り込んでいた。
「お前の想像は合ってるよ。あいつらには私の指示で爆弾を持たせている」
「爆弾!?」
離れた場所で会話を盗み聞きしていたクロエも、思わず大声を上げてしまう。
「あぁそうさ。しかもそいつは魔道具製の特別な爆弾でねェ。爆発させるさせないは私の意思次第さ」
「なっ……!」
「そうさねェ。爆発させるのは12時きっかりにしておこうか」
クロエ達は柱時計に目をやった。
現在時刻は「11時55分」。残された時間は、わずか5分しかなかった。
「おぉっと、私の部下の心配は無用だよ。とっくに爆弾を仕掛け終えて、今頃はアジトでくつろいでるだろうからねェ」
「誰も……そんな心配してないわよ……ッ」
エリシアは声を詰まらせた。
時計の長針が一つ進む。
「さて、残りの時間は交渉といこうか」
柱に縛られながらも、クアラベルは余裕綽々といった表情だった。
「爆発させて欲しくないなら、私達の解放と……そこのお嬢さんを渡してもらおうか」
「あくまで狙いはボクってわけだね……」
その執念深さに、クロエは戦慄を覚える。
同時に時計の長針も、また一つ時を進めていた。
「さぁ、どうする?」
「クロエは私の親友よ。応じるわけないでしょ……!」
エリシアが強く否定する。
だが、その反応に対してクアラベルは口角を吊り上げた。
「そう。なら一千人の命が派手に散ることになるだろうねェ」
「――!」
「何を迷ってんだい? そこのお嬢さん一人を差し出せば、一千人の命が助かるんだよ? ……もしかして大聖堂の聖女様とあろうお方が、命の価値は平等じゃないとのたまうつもりかい?」
「さすが姐さんデス!」
「やり方が汚すぎて惚れ惚れしマス!」
簀巻きにされた盗賊姉妹が、クアラベルを褒め称える。
こうしている間にも時計の長針が「11」と「12」の中間を差していた。
「……ボクが向こうに行けば、みんなが助かるんだよね?」
クロエが唐突につぶやいた。
普段からは想像できないほどに真剣な声だった。
「クロエ? まさか……駄目よ!」
「大丈夫だよ、エリィ。どうやら殺されるわけじゃなさそうだしね」
「待って……駄目、行かないで!」
エリシアの制止を振り切り、クロエは身を差し出すかのように前進していく。
「クロエーーー!」
エリシアは手を伸ばした。
あと少し、もう少し手を伸ばせば届きそうな所に、クロエの背中はある。
しかし、エリシア自身の心が、手を届かせることを許さなかった。
親友は失いたくない。けど、そのせいで一千人の命を失わせるわけにもいかない。それは分かっている。それが分かっているからこそ、エリシアの目の奥には涙が溜まっていた。
「クロエ……」
今にも消え入るようなか細い声だった。
やがてエリシアはガクッと膝を落とし俯いてしまう。
時計の針が、また一つ進む――。




