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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
24/88

24 引きこもり聖女はサボリを極める(7)

「チクショー! 縄をほどけデス!」


「あのぉー、鼻が痒いんで掻いてくれると助かりマス」


 ついでに簀巻きにされた盗賊姉妹のことは放っておき、エリシアは二人のクロエを見てため息をついていた。

 

「はぁ……。まさかこんな方法でサボろうとしてくるとはね」


「ち、違うよ! 確かに魔法で分身は創ったけど、決してサボるためじゃないよ!」


「じゃあどっちのクロエが『礼拝の儀式』に出たのかしら?」


「うっ……」


 その答えは、双方のクロエの服装を見れば明白だった。

 本物クロエは濃紺色の法衣(普段着)を着ているのに対し、分身クロエは純白の聖衣(ローブ)を着ている。

 この大聖堂では、正式な場では白い衣装に身を包むのが決まりだ。

 よって聖歌の歌い手として礼拝の儀式に姿を現したのは、分身クロエ――というのは言うまでもないはずだ。

 

「まあいいわ。今はそれよりも……」


 エリシアはクロエ達を一瞥し、柱に縛り付けられているクアラベルの前に立ちふさがった。


「……今さら何の用だい」


「まだ貴女達の真意を聞いてないわ。どうして礼拝の儀式を襲撃したのかしら」


「私達は盗賊だよ。そんなもん決まりきってるじゃないか」


「……なるほど。問うだけ無駄だったわね」


 後のことは衛兵に任せるわ。エリシアはそう言い残し、クアラベルに背を向けた。

 

「そう言えば」


「まだ何かあるの?」


 エリシアは背を向けたまま聞き返す。

 

「私の部下の中には、けったいなことに信心深い奴が何人かいてねェ」


「それがどうかしたわけ?」


「今回の礼拝の儀式には、そいつらも参加してるのさ。……さて、そろそろドデカい花火が上がる頃だねェ」


「花火? まさか――ッ!」


 エリシアは再びクアラベルと顔を合わせた。

 まるで蛇のような怪しい笑みが、エリシアの瞳に映り込んでいた。

 

「お前の想像は合ってるよ。あいつらには私の指示で爆弾を持たせている」


「爆弾!?」


 離れた場所で会話を盗み聞きしていたクロエも、思わず大声を上げてしまう。

 

「あぁそうさ。しかもそいつは魔道具製の特別な爆弾でねェ。爆発させるさせないは私の意思次第さ」


「なっ……!」


「そうさねェ。爆発させるのは12時きっかりにしておこうか」


 クロエ達は柱時計に目をやった。

 現在時刻は「11時55分」。残された時間は、わずか5分しかなかった。

 

「おぉっと、私の部下の心配は無用だよ。とっくに爆弾を仕掛け終えて、今頃はアジトでくつろいでるだろうからねェ」


「誰も……そんな心配してないわよ……ッ」


 エリシアは声を詰まらせた。

 時計の長針が一つ進む。

 

「さて、残りの時間は交渉といこうか」


 柱に縛られながらも、クアラベルは余裕綽々といった表情だった。

 

「爆発させて欲しくないなら、私達の解放と……そこのお嬢さん(クロエ)を渡してもらおうか」


「あくまで狙いはボクってわけだね……」


 その執念深さに、クロエは戦慄を覚える。

 同時に時計の長針も、また一つ時を進めていた。

 

「さぁ、どうする?」


「クロエは私の親友よ。応じるわけないでしょ……!」


 エリシアが強く否定する。

 だが、その反応に対してクアラベルは口角を吊り上げた。

 

「そう。なら一千人の命が派手に散ることになるだろうねェ」


「――!」


「何を迷ってんだい? そこのお嬢さん一人を差し出せば、一千人の命が助かるんだよ? ……もしかして大聖堂の聖女様とあろうお方が、命の価値は平等じゃないとのたまうつもりかい?」


「さすが姐さんデス!」

「やり方が汚すぎて惚れ惚れしマス!」


 簀巻きにされた盗賊姉妹が、クアラベルを褒め称える。

 こうしている間にも時計の長針が「11」と「12」の中間を差していた。

 

「……ボクが向こうに行けば、みんなが助かるんだよね?」


 クロエが唐突につぶやいた。

 普段からは想像できないほどに真剣な声だった。


「クロエ? まさか……駄目よ!」


「大丈夫だよ、エリィ。どうやら殺されるわけじゃなさそうだしね」


「待って……駄目、行かないで!」


 エリシアの制止を振り切り、クロエは身を差し出すかのように前進していく。

 

「クロエーーー!」


 エリシアは手を伸ばした。

 あと少し、もう少し手を伸ばせば届きそうな所に、クロエの背中はある。

 しかし、エリシア自身の心が、手を届かせることを許さなかった。

 

 親友は失いたくない。けど、そのせいで一千人の命を失わせるわけにもいかない。それは分かっている。それが分かっているからこそ、エリシアの目の奥には涙が溜まっていた。

 

「クロエ……」


 今にも消え入るようなか細い声だった。

 やがてエリシアはガクッと膝を落とし俯いてしまう。

 

 時計の針が、また一つ進む――。

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