表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
23/88

23 引きこもり聖女はサボリを極める(6)

「そ……それは、なに……」


 クロエは震えた声でクアラベルに尋ねた。

 初めて見る形状の武器……いや、武器と言ってもいいのかすら分からない。

 しかし、本能がそれを危険な物だと認識してる。

 

「こいつは魔道具の一種さね」


 クアラベルは右手に持ったソレをクロエに向けた。

 

「そして私の相棒……名を『黒鉄(くろがね)』と言う」


「へ、へぇ……金色なのに、黒――」


 バンッ!

 

「ひぃっ!」


 クロエのすぐ側に、黒鉄から発射された弾が着弾した。

 その着弾点には小さな穴が空き、プスプスと黒い煙が上がる。

 

「おぉっと、勝手な口を利くのは許しちゃいないよ?」


(あんなの……体に当たったら風穴が空いちゃうよ!)


 クロエは立ち上がって逃げようとしたが、腰が抜けて思うように体に力が入らない。

 

「さて、一つお前に質問をしよう。『はい』もしくは……『やだ』で答えろ」


「え! 『いいえ』じゃなくて!?」


 バンッ!

 

「ひゃぁっ!」


 クロエのすぐ側に、二つ目の穴が空いた。

 

「私はさァ、可愛らしい女の子が『やだやだ』って駄々をこねる姿を見るのが何よりのご馳走なのさ……。分かるだろう?」


「分からないよ!」


 バンッ!

 

「――痛ッ!!」


 三発目の弾丸は、クロエの太もも辺りをかすめ通っていった。

 法衣に裂け目が入り、その奥にある柔肌からは直線上に血がにじみ出てしまっている。

 

「言い忘れてたけど、私はそんなに上手くない(・・・・・)んでねェ。今みたいに、うっかり(・・・・)当てちゃうこともあるのさ」


 それが嘘であることは明白だった。

 クアラベルは、狙ってクロエの脚を峰撃ちしたのだ。

 もちろん一発目、二発目も同じ。

 これは「次はない」という無言の警告だった。

 

「さぁ、話を戻そうか。私が言ったことに対して、お前は『はい』か『やだ』で答えるのだよ」


「……っ」


 クロエは痛みに悶ながら、まっすぐクアラベルを見捉える。

 

 

「――私の、妹になりな」



「なっ……! (この人、正気!?)」


「『なっ』? そんな答え、選択肢にはないねェ――!」


 クアラベルが黒鉄の銃口を、クロエの腹部に向けた……その時!

 

「――そこまでよ」


「誰だい!」


 クアラベルは謎の声に戸惑い、引き金を引く手が止まった。

 そして次の瞬間、本棚の陰から本が一冊、直線軌道を描いて飛んでくる!

 バチン! それは見事にクアラベルの持つ黒鉄に当たり、床へと弾き落とした!

 

「思った以上に大変なことになってるわね」


「エリィ!」


 クロエは思わず感嘆の声を上げた。

 絶体絶命の状況で現れた彼女――エリシアは、クロエからすると救世主どころか神に見えていた。

 

「クロエ、大丈夫? 怪我は……あるじゃない!?」


 クロエの脚から流れる血を見て、焦るエリシア。

 だがすぐに冷静さを取り戻し、傷口に手を合わせて『ヒール』と唱えた。

 するとみるみるうちにクロエの受けた傷がふさがっていき、同時に痛みも引いていった。

 

「ありがとう、おかげで勇気も湧いてきたよ!」


 勢いよく立ち上がり、ニッと笑って見せるクロエ。

 

「おかしいわね。私の治癒魔法にそんな効果はないはずだけど」


「フィーリングだよフィーリングぅ。やっぱり真面目すぎるなぁ、エリィは」


「どうでもいいけどクロエ、戦う準備はいい? 向こうはもうやる気みたいよ」


 見ると、すでにクアラベルが黒鉄を拾い直しており、再びクロエ達の前に近づいてきていた。

 

「――もちろん出来てるよ」


 クロエは視線をクアラベルの顔に合わせた。

 やっぱり勇気が湧いたのは気のせいじゃない。

 あんなに怖かったクアラベルが、今は全然怖くないのだ。

 

「まったく、とんだ邪魔が入ってくれたよ」


 クアラベルは銃口をクロエの眉間に向ける。

 そしてまた、同じ質問……いや、命令を繰り返した。

 

「私の妹になれェッ!」


やだ(уад)ッ!」


 バンッ!

 耳をつんざく四発目の銃声。

 しかし弾丸は、クロエの手の平から放たれた紫色の球体――闇弾に取り込まれるようにして消えた。

 クロエにとって「やだ」は単なる否定の言葉ではないのだ。

 

「なに、魔法か……!?」


 クアラベルはとっさに身を逸らし、飛んできた闇弾を回避する。

 

「今のも見たことない魔法だねェ。さらに気に入った!」


「おっと、そんな余裕かましてる場合かな?」


「なんだって? …………!?」


 気持ちが高ぶっていたせいで、クアラベルは気づくのが遅れた。まだクロエの攻撃が終わっていないことに!

 しかし、気づいた時にはすでに手遅れ。クロエは闇弾の軌道を後ろに戻し、クアラベルの背中に直撃させた。

 

「うぐぁっ! なんだ、この痛みは……!」


 じっくり、じわじわと蝕まれていくようなダメージがクアラベルを襲う。

 

「痛むのかい? だったら治療してあげるよ――《глам(グラーム)》!」


 拷問魔法『《глам(グラーム)》』。

 相手を倒すと言うより、痛めつけるのが目的の魔法である。

 

「――ッ! んぐぅぅぅぅうう!!」


 かつてないほどの痛みに、クアラベルは苦悶の声を上げる。

 

「「姐さん!」」


 それは部下達も初めて見る姿だった。

 デイスとマイスが思わず駆け寄る。

 

「アンタ、何やったんデス!?」


「何って、そりゃ治療だよ。さっき言ったでしょ?」


「治療? ……全くの逆だと思いマス!」


「いや……ソイツの言うことは嘘じゃないさァ」


 表情に苦痛さを残しながらも、クアラベルが立ち上がった。


「姐さん! 大丈夫なんデスか!?」


「あぁ。どういうわけか痛みが消え去ってるのさ」


 黒鉄を構えるクアラベル。

 その銃口は、クロエの心臓を寸分違わず捉えていた。

 

「どういうつもりか知らないけど、私を治したことを後悔させてやるよッ!」


「……ふぅん。やれるもんならやってみなよ」


「なっ――!」






 次の瞬間、クアラベルの視界は闇に染まった。

 ただひたすら闇だけが広がる世界に、クアラベルは立たされていたのだ。

 

「な……なんだいここは!」


 クアラベルはデタラメに黒鉄の弾丸を乱射した。

 しかし、弾丸がどこかに着弾することはなく、無音のうちに闇の中に溶けて消える。

 

『無駄だよ。ここは外とは遮断された世界なんだ』


 クロエの声がした。姿はない。


「どこだい!」とクアラベルが声を荒げたが、クロエは関係なく話を進める。


『いやぁ、これは初めて使う魔法だからさ。ちょっと時間稼ぎさせてもらったよ』


「お前、私に何をした……?」


『あ、やっぱり気になる? ……しょうがないなぁ、じゃあ特別に教えてあげるよ。どうせここでの記憶は忘れるしね』


「これは――!?」


 瞬間、クアラベルの脳内に謎の言葉が浮かび上がってきた。

 


 ――中級幻惑術、序列の五十二番《йаган(ネラス)》。目障りな対象を懲らしたくば、この術を詠唱せよ。さすれば対象は、直ちに悪夢の中に追い込まれるであろう。闇は、そなたの味方だ――

 

 

「まさかこれは……闇魔法?」


『そ、正解。ボクがこの闇魔法で、キミに悪夢を見せているんだ』


「なるほど……あの分身も、紫色の球も、謎の痛みも……全部闇魔法の仕業ってわけかい」


『大正解! けど、分かった所で全部忘れちゃうんだけどね』


「だったら教えてくれないか。お前、どうやってそんな危ない力を手にしたんだい」


『話せば長くなるよ』


「構わないさ。聞かせてくれ」


『……それは無理だよ。そろそろ時間だからね』


 その言葉を最後に、闇に閉ざされた世界が崩壊を始めた。

 視界が真っ白い光で覆い尽くされていき、思わずクアラベルは目を強く閉じた。

 




 

 

「おはよう、頭領さん。いい夢は見れたかな?」


 クロエがクアラべルの顔を覗き込む。

 

 クアラベルの手足は、柱に縄で縛り付けられていた。

 

「お前、可愛い顔してエゲツない真似してくれたねェ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ