21 引きこもり聖女はサボリを極める(4)
「どうなってるんデスかこの大聖堂! まるで迷路デス!」
大聖堂からの逃走を図るデイスとマイス。
だが、部外者でしかない二人にはこの大聖堂という空間はあまりに広く、デイスも思わず本音を漏らしていた。
「きっともうすぐ出られマスよ」
「そうデスか? ……あ、それよりマイス、そろそろ姉ちゃんが担ぎ役をやるデスよ。疲れてるはずデスよね?」
デイスは、マイスの肩に乗っているクロエを見ながら言った。
思えばマイスは、かなりの時間クロエを担いでいた。
「大丈夫でございマス。それにお姉ちゃんは怪我人なので、無理はさせられマセン」
「心配してくれてありがとうデス。けどマイス、アナタも無理はしなくていいデスからね?」
「分かってマスよ、お姉ちゃん」
二人は双子、それゆえに絆の深さは人一倍。
彼女らはこの十数年間、互いに支え合って生きてきた。
もちろん、このようなピンチも何度だって経験してきた。
今、この状況において、最も有効な策は何だ――?
二人の答えは、同じだった。
「とにかく突っ走るデス!」
「とにかく突っ走りマス!」
だがそこへ、新たな追手の聖女が現れた。
「そこの二人! 止まりなさい!」
相手は一人だけ。
護身用の槍を持っているが、構え方からして戦闘経験は薄いように見受けられる。
当然のごとく二人はそれを見抜いていた。
互いに頷き合い――聖女の脇を華麗に抜き去る。
「なっ――!」
聖女は後ろ振り向くも、すでに二人の背中は小さかった。
しかし、二人の姿を捕捉できただけでも大きな収穫である。
『――各員に連絡、盗人二人はEブロック方向へ逃走中――』
こめかみに指を当て、意識を集中。
伝言魔法で、デイスとマイスの位置情報を他の聖女達に伝えるのであった。
先程の聖女を振り払ってからというもの、デイスとマイスの前には次々と追手が現れていた。
二人はなんとか躱しつつ逃走を続けるも、このままではジリ貧、時間の問題だった。
「すでにワタシ達の情報は割れてマスね」
「チッ、面倒くせェー連中デス!」
「ここはいったん身を隠すのが良いと思いマス」
「そうデスね。とりあえず、あそこの部屋に行くデス!」
ちょうど今は、追手の波が途切れていた。
行動を起こすなら今しかない。
二人は無我夢中になってその部屋に転がり込む。
「はぁ、はぁ………」
そして急いで扉を閉め、二人はようやく一息つくことが叶った。
が、吸う空気がなんだかジメジメしている。
どうやらここはあまり日当たりの良くない部屋のようだ。
それに加え、この独特な紙の匂い。
辺りを見回すと綺麗に列を成す本棚も見受けられた。
「ここは……本屋さんデスかね?」
「お姉ちゃん、たぶん違いマス。図書館……みたいな所だと思いマス」
息を整え終えた二人は、部屋の中を探索し始めた。
ところが歩けど歩けど出てくるのは本棚、本棚、本棚!
本当に本しか無い部屋のようだ。
「でも、そのおかげで身は隠しやすいデスね」
のんきにデイスがそんなことを呟いた、その時。
ギョッとするほど高く積まれた本の山の中に、一つの人影を目にした。
そして、その人影は濃紺色の法衣を着ていた。
大聖堂の聖女だ。
「「――――!!」」
うかつだった。
まさかこんな所に聖女がいるなんて。
今日は一大イベントである礼拝の儀式がある上に、(自分達が引き起こしたとは言え)非常事態下でもある。
そんな時に、こんな所にいるなんて……。
「サボりじゃないデスか!」
「え、誰――!?」
デイスとマイス、それに――クロエの三人が目を合わせた。
このクロエは、紛れもなく本物である。
いまマイスが担いでいるのが、分身のクロエであることなど知る由もない盗賊姉妹は、互いに顔を合わせて目をパチクリさせた。
そしてクロエの方は、さらに目をパチクリさせていた。
あの肩に担がれているのは、間違いなく自分の分身だ。
闇魔法を使っていることが、バレた――
「まさか、アナタ達も双子だったんデスか……?」
「え、双子?」
と、思ったらそんなことはなかった。
デイスの言葉に、クロエは思わず素っ頓狂な声を上げる。
どうやら向こうは勘違いをしているらしい。
(そっか、普通はそう考えるよね……)
クロエはそっと胸をなでおろす。
同じ顔の人間が二人いたとして、誰が「分身魔法を使った」と考えようか。
思えばクロエ自身も、最初に分身魔法を発動した時は「双子ができた」と感じていた。
それが普通だ。
――あれ?
――これ、乗っかる手しかない?
――よし、乗ったれ!
「じ、実はそうなんだよ。ボク達、双子なんだよね。ははは……」
「そーだったんデスか! 実はアタシ達も双子なんデス!」
「そうなの!? あ、よく見ればキミ達も似てるね!」
「アタシ達以外の双子に会ったのは初めてデス!」
「そっかぁ。で、なんでボクのぶ……妹をここに連れてきたの?」
「あー、ええっとデスね……実はそこの廊下に倒れてたんデス。それで、とりあえず安静にさせようと思ってここに連れてきた次第デス」
恐ろしいことに、この一連の会話にはかなりの嘘が混じっている。
だが、その真偽を確かめる術はない。
なのでクロエはデイスの言葉を信じたし、逆にデイスもクロエの言葉を信じていた。
「そっかそっかぁ。キミ達には迷惑かけちゃったね」
「どうってことないデス。さ、マイス、この人に妹さんを渡すデス」
(えっ……お姉ちゃん、それは不味いと思いマス)
マイスは、デイスの耳元で囁いた。
「なぜデス!? それじゃまるで人攫い……ひと、さらい……ハッ!」
デイスは何かを思い出したように目を大きく見開いた。
そう、デイスはクロエと話しているうちに、自分の目的を忘れかけていたのだ。
「思わず口車に乗る所デシタ……アナタ、それが狙いだったのデスね!」
突然、臨戦態勢に入ったデイス。
その手には短剣が握られており、クロエは恐れおののいた。
「えええ!? 狙いってナニ!?」
「問答無用! 同じ双子同士、少し心は痛むけどアナタを排除するデス!」
短剣を逆手に構え、デイスは突進する。
その気迫に押されたクロエは、尻もちをついて倒れてしまった。
そこへすかさず、デイスが跨る。
そして首元へ短剣を突きつけた……その時!
「――アンタ達、まだこんな所で油売ってたのかい?」
ガシャーン!
蹴破られる天窓。
降り注ぐ鋭利なガラス破片と共に、一人の女がこの書物庫に着地してきた。




