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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
21/88

21 引きこもり聖女はサボリを極める(4)

「どうなってるんデスかこの大聖堂! まるで迷路デス!」


 大聖堂からの逃走を図るデイスとマイス。

 だが、部外者でしかない二人にはこの大聖堂という空間はあまりに広く、デイスも思わず本音を漏らしていた。

 

「きっともうすぐ出られマスよ」


「そうデスか? ……あ、それよりマイス、そろそろ姉ちゃんが担ぎ役をやるデスよ。疲れてるはずデスよね?」


 デイスは、マイスの肩に乗っているクロエを見ながら言った。

 思えばマイスは、かなりの時間クロエを担いでいた。

 

「大丈夫でございマス。それにお姉ちゃんは怪我人なので、無理はさせられマセン」


「心配してくれてありがとうデス。けどマイス、アナタも無理はしなくていいデスからね?」


「分かってマスよ、お姉ちゃん」


 二人は双子、それゆえに絆の深さは人一倍。

 彼女らはこの十数年間、互いに支え合って生きてきた。

 

 もちろん、このようなピンチも何度だって経験してきた。

 今、この状況において、最も有効な策は何だ――?

 

 二人の答えは、同じだった。

 

 

「とにかく突っ走るデス!」

「とにかく突っ走りマス!」


 

 だがそこへ、新たな追手の聖女が現れた。

 

「そこの二人! 止まりなさい!」


 相手は一人だけ。

 護身用の槍を持っているが、構え方からして戦闘経験は薄いように見受けられる。

 

 当然のごとく二人はそれを見抜いていた。

 互いに頷き合い――聖女の脇を華麗に抜き去る。

 

「なっ――!」


 聖女は後ろ振り向くも、すでに二人の背中は小さかった。

 しかし、二人の姿を捕捉できただけでも大きな収穫である。

 

『――各員に連絡、盗人二人はEブロック方向へ逃走中――』


 こめかみに指を当て、意識を集中。

 伝言魔法で、デイスとマイスの位置情報を他の聖女達に伝えるのであった。

 

 

 

 


 先程の聖女を振り払ってからというもの、デイスとマイスの前には次々と追手が現れていた。

 二人はなんとか躱しつつ逃走を続けるも、このままではジリ貧、時間の問題だった。

 

「すでにワタシ達の情報は割れてマスね」


「チッ、面倒(めんど)くせェー連中デス!」


「ここはいったん身を隠すのが良いと思いマス」


「そうデスね。とりあえず、あそこの部屋に行くデス!」


 ちょうど今は、追手の波が途切れていた。

 行動を起こすなら今しかない。

 二人は無我夢中になってその部屋に転がり込む。

 

「はぁ、はぁ………」


 そして急いで扉を閉め、二人はようやく一息つくことが叶った。

 が、吸う空気がなんだかジメジメしている。

 どうやらここはあまり日当たりの良くない部屋のようだ。

 

 それに加え、この独特な紙の匂い。

 辺りを見回すと綺麗に列を成す本棚も見受けられた。

 

「ここは……本屋さんデスかね?」


「お姉ちゃん、たぶん違いマス。図書館……みたいな所だと思いマス」


 息を整え終えた二人は、部屋の中を探索し始めた。

 ところが歩けど歩けど出てくるのは本棚、本棚、本棚!

 本当に本しか無い部屋のようだ。

 

「でも、そのおかげで身は隠しやすいデスね」


 のんきにデイスがそんなことを呟いた、その時。

 ギョッとするほど高く積まれた本の山の中に、一つの人影を目にした。

 そして、その人影は濃紺色の法衣を着ていた。

 

 大聖堂の聖女だ。

 

「「――――!!」」


 うかつだった。

 まさかこんな所に聖女がいるなんて。

 今日は一大イベントである礼拝の儀式がある上に、(自分達が引き起こしたとは言え)非常事態下でもある。

 

 そんな時に、こんな所にいるなんて……。

 

「サボりじゃないデスか!」



「え、誰――!?」




 デイスとマイス、それに――クロエの三人が目を合わせた。

 このクロエは、紛れもなく本物である。

 いまマイスが担いでいるのが、分身のクロエであることなど知る由もない盗賊姉妹は、互いに顔を合わせて目をパチクリさせた。

 

 そしてクロエの方は、さらに目をパチクリさせていた。

 あの肩に担がれているのは、間違いなく自分の分身だ。

 

 闇魔法を使っていることが、バレた――

 

「まさか、アナタ達も双子(・・)だったんデスか……?」


「え、双子?」


 と、思ったらそんなことはなかった。

 デイスの言葉に、クロエは思わず素っ頓狂な声を上げる。

 どうやら向こうは勘違いをしているらしい。


(そっか、普通はそう考えるよね……)


 クロエはそっと胸をなでおろす。

 同じ顔の人間が二人いたとして、誰が「分身魔法を使った」と考えようか。

 思えばクロエ自身も、最初に分身魔法を発動した時は「双子ができた」と感じていた。

 

 それが普通だ。

 

 ――あれ?

 

 ――これ、乗っかる手しかない?

 

 ――よし、乗ったれ!

 

「じ、実はそうなんだよ。ボク達、双子なんだよね。ははは……」


「そーだったんデスか! 実はアタシ達も双子なんデス!」


「そうなの!? あ、よく見ればキミ達も似てるね!」


「アタシ達以外の双子に会ったのは初めてデス!」


「そっかぁ。で、なんでボクのぶ……妹をここに連れてきたの?」


「あー、ええっとデスね……実はそこの廊下に倒れてたんデス。それで、とりあえず安静にさせようと思ってここに連れてきた次第デス」


 恐ろしいことに、この一連の会話にはかなりの嘘が混じっている。

 だが、その真偽を確かめる術はない。

 なのでクロエはデイスの言葉を信じたし、逆にデイスもクロエの言葉を信じていた。

 

「そっかそっかぁ。キミ達には迷惑かけちゃったね」


「どうってことないデス。さ、マイス、この人に妹さんを渡すデス」


(えっ……お姉ちゃん、それは不味いと思いマス)


 マイスは、デイスの耳元で囁いた。


「なぜデス!? それじゃまるで人攫い……ひと、さらい……ハッ!」


 デイスは何かを思い出したように目を大きく見開いた。

 そう、デイスはクロエと話しているうちに、自分の目的を忘れかけていたのだ。

 

「思わず口車に乗る所デシタ……アナタ、それが狙いだったのデスね!」


 突然、臨戦態勢に入ったデイス。

 その手には短剣が握られており、クロエは恐れおののいた。

 

「えええ!? 狙いってナニ!?」


「問答無用! 同じ双子同士、少し心は痛むけどアナタを排除するデス!」


 短剣を逆手に構え、デイスは突進する。

 その気迫に押されたクロエは、尻もちをついて倒れてしまった。

 そこへすかさず、デイスが跨る。

 

 そして首元へ短剣を突きつけた……その時!

 

「――アンタ達、まだこんな所で油売ってたのかい?」


 ガシャーン!

 蹴破られる天窓。

 降り注ぐ鋭利なガラス破片と共に、一人の女がこの書物庫に着地してきた。

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