20 引きこもり聖女はサボリを極める(3)
「上手くいったデスね!」
「そーでございマスね!」
廊下を走りながら、二人はフードを取り去る。
顕になったその顔は驚くほど似ていた。
実際、彼女らは双子の姉妹である。
前を先導するのがデイス、後ろでクロエを担いでいるのがマイス……いや、「デス」が口癖なのがデイスで、「マス」が口癖なのがマイスと言ったほうが分かりやすいか。
そして、言うまでもなく彼女らは盗賊――『黒鉄盗賊団』の一味であった。
「いーデスか? 痛い目に遭いたくなかったら、大人しくしてるデス」
「承知しました」
「おぉぅ、やけに素直デスね……」
「なんか調子狂いマス」
二人は廊下の曲がり角を曲がろうとした。
だがその瞬間、二人の視界は真っ赤に染まる。
「――なんデス!?」
燃える炎の赤色だった。
いきなり飛んできた炎球を、左右に別れて回避する二人。
再び目を前に向けると、そこには赤い髪の聖女が立ちふさがっていた。
「なんだか知りませんけど、これ以上の狼藉はわたくしが許しませんわ」
それはライナだった。
突き出された手の平からは、炎球が発射された後なのか白煙が上っている。
「ク……クロエ様を離しなさい!」
ライナの後ろには、武器代わりのモップを手にしたユノも立っていた。
「2対2でございマスか……けどワタシが人質を担いでる分、こちら側が不利な気がしマスね」
「いーえ、戦力差は互角なはずデス。たぶん、後ろの小っこいのは弱いデス!」
「では実質、1対1でございマスか!」
「そういうことデス。だから、マイスは後ろに下がってるデス!」
「了解でございマス!」
マイスは後退、デイスは短剣を構えて臨戦態勢に入る。
「どうやら向こうはヤる気みたいですわね」
話に応じない盗賊二人を見て、ライナはため息をつく。
が、その直後にカッと目を見開き、
「……ま、あたしはこっちの方が得意なんだけどねェッ!」
挨拶代わりの炎球を一発。
デイスの眉間に目掛け、無詠唱で放った。
「うおぅ、危ねェーデス!」
頭を後ろに逸らし、間一髪回避するデイス。
「ライナ様!? 口調が……」
ユノはライナの豹変に驚いていた。
「ん? あたしの口調は、元々こんな感じですわ?」
「……! そう言えばそうでしたね……!」
ユノの脳裏に、ライナが初めて大聖堂を訪れた日の記憶が蘇った。
しかし嫌な思い出も、喉元を過ぎればなんとやら。
むしろこの口調のライナは、頼もしさが五割増な気さえする。
「くっ、炎魔法は厄介デスが……懐に入り込めば!」
デイスは身をかがめて突進、接近戦を試みる。
実際、魔法使い相手に接近戦は非常に有効な戦法である。
だが、有効なだけであって、必勝法というわけではない。
「そっちからあたしの間合いに入ってくるなんて……いい度胸じゃない」
「――――ッ!」
ライナのただならぬ雰囲気に圧され、デイスの体勢がわずかに仰け反る。
「――《炎拳》」
怯んだことで隙が生まれたデイスの胴体に、炎を纏った左フックが炸裂!
ライナの拳が振り抜かれると同時に、デイスは吹っ飛ぶ。床を二転三転。
「ふっ……」
ライナはマッチの火を消すがごとく、拳に息を吹きかけた。
その表情は、彼女の性格を体現したかのような愉悦で満ちている。
この『《炎拳》』という魔法は、ライナが最も得意とする術の一つである。
魔法名が示すとおり、拳に宿した炎で相手を打ち砕くという、シンプルながらも強力な接近戦用魔法だ。
それゆえに、デイスが取った戦略はこの状況だと悪手だと言えた。
図らずして彼女は、相手の領域で戦ってしまったのだ。
「だ、大丈夫でございマスか!?」
マイスは、自分の足元まで転がってきたデイスを心配する。
「大丈夫デス、お腹のお肉がちょっと焼けただけデス」
おもむろに立ち上がるデイス。
だが、その足取りはふらついており、とても戦える状態ではなかった。
「さぁ、追い詰めましたわ。観念なさい」
ライナは距離を詰めていき、間接的に降伏を促す。
しかし相手は盗賊、諦めの悪さは超一流だ。
「仕方ないデスね……マイス! 奥の手を使うデス!」
「合点承知! 奥の手、発動しマス!」
マイスは服の裏側から玉のような何かを取り出し、それを床に投げつけた。
するとその玉は半分ずつに割れ、中から勢いよく白煙が噴出し、またたく間に廊下中に広がった。
「煙玉!? けほっ、けほっ、なんて卑怯な真似ですこと……!」
「なははははは! 逃げるが勝ちデス!」
デイスの声が遠くから聞こえてきた。
この様子ではもう逃げられた後だろう。
仕方なくライナは追跡を断念し、背後を振り向いた。
すると、目の前を何かがかすめ通った。
……モップだった。
「コラー! 逃げるなんて卑怯ですよー! 正々堂々戦いなさーい!」
白煙で視界が制限される中、ユノがモップを手当たりしだいに振り回していたのだ。
「ちょ、ちょっと! こんな所で振り回さないでくださいまし!」
ブンッ、ブンッ――。
ライナの声はユノには届いていない。
ブンッ、ブンッ――。
しかし、このモップのスイングにより、ライナとユノの周りだけは煙が晴れていった。
そしてやはり、盗賊二人の姿は跡形もなく消えていた。
「あ、ライナ様! 無事でしたか!?」
「貴女のモップの方が身の危険を感じましたわ」
「ハッ……も、申し訳ありません……」
「まあ別にいいですわ。今はそれよりも、あのコソ泥共を追いませんと」
「そうですね……クロエ様の無事も気になります」
「――クロエなら無事なはずよ」
その時、白煙の向こうからエリシアが姿を表した。
「遅かったですわね。……で、なぜそう言い切れるんです?」
ライナが、エリシアの言葉の真意を問いただす。
するとエリシアは、冷静な表情を崩さずこう答えた。
「あのクロエは、偽者よ」
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