表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
20/88

20 引きこもり聖女はサボリを極める(3)

「上手くいったデスね!」


「そーでございマスね!」


 廊下を走りながら、二人はフードを取り去る。

 顕になったその顔は驚くほど似ていた。

 実際、彼女らは双子の姉妹である。

 

 前を先導するのがデイス、後ろでクロエを担いでいるのがマイス……いや、「デス」が口癖なのがデイスで、「マス」が口癖なのがマイスと言ったほうが分かりやすいか。

 

 そして、言うまでもなく彼女らは盗賊――『黒鉄(くろがね)盗賊団』の一味であった。

 

 

「いーデスか? 痛い目に遭いたくなかったら、大人しくしてるデス」


「承知しました」


「おぉぅ、やけに素直デスね……」


「なんか調子狂いマス」


 二人は廊下の曲がり角を曲がろうとした。

 だがその瞬間、二人の視界は真っ赤に染まる。

 

「――なんデス!?」


 燃える炎の赤色だった。

 いきなり飛んできた炎球を、左右に別れて回避する二人。

 再び目を前に向けると、そこには赤い髪の聖女が立ちふさがっていた。

 

「なんだか知りませんけど、これ以上の狼藉はわたくしが許しませんわ」


 それはライナだった。

 突き出された手の平からは、炎球が発射された後なのか白煙が上っている。

 

「ク……クロエ様を離しなさい!」


 ライナの後ろには、武器代わりのモップを手にしたユノも立っていた。

 

「2対2でございマスか……けどワタシが人質を担いでる分、こちら側が不利な気がしマスね」


「いーえ、戦力差は互角なはずデス。たぶん、後ろの小っこいのは弱いデス!」


「では実質、1対1でございマスか!」


「そういうことデス。だから、マイスは後ろに下がってるデス!」


「了解でございマス!」


 マイスは後退、デイスは短剣を構えて臨戦態勢に入る。

 

「どうやら向こうはヤる気みたいですわね」


 話に応じない盗賊二人を見て、ライナはため息をつく。

 が、その直後にカッと目を見開き、

 

「……ま、あたし(・・・)はこっちの方が得意なんだけどねェッ!」


 挨拶代わりの炎球を一発。

 デイスの眉間に目掛け、無詠唱で放った。


「うおぅ、危ねェーデス!」


 頭を後ろに逸らし、間一髪回避するデイス。

 

「ライナ様!? 口調が……」


 ユノはライナの豹変に驚いていた。


「ん? あたしの口調は、元々こんな感じですわ?」


「……! そう言えばそうでしたね……!」


 ユノの脳裏に、ライナが初めて大聖堂を訪れた日の記憶が蘇った。

 しかし嫌な思い出も、喉元を過ぎればなんとやら。

 むしろこの口調のライナは、頼もしさが五割増な気さえする。

 

「くっ、炎魔法は厄介デスが……懐に入り込めば!」


 デイスは身をかがめて突進、接近戦を試みる。

 実際、魔法使い相手に接近戦は非常に有効な戦法である。

 

 だが、有効なだけであって、必勝法というわけではない。

 

「そっちからあたしの間合いに入ってくるなんて……いい度胸じゃない」


「――――ッ!」


 ライナのただならぬ雰囲気に圧され、デイスの体勢がわずかに仰け反る。

 

「――《炎拳(ブレイズ)》」


 怯んだことで隙が生まれたデイスの胴体に、炎を纏った左フックが炸裂!

 ライナの拳が振り抜かれると同時に、デイスは吹っ飛ぶ。床を二転三転。

 

「ふっ……」


 ライナはマッチの火を消すがごとく、拳に息を吹きかけた。

 その表情は、彼女の性格を体現したかのような愉悦で満ちている。

 

 この『《炎拳(ブレイズ)》』という魔法は、ライナが最も得意とする術の一つである。

 魔法名が示すとおり、拳に宿した炎で相手を打ち砕くという、シンプルながらも強力な接近戦用魔法だ。

 

 それゆえに、デイスが取った戦略はこの状況だと悪手だと言えた。

 図らずして彼女は、相手の領域(テリトリー)で戦ってしまったのだ。

 

「だ、大丈夫でございマスか!?」


 マイスは、自分の足元まで転がってきたデイスを心配する。

 

「大丈夫デス、お腹のお肉がちょっと焼けただけデス」


 おもむろに立ち上がるデイス。

 だが、その足取りはふらついており、とても戦える状態ではなかった。

 

「さぁ、追い詰めましたわ。観念なさい」


 ライナは距離を詰めていき、間接的に降伏を促す。

 しかし相手は盗賊、諦めの悪さは超一流だ。

 

「仕方ないデスね……マイス! 奥の手を使うデス!」


「合点承知! 奥の手、発動しマス!」


 マイスは服の裏側から玉のような何かを取り出し、それを床に投げつけた。

 するとその玉は半分ずつに割れ、中から勢いよく白煙が噴出し、またたく間に廊下中に広がった。

 

「煙玉!? けほっ、けほっ、なんて卑怯な真似ですこと……!」


「なははははは! 逃げるが勝ちデス!」


 デイスの声が遠くから聞こえてきた。

 この様子ではもう逃げられた後だろう。

 仕方なくライナは追跡を断念し、背後を振り向いた。

 すると、目の前を何かがかすめ通った。

 

 ……モップだった。

 

「コラー! 逃げるなんて卑怯ですよー! 正々堂々戦いなさーい!」


 白煙で視界が制限される中、ユノがモップを手当たりしだいに振り回していたのだ。

 

「ちょ、ちょっと! こんな所で振り回さないでくださいまし!」


 ブンッ、ブンッ――。

 ライナの声はユノには届いていない。

 

 ブンッ、ブンッ――。

 しかし、このモップのスイングにより、ライナとユノの周りだけは煙が晴れていった。

 そしてやはり、盗賊二人の姿は跡形もなく消えていた。

 

「あ、ライナ様! 無事でしたか!?」


「貴女のモップの方が身の危険を感じましたわ」


「ハッ……も、申し訳ありません……」


「まあ別にいいですわ。今はそれよりも、あのコソ泥共を追いませんと」


「そうですね……クロエ様の無事も気になります」



「――クロエなら無事なはずよ」



 その時、白煙の向こうからエリシアが姿を表した。

 

「遅かったですわね。……で、なぜそう言い切れるんです?」


 ライナが、エリシアの言葉の真意を問いただす。

 するとエリシアは、冷静な表情を崩さずこう答えた。


「あのクロエは、偽者よ」



 

 ◆ ◆ ◆

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ