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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
18/88

18 引きこもり聖女はサボリを極める(1)

 礼拝の儀式、当日の朝。

 この日、クロエを引っ張り出すために書物庫へ向かっていたのは、エリシアではなくライナだった。

 駄々っ子の相手をするのもシスターの役目。そんなことをエリシアに言われ、渋々引き受けることになったのだ。

 

 だがライナにとって、書物庫は苦い思い出しかない場所。

 そこへ向かう足取りは当然重く、憂鬱な気分でしかなかった。

 しかもクロエに会うとなれば尚更だった。

 

 

 尚更だった、はずだった。

 

 

 

「――――承知しました」


「へっ…………?」


 クロエは書物庫に入った瞬間に見つけた。

 しかも駄々もこねずに、ライナの命令に従った。

 その意外な反応に、ライナは唖然となった。

 

(おかしいですわね……もっと抵抗してくると思いましたのに)


 エリシアが言うには、書物庫に入ったらまずかくれんぼが始まるとのこと。

 どうしてもサボりたいクロエが、身を隠してやり過ごそうとするからだ。

 だが実際はこの通り、書物庫に入ってすぐの所に立っていた。

 

 ――見つからない時は『追い出されてもいいの』とでも言いなさい。そしたら向こうから勝手に出てくるわ。

 

 ――そしてクロエを見つけたら本番よ。力づくでも何でもいいから、とにかく外に連れ出しなさい。

 

 ――あと、決してクロエの言葉に耳を貸しちゃ駄目よ。

 

 などという、エリシアからの助言も無駄になってしまった。

 それに加え、口調もなんだか変だ。ライナの記憶にあるクロエ像は、家政婦みたいに「承知しました」なんて言わない。

 

(……まあいいですわ。楽なことに越したことはありませんし)


 ライナは違和感に目をつむることにし、外に出るよう命じた。

 それに対してクロエはまたも「承知しました」と答えた。

 

 そして書物庫からは、人の姿が消えた。

 

 

 ……………………。

 

 

 いや、まだ一人。

 ライナとクロエが去った数分後、本棚の陰から人影がぴょこっと現れる。

 

「よぅし、出だしは順調だね」

 

 それはクロエ(・・・)だった。

 

 こっそり抜け出して帰ってきたわけではない。

 このクロエ(・・・・・)は、ライナが来るよりずっと前から身を潜めていた。

 言うなれば彼女は、本物のクロエだ。

 

 そして今ライナと一緒に歩いているのが、クロエの偽者(・・)

 幻影魔法『《корёг(コペル)》』によって影から創られた分身である。

 

 クロエは一度失敗した替え玉作戦を、三ヶ月という月日を置いて再度挑戦しようというのだ。

 

 当然、同じ轍は踏まない。

 前回は分身があまりに精巧すぎて、クロエ本体の自堕落な性格まで模倣してしまい、替え玉にしようにも言うことを聞かなかった。

 しかしそこは、洗脳魔法『《ихяя(ノゥーラ)》』を施すことにより、愚直なまでに素直な操り人形のようになったことで解決した!

 

 ……と言いたいところだが、実際に出来上がった分身は感情が死んでおり、しかも言葉も「承知しました」としか発さない。

 

 でも一応は命令を聞くようになったし、肝心の『聖歌』も歌えるようにはしている。

 

 ――だから、まあいいかな。

 

 クロエはこれで妥協することにし、分身を替え玉として送り出した。

 もちろん違和感は無いほうがいい。しかし礼拝の儀式におけるクロエの出番なんて、聖歌を歌うだけだから10分にも満たないくらいだ。準備も含めれば一時間弱ほど。

 なので偽者だとバレる前に事は終わる。問題なし!

 

 というわけで分身が帰ってくるまでの間、クロエは闇魔法の実験でもして時間をつぶすことにした。

 

 昨日やったように、ランダムなページを開いてそこに載っている魔法をやってみる、という方法で。

 

 早速クロエは目を閉じ、魔導書を適当にパラパラとめくる。

 そうして開かれたのは、52ページ目――これもまた、未だに試していない魔法だった。

 

 

「中級幻惑術、序列の五十二番――――…………なるほどなるほど、こりゃまた恐ろしい魔法だぁ」




 ◆ ◆ ◆

 



「ところで知ってるデスか? ロージア大聖堂の歌姫……確か名前はクロエって奴なんデスけど」


「あー、なんとなくは知ってマス。すっごく綺麗な歌声を持ってマス」


「じゃあこうは思わないデスか? ソイツの歌声は『金』を生むはずデス! ……って」


「思いマス思いマス! ……ってまさか、ソイツを攫おうって話でございマスか!?」


「そのまさかデス! ソイツを攫えば大儲け出来るデス! なははははは!」



「…………それは妄想の話かい?」



「あっ、(ねえ)さん! 大丈夫デス、ちゃんと策はあるデス」


「……ほぉう、『礼拝の儀式』を狙うのかい。アンタにしちゃあ、いいこと思いついたねェ」


「やったデス、褒められちゃったデス」


「けど、まだまだ詰めが甘いねェ。アタシならここでこの手を打つねェ……」


「うわ、さすが姐さんデス! 考えることが一々(きたね)ェーデス!」


「……あとでお仕置き」


「ひぃぃいい! そ、それだけは勘弁デス!」


「はぁ、まったく……。言っていいことと悪いことがあるよ」


 姐さんと呼ばれた一際背の高い彼女は、部下の口の悪さを嘆き、深い溜め息をついた。

 

 ――お前達は一応、年頃の女の子(・・・)なんだからさぁ……。

 

 とある女盗賊団(・・・・)での一幕であった。

 なお、一番口が悪いのは言うまでもなく姐さんである。


 今回の『礼拝の儀式』は、水面下で色々な思惑が交差しているようだ――。

 


 ◆ ◆ ◆

 


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